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第2話 これもうどっちがゴブリンだかわかんねえな



 俺だって、1年前まではこんな有様じゃなかった。

 村を出た時は希望にあふれていたし、頑張って勇名とどろかすAランクパーティの一員に……と思っていたんだ。

 村では、大人が束になってもかなわないモンスターを一人で退治したこともある。


 知らなかったんだ。

 俺が住んでいた村は、この世界で一番モンスターが弱い場所だったなんて。

 住んでる村人も世界最弱、モンスターは駆け出し冒険者でも倒せる程度。

 一応それでも今になって思えば、俺は『将来有望な駆け出し』くらいの実力はあったっぽいんだが……



●●●



 ゴブリン。

 ザコモンスターの代表格。

 バカでマヌケの代名詞。

 駆け出し冒険者の経験値。

 数ばっかり多くて実入りの少ない害虫同然のカス。


「俺の村では、大の男5人がかりで1匹を追い返せるくらいの強敵だったんだがなぁ……」


 街に来て冒険者になって、あらためてわかる村の連中の弱さ。

 普通に畑仕事ができる程度の筋力があって、何故あんなに弱かったのか不思議なほどだ。

 とにかく、冒険者にとって『ゴブリンを一人で退治できる』なんていうのは『靴ひもを結べる』というのと同じ程度だということだ。


「何をぼやいてやがる! そっち行ったよ!」


「あいよ。」


「ゴブッ!?」


 気の抜けた返事をしながら、ロングソードでゴブリンを斬った。


 カスとはいえ、ある程度の数が集まれば戦えない人間にとっては脅威になる。

 なのでこうして、定期的に低ランクの冒険者が合同で巣を駆除するのだが、


「Eランクのパーティはさっさと奥に行ったみたいでござるな。」


 報酬は出来高制。より多く、より高位のゴブリンを狩るほど報酬が増える。

 大型の巣なら大抵、"ゴブリン・シャーマン"や"ゴブリンロード"などがいる。Eランクの連中はそれを狙いに行ったようだ。

 ちなみに、世の中には"ゴブリンの外交官"や"ゴブリンの戦術家"なんて奴もいるらしいが、一体どんな役割なのかは見当もつかない。


「奥の方のはFランクの俺たちにはちょっと手ごわい相手だからな。

 ここら辺で他のFランク(クズども)と一緒に、安全にザコ狩りしてりゃいいだろ。」


「やる気がないねぇ……」


「所詮拙僧らもクズの仲間でござるからな。分相応ってやつでござるよ。」


「ヴァージニアだって真面目にやるつもりもねえだろ?」


「そりゃアタシはスカウトだもの、戦闘は基本専門外よ。」


 周囲には他にも何組かのパーティがいるが、だいたい2種類の分けられる。

 一つはおっかなびっくり戦っている、冒険者なりたてのド新人。

 もう一つは、やる気なさげにゴブリンをつついてるクズ。

 俺たちはもちろん後者だ。


「まあ、この程度でも数日分の飯代に……おぉ!?」


 打撃音が響き、他所ヨソの冒険者の一人が殴り倒された。

 たとえクズであっても、不意打ちは食らわないよう警戒だけは怠っていなかったはずだが……


「ホブブブブッ……!」


 普通のゴブリンとは一線を画す、大柄なゴブリン――ホブゴブリンだ。


「何でこんなところに!?」


「俺たちじゃちょっと厳しいぞ……!」


 他所の冒険者たちがたじろぐ。

 実際のところ、Fランク相当の実力であっても、やる気と多少の連携さえあれば勝てない相手でもないのだが……

 そのやる気と連携すら怪しいのがFランクのFランクたる所以ゆえんだ。


「やれやれだな。

 おい、そいつはまだ生きてるはずだ、ハモンに治してもらえ。

 このホブゴブリンは俺が片付けてやろう。」


 なので、俺が前に出る。

 たまにはカッコいいところを見せないとな。


「おぉっ! ドラブがいたのか!」


「え、あの人すごい人なの?」


