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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「メイド殺人事件」編
18/85

18 夕食


 その日の夕食。


 俺とマチルダはマリアナに誘われて、スクワード家の食事に同席することとなった。

 その日は家長であるシード=スクワードと細君のフェル=スクワードの二人も一緒に食事を摂るらしく、駄々広い食堂に通された。

 相変わらず目に染みるようなキラキラした装飾品が五月蝿い。

 燭台から食器から、ずらりと並ぶもの全てが意匠の凝った奢侈品。

 そして食事机が長いこと長いこと。

 上座に座るシードとその斜向かいに座る奥様の遠いこと遠いこと。

 

「今日は楽しんでくださいましね」


 遠くの席から、フェルがにこやかに言った。

 そしてそれきり、彼女は何も喋らなかった。

 顔も真顔に戻り、まるで人形のように機械的に食事を済ませた。

 シードに至っては挨拶をすませると後は完全な黙食だった。

 俺たちに一言もかけることもなく、ただ酒を飲んでいた。

 それから途中で何やらお付きの人間と耳打ちしたあと、中座して戻って来なかった。

 こんなに絵に描いたような形骸化したもてなしがあるだろうか。


 反対側に目をやると、今度は比較的近くにスクワード三姉妹が座っていた。

 3人並ぶとなんとも華やかだった。

 街一番の美人姉妹というのは過称ではなかった。 

 しかし彼女たちもまた、誰一人会話をしなかった。

 長女のマリアナはうっとりとマチルダに見惚れていた。

 次女のシャーロットはほとんど食事に手をつけず、ただただその時間が過ぎるのを待っている、という感じ。

 三女のフランシーヌはというと――


「何よ、この冷めたスープは!」


 ヒステリックな声を上げ、バン、とスプーンをテーブルに叩きつけた。


「今日の料理長は誰なの!? いいえ、料理を作った人間が誰かは関係ないわ! あなた! あなたの運び方に問題があるのよ! いつも言っているでしょう! スープは出来立てを持って来なさいと! あなたがチンタラ運んでるから冷めてしまうのよ!」


 若いメイドが、フランシーヌの前ですいませんすいませんと繰り返し頭を下げている。

 フランシーヌの怒りは収まらず、手にしていたワインを彼女の顔めがけてぶちまけた。

 俺は思わず「あ」と声に出した。

 フランシーヌは俺の方を一睨みすると、「もういいわ。あなた、後で私の部屋に来なさい」とメイドに命じて席を立った。

 一人残されたメイドは泣きそうな顔をしながら、床を拭いていた。

 そして何よりも異常だったのは。

 ()()()()()()()()()()()()ことであった。

 よほど日常的で当たり前の出来事なのだろう。


 うーん。

 (よど)んでる。

 澱みきってる。


 こんなつまんねー食事もなかなか無い。


「……おい、カワカミ」


 横に座るマチルダが、俺の袖を引っ張った。


「なんですか?」

「この訳のわかんねー料理、クソうめーぞ」

「マジですか。ちょっとください」


 俺はマチルダの皿にあった、なんかハンバーグみたいなやつにフォークを刺して口に放り込んだ。

 マジで美味かった。

 ハンバーグでは無いようだったが、とにかく、野菜から肉から調味料(スパイス)から、色んな味がした。

 色んな旨味が詰まっていた。

 

「うんま!」


 思わず、そのような言葉がこぼれた。

 親指を立てると、マチルダもサムズアップを返して「だろ!?」と八重歯を見せた。

 

「おい、カワカミ! お前のそれも美味そうだな!」


 マチルダはそう言うと、俺の皿からひょいと料理をつまんで口に放り込んだ。

 それからホクホク顔で「うめー!」と言いながら咀嚼した。

 そして、指についたソースをチュパチュパと舐め取る。


「こら、行儀悪いですよ。ちゃんとナイフとフォークを使ってください」

「うるせー! こうやった方がうめーだろ!」

「ほら、ドレスも汚れちゃうし」

「良いんだよ! 服ってのは汚れるもんだ!」

「めちゃくちゃなこと言わないでください。あと、声を落として」

「なんでだよ! 黙って食ってても美味くねーだろ!」

「ここは貴族の家ですから」

「つか、足らねーよ! 量が! ぜんっぜん、足らねー! なんでここのメシは全部こんなちょっとづつなんだよ! もっといっぺんに出せや! あたしらを鳩かなんかだと思ってんのか! おかわり! おかわりー! クルックー!」

「ほら、そんながっつかない。スクワード家の皆さんに失礼でしょ」

  

 どうもすいませんねぇ、と俺は目を上げて、彼らに目をやった。

 すると――


 マリアナ以外、誰も俺たちを見てなかった。


「うん。そうっすね。おかわり、もらいましょうか」


 俺はそのように言うと。

 マチルダと一緒に、人目を気にせずたらふくご馳走を食いまくったのだった。



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