第49話:リディア覚醒(政治)
「規模が違いますね」
その現実は、すでに王都にも届いていた。
◇
王都、貴族院。
重厚な扉の内側で、ざわめきが広がっている。
「あり得ん」
「一商会の崩壊で、ここまで……」
「地方の問題ではないぞ、これは」
声は低く、だが焦りを含んでいた。
机の上に並ぶのは、各地からの報告。
物流混乱。
価格異常。
取引停止。
どれも、無視できる規模ではない。
◇
「原因は明確です」
その中で、一人の声が静かに響く。
リディア。
かつて“切り捨てた側”の少女。
だが今は――違う。
「中核商会の崩壊」
「それに伴う信用収縮」
「そして」
一拍。
「構造依存の露呈です」
視線が集まる。
だが、誰も軽くは見ない。
もう、知っているからだ。
彼女が“見えている側”だと。
◇
「では、どうする」
年配の貴族が問う。
試すような視線。
だが、リディアは一切揺れない。
「三点です」
即答する。
「分散」
「開示」
「強制力」
「……具体的に」
「はい」
◇
「まず、流通の分散」
「特定商会への依存を解消します」
「複数ルートの義務化」
「独占の禁止」
「……理想論だな」
「違います」
きっぱりと否定する。
「実行可能です」
その一言で、空気が変わる。
◇
「次に、契約の開示」
「不透明な条項の禁止」
「重要条件の公開義務」
「……商人が嫌がるぞ」
「ええ」
「ですが」
一拍。
「拒否すれば、排除するだけです」
静かな圧。
だが、明確な意思。
◇
「最後に、強制力」
「監査権限の拡張」
「違反時の即時介入」
「……そこまでやるか」
「必要です」
迷いなく答える。
「今回、分かったはずです」
「放置すれば、崩れると」
沈黙。
反論は出ない。
出せない。
◇
「……誰の考えだ」
ふと、一人が問う。
リディアは一瞬だけ目を伏せた。
そして――
「私の判断です」
そう答えた。
嘘ではない。
だが、全てでもない。
◇
(見ているだけでは、守れない)
あの街で、思い知った。
構造を理解するだけでは足りない。
動かさなければ、意味がない。
だから――
今、ここにいる。
◇
「……やれるのか」
最後の問い。
重い問い。
だが。
リディアは、まっすぐに答えた。
「やります」
迷いなく。
逃げずに。
◇
ざわめきが、少しずつ変わる。
否定ではなく、検討へ。
そして――
動きへ。
◇
会議が終わる。
人が去り、静寂が戻る。
リディアは一人、窓の外を見た。
遠く。
あの街の方向を。
◇
(あなたのやり方は、理解した)
(そして――)
(使う)
同じ思想で。
別の戦場で。
◇
静かに息を吐き、踵を返す。
もう迷いはない。
やるべきことも、分かっている。
だから。
はっきりと、自分に言い聞かせるように。
「ここからは私の仕事です」




