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第9話 貴族とか大臣とか悪党と相場が決まってる



 街を治める領主の屋敷の前に、俺たちは来ていた。


「はぁーー……

 デッカい屋敷だねぇ……」


「このボロい装備で入るのが少々ためらわれるでござるな。」


「とはいえ換えの服なんて持ってねえし、このまま行くしかねえだろ。

 ごめんくださーーーい!!」


 声をかけ、ついでに門の横に掛けてある鐘を鳴らす。

 少し待つと、簡素な鎧を身に着けた番兵が出てきた。


「冒険者ギルドから話が行ってると思いますが、|南地区11番街<スラム>の代表として領主様にご挨拶に参りました。」


「お待ちしておりました、どうぞこちらへ。」


 俺たちの格好の小汚さに眉をひそめることもなく、番兵は敬礼し、そのまま俺たちを屋敷にあげた。

 玄関には、上品に整えた口髭の執事服の男が立っていた。


「冒険者の、ヴァージニア様、ハモン様、ドラブ様ですね?

 皆様の来訪を主人も喜んでおります。」


「では、私はこれで!」


 番兵が執事に敬礼し、再び俺たちにも敬礼して、持ち場へ戻っていった。


「ええ、ご苦労。

 では皆様、ご案内します。」


 執事の後に続いて上等なカーペットの敷かれた廊下を進む。


(ううむ、執事も見事な紳士にござるが、末端の番兵すら礼儀があるようでござるな……)


(ああ、偉いもんだ。ちょっとした商家でも、番兵なんてゴロツキ一歩手前がデフォなのにな。

 俺は正直、コールガールと付き添いに間違われるかもしれないと覚悟してたんだが……)


(誰が売春婦コールガールだって!?

 これでも精いっぱいカタギっぽい化粧で来たっていうのに……)


(そういうセリフはもっと慎ましい服装をしてから言え……!

 ってか『カタギっぽい』とか言ってる時点でもうカタギじゃないって言ってるようなもんだろ!)


 俺たちは上品な屋敷の中で下品な小競こぜり合いを小声で繰り広げていた。



●●●



「ようこそ、わが屋敷に。

 まあ、かけたまえ。」


 領主は肥満体で、禿げ頭の、顔に痘痕あばたの痕がある、目のギョロついた、初老の男だった。


(番兵や執事は紳士的だったけど、コッチはとてもじゃないが……)


(間違いなく『裏で悪事を働いてます』って顔つきでござるな。)


「どうかしたか?」


「いえいえ! 何でもないです!」


「ふん……?

 それで、南11番(スラム)の顔役だったな?」


「ええまあ、顔役ってほど大した顔でもありませんが……」


「前の領主の時は炊き出しすらほとんどできていなかったようだからな。

 まったく、感謝してほしいものだ。」


「それはもちろん!

 直接お恵みをいただいているスラムの者が領主様に感謝し敬うのは当然でありますが、それ以外の商家も職人も、今度の領主様は徳の高い、すばらしいお方だと申しております!」


「そうかそうか、みな喜んでおるか!」


 俺の世辞に、領主はにやりと顔をゆがめた。


「あのぅ……領主様はどうしてこれほど下々に良くしてくださるので?」


 何か企んでいたとしても答えるとも思えないが、おべっかで機嫌の良くなっている今なら何か、もらすかもしれない。


「何故と聞くか? それが領主の仕事だからに決まっている。

 炊き出しも孤児院や救貧院も、まともに運営していない方がおかしいではないか。」


 まともすぎるほどにまともな回答だ。顔に似合わず。


「それでもあえて理由を言うなら……

 この街の貧困層の格差が気になるというべきかな。」


「格差、ですか?」


「そうだ。

 冒険者の街というのは得てして貧富の格差が大きいものだが……この街は特にひどい。

 下層のモラルが低すぎる。」


「下層のモラルといいますと……」


「例えば、食い逃げや空き巣などの軽犯罪。」


「あー……」


 今も留置所にいるであろう知り合いの顔が思い浮かぶ。


「マジックアイテムなどの違法な売買。」


「うっ……!」


 ヴァージニアが目をそらした。


「僧侶が堂々と花街かがいを歩きまわり、娼館に出入りしてるとも聞く。」


「むっ……」


 ハモンが気まずそうに声をもらした。


「そしてこの間摘発された奴隷売買。」


「えっと……」


 あの件の発案者は俺だった。


「まったく、この街のスラムはどうしてこんな有様なんだ!?

 ここまでひどい街はそうそうないぞ……!」


「ははははは……そうですね、どうしてでしょうねぇ……」


 俺たち3人は乾いた愛想笑いを浮かべることしかできなかった。



●●●



「お疲れさまでした。どうでしたか?」


 面会を終え、俺たちはギルドに報告に来ていた。


「え~っと……

 何か企んでるか企んでないかはわからなかったけど、とりあえず、救貧政策は関係ないっぽい感じだったよ。」


「ああ、普通に領主としての仕事の一環って言ってたし、その言葉に嘘はなさそうだった。」


「だから、スラムに関することは調査の必要はないと思うでござるよ。」


「はぁ、それならいいですけど……

 なんで3人とも目が泳いでるんですか?」



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