第4話 住めば都。都に住んだことはないけど。
未遂だったこと、被害者がいなかったこと、刑務所に護送するのが面倒だったことなどの理由から、俺たちは留置所に1週間ほどぶち込まれることになった。
刑期が短めな代わりに、俺たちのパーティは後で面倒なクエストを強制されるらしい。
「おや、ドラブの旦那にハモンの旦那。
お久しぶりでゲスな。」
「なんだ、お前まだ留置所にいたのか。」
「いっつも出たり入ったりでゲスよ。」
こいつはズッコイ。
一応Fランクパーティの冒険者なのだが、食い逃げやスリなどの常習犯だ。
シャバにいる期間より留置所にいる期間の方が長い。
「やっぱりヴァージニアの姐御も?」
「うむ。彼奴は三っつ隣の牢にござる。」
「旦那方、今度は何で捕まったんで?」
「奴隷市場でヴァージニア売ろうとした。」
「……また面白い商売を思いつくもんでゲスねえ……」
ズッコイは呆れと感心が混ざった味わい深い表情をした。
「で、どうなったんでゲス?」
「全然売れなくて失敗した。」
「あー……そりゃまあ姐御は、わざわざ法を犯してまで買いたくなるタイプじゃないでゲスからねぇ……」
『オイッ! 聞こえてんぞ!!』
3つ隣の牢からヴァージニアの声が響いた。
「おっと、くわばらくわばら。」
「で、奴隷商売は失敗したんだが、市場を主催してたマフィアの帳簿に俺たちの情報も残っちまってたみたいでな。
そのマフィアがしょっ引かれたときに、芋づる式ってわけだ。」
「ああなるほど。
しかし、アッシが言うのもなんですが旦那も相当なクズでゲスねぇ……」
「昔は純真な男だったんだがな、これでも。」
「はっはっは、ご冗談を!」
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「出なさい、ドラブ、ハモン。
丁度いいクエストが来ました。」
下ネタトークで盛り上がっていた俺たちのもとに、ジェミィがやってきたのは6日目のことだった。
「え~……
別にいいよ、減刑とかしなくても。
1年くらいここでゴロゴロしてるから。」
「そうはいきません。
社会奉仕で減刑する分も考慮しての留置所送り。
本当なら刑務所で過酷な労働に勤しんでもらうところですからね?」
「クッソォ……
しゃーねぇ、行くぞハモン。」
「ジェミィちゃんは可愛いのに、拙僧に厳しいでござるなぁ……」
「当たり前です。優しくできるはずがありますか。
とっくにEランクに上がって世の中に貢献できるはずの連中が、素行不良でグダグダやってるのに……」
「耳が痛ぇなぁ……
で、何すりゃいいんだ?」
「近隣の農村で暴れてる泥ゴーレムの退治です。」
マッドゴーレム。
Dランクパーティが適正と言われるレベルのモンスターだ。
「あれ、俺そこまで悪いことしたっけ?」
無理だろ。死ぬだろ。
「マッドゴーレムくらいなら平均以下の冒険者でもどうにかなるでしょう。
弱点がわかってる分、対策もやりやすい部類です。」
「いや、遠回しな死刑宣告だろ!
何か勘違いしてない!? 俺たちゃFランクだぞ!?
平均的な冒険者よりずっと弱ぇえんだよ!!」
「FはFでも、Fランク最強って話でしょう?」
「限度がある限度が! 俺たちでどうにかなるのはEの中位レベルだぞ!!?
そもそも無茶なクエストで無駄に冒険者を死なせないためのランク制だろうがァ!!!」
「『成長する見込みのある冒険者』を無駄に死なせないための制度です。」
「それ、俺たちが成長する見込みないから死ねって意味だよな!?
っていうか、さてはこのクエスト選んできたのテメェだな!?」
「そもそも悪事に手を染めるからこのようなことになるんです。
嫌ならとっとと真人間になってください。」
否定しなかった。
ってことはやっぱりジェミィがわざわざクエストを選んできたのか。
「冒険者って時点であんまり真人間ではないのではござらんか……?」
「なんにせよ、貴方たちに拒否権はありません。
ムショ送りが嫌ならさっさと準備して片付けてきてください。」
「クソッ……覚えてろよ!
絶対復讐してやる……!!」
「ほう、何をするつもりで?」
「テメェの実家にテメェの名前でドギツイエロ本送り付けてやる……!」
俺の言葉を聞いてジェミィは深くため息をついた。
「逆です逆。
普段からそういうことやってるから、今私に殺されそうになってるんじゃないですか。」
「それだと拙僧とヴァージニア殿は関係ないのでは!?
ただの巻き添えでござるな!?」
「貴方たちも同罪です。
ドラブがこんなザマになった原因は貴方たちでしょうが。
そもそも貴方たちの普段の問題行動も私が処理してるんです。死んで私の仕事を減らしてくれてもいいんですよ?」
「厳しいとかいうレベル超えてござらんか?」
「とにかく、このクエストこなして来るまで街には入れませんからね。」