第29話:物流封鎖
「君、面白いね」
あの言葉から、三日。
街は――何も変わっていないように見えた。
人は動き、
商品は売れ、
金は回る。
だが。
(来るな)
確信だけがあった。
あの男は、遊びで来たわけじゃない。
“確認”した。
なら次は――
“実行”だ。
◇
「……遅いな」
倉庫前で、エリシアが呟く。
「いつもなら、もう来てる時間だよね?」
「ええ」
俺は時計代わりの砂を一瞥する。
すでに、予定時刻は過ぎている。
「荷馬車、見えないね」
「来ませんね」
短く答える。
空は晴れている。
道も問題ない。
事故の気配もない。
それなのに来ない。
理由は一つだ。
(止められている)
「別ルートは?」
「確認済みです」
別の報告書を広げる。
「北側、未着」
「西側、未着」
「南側――」
一拍。
「こちらも未着です」
エリシアの顔が固まる。
「……全部?」
「はい」
「そんなこと、ある?」
「普通はありません」
だが。
「今は普通じゃない」
沈黙。
空気が、じわじわと重くなる。
◇
昼過ぎ。
倉庫の中は、妙に静かだった。
いつもなら、荷の積み下ろしで騒がしいはずだ。
だが今は――
「在庫、どれくらい?」
エリシアが低い声で聞く。
「食料は三日分」
「資材は……二日」
「少ないね」
「ええ」
即答する。
「補充前提の量です」
つまり。
「止まれば、尽きる」
それが、この街の構造だ。
成長と引き換えに、依存は増えた。
流通に。
外部に。
そして――
(そこを突かれた)
「ねえ」
エリシアが少し声を落とす。
「これって……」
「はい」
言葉を引き取る。
「狙われてます」
確定だ。
「でも、どうやって?」
「いくつか方法はあります」
指を折る。
「道の封鎖」
「契約の差し止め」
「あるいは」
一瞬、目を細める。
「“金”で止める」
「……金?」
「ええ」
「運ぶな、と」
「……」
エリシアが息を呑む。
「そんなの、みんな従うの?」
「従いますよ」
あっさり言う。
「損をしないなら」
「むしろ得をするなら」
それが商売だ。
善悪じゃない。
「じゃあ……」
「はい」
結論は一つ。
「完全に止められてます」
静かに告げる。
◇
そのとき、扉が勢いよく開いた。
「報告です!」
駆け込んできた男が、息を切らしながら言う。
「街道で、荷馬車を確認しました!」
「本当!?」
エリシアが食いつく。
「はい、ですが――」
男は言葉を詰まらせた。
「止まっています」
「……止まってる?」
「はい」
「動かないそうです」
理由は聞くまでもない。
「そうですか」
俺は静かに頷いた。
頭の中で、すべてが繋がる。
市場操作。
契約変更。
そして――物流封鎖。
全部、一本の線だ。
「どうするの?」
エリシアがこちらを見る。
その目には、明確な焦りがあった。
当然だ。
これは“生命線”だ。
「……対策はあります」
俺はゆっくりと言った。
「ただし」
一拍。
「即効性はない」
「……じゃあ」
「耐えるしかないですね」
現実的な答えだった。
だが。
(それが一番きつい)
削られる。
じわじわと。
確実に。
そして――
相手はそれを分かってやっている。
俺は小さく息を吐いた。
そして、静かに言う。
「……止められましたね」