「知らねえのか!? Fランク最強と名高いドラブさんなら、ホブゴブリンなんてけちょんけちょんだぜ!」


 周囲の声援を受け、俺は剣を構えながら魔法の発動準備をする。


「ねえ、アンタの言動といい、周りの連中といい……『かませ犬系チンピラ』っぽくない?」


 ヴァージニアの言葉に心の中で目をそらす。


「ホッブゥゥゥッ!!」


 棍棒を振りかざして襲ってきたホブゴブリンに、


「光魔法"フラッシュビーム"!!」


 魔法を発動した。


「出た! ドラブさんのフラッシュビーム!」


「狙った敵だけの目をくらませる、便利なんだけどなんかケチ臭さ漂うドラブの得意魔法だ!」


 ケチ臭い言うな。

 実際有用なんだからいいだろうが。


「ホブゥウゥッ!?」


 うまい具合にホブゴブリンに直撃し、身をすくませた。


「これで決める!

 魔法剣"重岩槌じゅうがんつい"!!」


 魔法剣を発動して剣を地面に突き立てる。

 すると、周囲の砂利が剣にまとわりつき、石の戦槌メイスへと変じた。

 今度はこっちが殴る番だ。


「ヒャッハァァァァァァッ!!!」


 俺は雄たけびを上げ、ホブゴブリンに飛び掛かった。


「オラオラオラオラァァッ!!!」


「ホブブッ!?」


 メイスと化した剣で、殴る、殴る、殴る。

 十数発殴ったところでホブゴブリンは完全に動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ……

 やれやれ、手ごわい相手だった……」


 魔法とラッシュによりかなり体力を使った。

 俺の全力を出し尽くしたといってもいいくらいだ。


「ドラブさんが勝ったぞ!」


「何かよくわかんないけど助かったのか……?」


「ああ、運が良かったぜ。

 いや、Eランクの奴がいないときに限ってホブゴブリンなんぞに襲われたこと自体運が悪いんだが……」


 顔なじみの冒険者も、新人の若者も、とりあえずの危機が去ったことを喜んでいた。

 見れば、ホブゴブリンに殴られた男も目を覚ましたようだ。


「治療代として、喜捨カネをいただきとうござる。」


「チッ、よりによってハモンに助けられるとはな……

 テメエの治療代、相場より高くねえか?」


「嫌なら払わなくて結構。ただ、次に怪我したお主を見かけた時は……」


「変な脅しかけんじゃねえよ……! わかった、払うよ!!」


 ハモンはいつも通りだ。

 そうこうしているうちに、奥からEランクの連中が戻ってきた。


「おい、この巣はもう片付いたぜ……うわっ、なんだこの血だまり?」


「ホブゴブリンが出たんだよ!

 ダメかと思ったが、ドラブのおかげで助かったぜ……!」


「ドラブの?

 あー、それでこんな……」


 Eランク連中の口ぶりに、この街に来たばかりの時のことを思い出した。



●●●



 あの時も、今回のような合同クエストだった。

 俺は自信満々で光魔法と魔法剣を使い、ザコとは知らなかったザコモンスターをボコボコにした。

 その時一緒にいたEランクの冒険者はこう言った。


「へぇ! "光魔法"に"四属性の剣"、勇者の資質ってやつか!

 ……まあ、でもウチのパーティにはいらないかな。思ったより強くもないし。」


 悪気のない言葉だったのだろう。

 だが、村で誉めそやされて育った俺には衝撃だった。

 世間一般の冒険者のレベルの高さに打ちのめされ、直後、俺は最悪の選択を選んでしまった。


「アンタ、すごいじゃん!

 ウチのパーティに来なよ!!」


「うむ、大した技だと拙僧も思う。

 歓迎するでござるよ!」


 優しい言葉をかけてくれた、奇麗なお姉さんと逞しい巨漢にパーティに誘われ、二つ返事で加入してしまったのだ。

 F(さいてい)ランクのダメパーティだと気づかないまま。



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