第19話:人口流入
「これ、売れますよ」
その一言から、流れは加速した。
干し果物は、あっという間に広まった。
他の村人も真似をし、
改良し、
別の商品を生み出す。
小さな商売が、連鎖する。
【小規模取引:増加】
【現金流通:活性化】
【利益発生:継続】
数字は、明らかに変わっていた。
そして――
「……人が増えてる」
エリシアが広場を見ながら呟く。
「ええ」
俺も視線を巡らせる。
見慣れない顔が多い。
荷を持ったまま立ち尽くす者。
周囲を観察している者。
誰かに話しかけようとして、躊躇している者。
“外”から来た人間だ。
「どこから来たんだ?」
村人の一人が声をかける。
その中の男が、少し戸惑いながら答えた。
「……隣の村からだ」
「隣って、あの干ばつの?」
「そうだ」
短い返事。
だが、それだけで十分だった。
状況は想像できる。
「こっちは、稼げるって聞いてな」
別の男が続ける。
「本当かどうか、確かめに来た」
ざわ、と空気が揺れる。
“噂”が、外に出ている。
「誰から聞いたんだ?」
「行商人だよ」
「ここは、ちゃんと金になるって」
エリシアが小さく息を呑む。
「……広まってる」
「ええ」
俺は頷いた。
「“稼げる場所”として認識され始めてます」
それはつまり――
人が集まる。
「でも」
エリシアが眉をひそめる。
「簡単に受け入れていいの?」
「いい質問です」
俺は軽く笑った。
「無条件はダメです」
「だよね」
「でも、拒絶もしません」
「……どうするの?」
「選別します」
シンプルだ。
「働く意思があるか」
「ルールを守れるか」
「それだけ見ればいい」
「……それなら」
エリシアが頷く。
「回せるかも」
そのとき。
「頼む!」
一人の男が、前に出てきた。
やややつれた顔。
だが、目は死んでいない。
「仕事があるなら、何でもやる!」
その声に、周囲が静まる。
「畑でもいい、荷運びでもいい!」
「とにかく、働かせてくれ!」
必死だ。
追い詰められているのが分かる。
だが、それだけじゃない。
“掴もうとしている”。
その意思がある。
「……名前は?」
エリシアが一歩前に出て聞く。
「ガルドだ」
「経験は?」
「農業は一通り。あと、簡単な修理ならできる」
「嘘じゃない?」
「つく意味がない」
即答だった。
いいな。
覚悟がある。
エリシアが一瞬だけこちらを見る。
俺は小さく頷いた。
任せる。
彼女が決める場面だ。
「……分かった」
エリシアが言う。
「仕事はある」
男の表情が一気に変わる。
「ただし」
一歩踏み込む。
「ルールは守ってもらう」
「もちろんだ!」
「違反すれば、出ていってもらう」
「……分かった」
「それでもいい?」
「いい!」
迷いはなかった。
その瞬間。
空気が変わる。
“受け入れ”が成立した。
「じゃあ、ついてきて」
エリシアが背を向ける。
男はすぐに後を追った。
それを見ていた他の者たちも、ざわめき始める。
「俺も……」
「仕事、あるなら……」
一歩、また一歩と前に出る。
流れが生まれる。
人が、人を呼ぶ。
「……一気に増えるね」
エリシアが振り返りながら言う。
「ええ」
俺は静かに答える。
「ここからが本番です」
人口が増える。
それは“力”だ。
だが同時に、“負荷”でもある。
管理しなければ、崩れる。
だが――
(回せるな)
今の体制なら、いける。
エリシアもいる。
仕組みもできてきた。
だから。
この流れは、止めない。
止める理由がない。
そのとき。
一人の女が、恐る恐る前に出てきた。
腕に、小さな子どもを抱いている。
「……あの」
か細い声。
だが、必死だ。
「ここ……」
言葉を探すように、口を開く。
そして、絞り出すように言った。
「ここ、住ませてくれませんか?」




