第6話 一年前はこんなヤツじゃなかったのに
「というわけで、この子がウチの新メンバー。アーサー少年でーす!」
「よ、よろしくお願いするっす!!」
「元の場所に返してきなさい。」
とんでもないことを言い出したヴァージニアに俺は即答し、当のアーサーは愕然とした表情を浮かべた。
「なんでさーー。
ウチは新人をえり好みして断るような意地の悪いパーティじゃないだろう?
とりあえずお試し感覚で入れてみても……」
「なんでもクソもあるか!
見覚えあるぞ! そいつ、Aランクパーティの"召喚士"じゃねえか!!」
Aランク。
冒険者パーティの最高位。国中探してもAランクに認定されたパーティは十に満たないという。
この街のギルドに所属しているのはその内の一つ。
メンバーは確か、"賢者"をリーダーに、"剣聖"、"聖女"、そして"召喚士"だったはず。
女3に男1のいわゆるハーレムパーティだ。
「いいじゃないのさ。コイツが加わってくれたらウチは大幅な戦力増強だよ。
何より良い子そうだし……」
「余計悪いわ!!
見ろこの奇麗な瞳! まるで1年前の俺みたいじゃねえか……!」
「今ではすっかり腐った鯖でござるな。」
「誰のせいだ誰の!!
こんなパーティに入ったからこんなに腐った目つきになったんだよ、俺は!!
こんなとこに入るくらいなら単独でやった方が千倍マシだ!!」
「あの……俺頑張るっす!!」
「いや、頑張るとか頑張らないとかじゃねえんだ。むしろ頑張った方がより悪い方に――
……っていうか、そもそもなんでこんなところに?」
パーティの掛け持ちをする冒険者もいないこともないが、何もこんな、臭い飯食ったことのある連中しかいないパーティに来ることもないだろう。
「それが……俺、元いたパーティを追放されちゃって……」
●●●
この街唯一のAランクパーティは、破竹の勢いで昇格していった連中だ。
アーサーを除く3人が冒険者になったのは俺と同時期、つまり1年前。
アーサーは半年ほど前、彼女らがCランクの時に加入したメンバーだったそうだ。
「俺のスキル……"悪魔召喚"って言うんですけど、Aランクのパーティにはふさわしくないって言われて……
お前みたいな気持ちの悪いスキルを使う奴はいらないって、追放されたんす……」
アーサーはそう言って、うなだれていた。
「ひどい連中でござるな……!」
「そうだよ、スキルのイメージだけで人を差別するなんて……!
ドラブなんて神話レア級勇者スキルまで持っていながらこのザマだってのに!!」
「おい、無意味に流れ弾を当ててくるのはやめてもらおうか。
しかしアーサーも理不尽な目にあったもんだな。」
「そうなんす、理不尽なんっす。
ちょっと前まではそんな素振りはなかったのに……」
「そうなのか?」
急に様子が変わったとなると、追放の理由とかみ合わない気もするが。
確か連中がAランクに昇格したのは2カ月ほど前だ。街中の話題になったから覚えている。
「ええ、むしろ関係は良い方だと思ってたんっすが……」
「ふむ……何か、きっかけみたいなものは無かったのでござるか?」
「きっかけ……そういえば、リーダーが街の領主に呼び出されてから、皆ぎこちない感じだったような……
領主に何か言われたんすかね? "悪魔召喚"のスキルについてとか?」
「……もしかしてだけど、アンタが追放されたすぐ後に、残りの3人が冒険に出て行ったりしてないかい?」
「え、どうしてわかったんすか?
確かに3人とも、すぐに出かけていったみたいっすけど。」
「「「…………」」」
俺、ヴァージニア、ハモンの3人は顔を見合わせた。
「おい、アーサー。お前追放されたのいつだ?」
「今朝っす。途方に暮れていたら、その後割とすぐにヴァージニアさんに声をかけられて……」
「それならまだ間に合うかもしれない!
急いで後を追うぞ!!」
「え、どういうことっすか!?」
「バカ、常套句じゃねえか!!
今まで仲の良かった奴を『お前は足手まといだから』とか言って急に邪険にするとか、死地に赴くときに勇者がよくやるやつじゃんか!!」
「かっこいいでござるよな。
拙僧も一度言ってみたいものでござる。」
「まーアタシたちには無縁すぎるけどね。
それはともかく、もしホントにその通りだったら残された側は目覚めが悪いってレベルじゃないよね。」
「だからとっとと確かめに行くぞ!!
あいつら目立つから、人に聞いて行けば追えるはずだ!!」
●●●
「アーサー、すまなかった……!
お前にだけは死んでほしくなかったんだ……!」
「ごめんよアーサー! 領主に頼まれた依頼が、私たちでも生きてやり遂げられるか自信がないレベルのものだったから……
でも、このモンスターを放っておいたら、もっと大勢の人が危険にさらされると思って……」
「だけど、結果としてわたくしたちが間違ってました……
3人では歯が立たなかったけれど、アーサーが間に合ってくれたおかげで……!」
「皆……! もう二度と、こんな無茶はしないって約束してくださいっす!!
だって俺たちは……仲間なんっすから!!」
とまあ、4人が抱き合い、感動的な再開シーンが俺たちの目の前で繰り広げられていた。
「いやあ、半端ねえな。Aランク。」
「うん、あの3人もすさまじかったけど。
ヤバイね、"悪魔召喚"。」
アーサーは6柱の悪魔と契約していて、そいつらの内3柱を呼び出して戦わせることができるそうだ。
問題はその悪魔の内訳。
地属性魔法を使い、タフネスに優れたもの。
水属性魔法を使い、テクニックに優れたもの。
火属性魔法を使い、パワーに優れたもの。
風属性魔法を使い、スピードに優れたもの。
探知やアイテムの扱いに優れダンジョンの探索を助けるもの。
高レベルの治癒魔法を使い格闘戦も可能なもの。
「完全にアタシらの上位互換じゃん……
しかもたった一人でアタシら三人分の……」
「……やっぱ俺らってカスだったんだな。
道中何一つ手伝えることなんてなかったし。」
「拙僧らがついてきた意味、特に無かったでござるな。」
卑屈になる俺たち。
そこへ、いつのまにか感動イベントが終わったらしく、アーサーがこちらへ来た。
「皆さん、ありがとうっす!!
皆さんのおかげでこうして仲間の危機に駆けつけることができたっす!
この御恩、生涯忘れないっす!!!」
爽やかな少年だ。
俺たちにはあまりにまぶしすぎる。
「あ、うん。よかったね、仲直りできて。
それじゃ、クソムシは退散するね。」
「……?
あの、お礼に酒場で食事でも……」
アーサーはこう言ってくれるが、アーサーの背後からこちらを見る"賢者"、"剣聖"、"聖女"の視線は明らかに『悪い虫』を見るそれだ。
いや、その理解で100%正解ではあるんだが。
「いや、アタシらは部外者だから……いやホント、特に何もしてないから……」
「うむ、仲間同士の水入らずを楽しんでくるでござる……」
「もうダンジョンの外だし、こっからは俺たちだけでも帰れるから……」
あの3人の目つき、絶対アーサーに惚れてるやつだ。
ついて行ったらロクなことにならないと確信した俺たちは慎んで辞退させてもらった。