第48話:余波
「こちらの勝ちです」
その宣言から、三日。
勝利は――“広がっていた”。
◇
「報告です」
執務室に入ってきた使者が、いつもより硬い表情で言う。
「周辺三領、物流混乱」
「価格指標、大幅変動」
「取引停止、連鎖しています」
「……広がってるね」
エリシアが呟く。
「ええ」
俺は頷いた。
予想はしていた。
だが――
(ここまでとはな)
◇
「原因は明確です」
使者が続ける。
「当該商会の崩壊により」
「中継機能が消失」
「各地で供給断絶が発生」
「さらに――」
一拍。
「信用不安が波及しています」
典型的な連鎖だ。
一つの中核が崩れれば、全体が揺らぐ。
◇
「ねえ」
エリシアが小さく言う。
「これって……」
「はい」
俺は答える。
「もう“この街の話”ではありません」
◇
机の上に、新しい資料を広げる。
広域の取引データ。
価格の推移。
物流の流れ。
「見てください」
「……うわ」
エリシアが顔をしかめる。
「ぐちゃぐちゃじゃん」
「ええ」
「均衡が崩れています」
これまで、一つの商会が担っていた“調整機能”。
それが消えた。
結果――
「過剰と不足が同時に発生している」
「ある場所では余る」
「ある場所では足りない」
「……最悪の状態だね」
「その通りです」
◇
「王都は?」
エリシアが聞く。
「動いてる?」
「ええ」
別の書類を取り出す。
「監査機関、緊急対応中」
「各領に指示を出しています」
「でも」
一拍。
「追いついていません」
「……だよね」
規模が違う。
速度が違う。
そして――
影響範囲が、広すぎる。
◇
「これ、責任とか来ない?」
エリシアが少し不安そうに言う。
「来ます」
「即答だね……」
「ええ」
隠す必要もない。
「今回の引き金は、我々です」
「でもさ」
「不正を暴いたのは正しいじゃん」
「ええ」
「ですが」
「結果もまた事実です」
市場は崩れた。
連鎖も起きた。
それは、否定できない。
◇
「……どうするの?」
エリシアが静かに聞く。
「このままだと、もっと広がるよ?」
「ええ」
俺は頷いた。
そして、少しだけ考える。
これはもう、防御ではない。
攻撃でもない。
◇
(調整だ)
壊れたものを、繋ぎ直す。
それが、次の役割になる。
◇
「対応します」
短く言う。
「どうやって?」
「流れを作る」
「……また?」
「ええ」
だが今回は、違う。
「誘導ではありません」
「調整です」
過不足を均す。
偏りをならす。
そして――
全体を回す。
◇
「できるの?」
エリシアが聞く。
「難しいです」
「でも」
一拍。
「やるしかありません」
放置すれば、広がるだけだ。
なら――
動く。
◇
俺は再び資料に目を落とす。
これはもう、一つの街の問題ではない。
領地でもない。
もっと大きい。
国全体。
経済そのもの。
その流れに、触れている。
だから。
小さく、だが確かに呟く。
「規模が違いますね」




