第6話:初の黒字化
「このままだと、今月で終わりです」
あの宣言から、三日。
村の空気は、明らかに変わっていた。
慌ただしく動き回る人影。
止まっていた作業が、次々と再開されている。
――全部、予定通りだ。
「そっちは終わったか」
俺が声をかけると、木材を運んでいた男が振り向いた。
「ああ! 外注してた修繕、全部止めた! 自分たちでやるようにしたら、思ったより回るな!」
「コストは?」
「半分以下だ!」
十分だな。
頷いて、次へ向かう。
広場では、エリシアが何人かに指示を出していた。
「収穫物はまとめて管理! 勝手に商人に売るのは禁止!」
「で、でも売らないと金が……」
「まとめて売った方が高くなるって話だろ!」
視線がこちらに向く。
「……本当に、上手くいくの?」
「いきますよ」
即答する。
「今までが悪すぎただけです」
エリシアは一瞬だけ目を細め、それから小さく頷いた。
……いい判断だ。
現場が迷わない。
それが一番重要だ。
さらに村を歩く。
流通はすでに変わり始めている。
【中間業者:排除】
【販売価格:上昇】
【利益率:改善】
数字が、はっきりと示していた。
無駄が削られ、流れが整っている。
そして――
(ここからが本番だな)
広場に戻り、全員を集める。
視線が一斉に集まる。
期待と、不安と、わずかな疑い。
それでいい。
「最後の仕上げをします」
俺は言った。
「今まで、個別に売っていたものを全部まとめます」
「まとめるって……全部か?」
「はい。まとめて、一番条件のいい相手に売る」
「そんな相手いるのかよ」
「いますよ」
俺は軽く笑う。
「“探せば”」
ざわ、と空気が動く。
実際には、もう目星はついている。
さっき街で見た別の商人。
規模は小さいが、回転率が高い。
つまり――
(まとめて仕入れる需要がある)
そこにぶつける。
「あと」
俺は続ける。
「余剰分で小さな商売を回します」
「商売?」
「簡単な加工です」
指で示す。
「そのまま売るより、少し手を加えた方が価値が上がる」
「そんなこと……できるのか」
「できます」
言い切る。
「やり方は教えます」
完全に、空気が変わった。
疑いが消え、“やるしかない”に変わる。
――ここまで来れば、もう勝ちだ。
あとは回すだけ。
◇
――そして、数日後。
再び、集会所。
全員が集まっていた。
空気は、前とはまるで違う。
重苦しさはない。
代わりにあるのは――緊張と期待。
「……で、どうなんだ」
誰かが問う。
俺は帳簿を開いた。
ページをめくる。
数字が並ぶ。
だが、それはもう“赤”ではない。
静かに、全員を見渡す。
誰もが息を呑んでいる。
その中で、俺は淡々と告げた。
「収入、増加」
一行。
「支出、大幅削減」
二行。
「流通改善、成功」
三行。
そして――
最後の一行に指を置く。
視線がそこに集まる。
ほんの一瞬、間を置いて。
はっきりと言い切った。
「――黒字化、完了です」




