第11話 ……と思ったら意外となんとかなる事も多い
さて。
とりあえずおちょくってみたが、このアビラカデとかいう魔族は俺たちより圧倒的に格上だ。
名乗った階級からして乗ってるドラゴンよりは弱いだろうが、ドラゴン抜きにしても正面からやりあっても勝ち目はない。
こんな時に大事なのは主導権を握らせないこと。
「もう許さんぞ! まずはキサマらから血祭りにあげ……」
「いや、失礼いたした。
このご時世にわざわざ堂々と名乗りを上げるとはひとかどの武人とお見受けする。
こちらも礼にのっとって名乗らせていただこう。」
「む……? まあそう言うなら……」
怒らせて勢いづいたところを、出鼻をくじいて気をそらし、おだてて調子に乗せる。
「俺はドラブ。
『Aランク』冒険者で、『光魔法』と『四属性の剣』を操る次代の『勇者』候補だ。」
「何ぃ!?」
自信たっぷりに、堂々と。
口から心臓が飛び出しそうなほどビビってるなんてバレたらお終いだ。
ヴァージニアもハモンもこの手のハッタリには慣れたもので、シレッと当たり前のような顔をしている。
さらに、チカッと手元を光らせてみたり、剣に炎をまとわせてみたり、さりげなくスキルが本物であることを主張する。
嘘に肝心なのは、本当のことを混ぜることだ。
「まさか、次の勇者が現れたなんて話、聞いたことも……」
「俺は新参だし、あくまで複数の候補の一人だからな。ほとんど無名だ。
それで、どうする?」
「どうするとは?」
「魔族とはいえ、言葉の通じる相手……ましてや礼を知る者を無暗に殺す趣味はない。
この場は引いてはもらえないだろうか?」
これで引いてくれれば万々歳。
俺のハッタリも疑い半分不安半分って程度には効いてるように見えるが……
「な、なめるな!!
勇者候補を討ち取れば我が名は魔族中に轟く! 願ってもない相手だ!!」
ですよね。
「やっぱり無理でござったか……」
「逆効果かな?」
「うるせえ! ホラ来るぞ!」
アビラカデは龍使いの笛を口に当て、
「行け、ブルードラゴンよ!
PHYuUUuuuu……」
笛の音と共に、今まで大人しくしていたドラゴンが動き出す。
「まともに相手なんてできるかよ!
光魔法"フラッシュビーム"!!」
「ぬぅ!? やってくれる……」
相手はドラゴン、一発でも食らえば終わりだ。徹底して向こうの行動を潰す。
欲望のままに暴れるドラゴンが相手では手のつけようもないが、人が操るものなら逆にやりようはある。
「こっちだ!」
目がくらんだ直後に声をかければ、どんなに場慣れしてる奴でも絶対に反応してしまう。
そして誘導した視界の先。
「フン♪ フンフンフ~~♪ フフ~~ン♪」
「……は?」
奴の目線の先で、ヴァージニアが鼻歌交じりに踊りながら服を脱いでいた。
固有スキルの"神秘の舞踊"。
ヴァージニアの場合、その踊りはぶっちゃけストリップだ。
効果は強力無比。『踊っている間視線を釘付けにする』こと。
踊り終わるまでの数十秒、瞬きすることも視線をそらすことも不可能だ。
当然そんな状態ではドラゴンを操ることなどできない。
「隙ありでござる!!」
「なっ、しまっ……!」
ハモンが動きの鈍ったドラゴンに飛び乗り、背後から飛び掛かって――
「マッスル格闘術奥義"拙僧ドライバー"!!」
アビラカデを上下逆に抱え、ドラゴンの背から飛び降りた。
「おぐぅぅっ!!?」
「よっし! ハモン、そのまま笛を分捕っちまえ!!
ドラゴンさえ押さえちまえばこっちのもんだ!」
「うおぉぉぉぉっ!!」
頭から落下したが、魔族の身体も頑丈なもの。
しかしそれでもフラついているアビラカデの手から笛をもぎ取り――
「え。」
落下の衝撃で笛は砕け散っていた。
「GAFU。」
「あっ。」
「あっ?」
「あっ!」
直後、ブルードラゴンがアビラカデをくわえ、そのまま丸呑みした。
笛を失い、制御不能になったのだ。
●●●
全力疾走。
「クッソォォォッ!!
ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅ!?」
「あぁ、一度でいいから娼館の4Pハーレムコースをやってみたかったでござるなぁ……」
「今にも死にそうって時に言うのがそれかぁぁぁ!?」
「俺はもっとストレートにモテたかった……!
ちやほやされて『さすが勇者様♪』って言われてみたかった……!」
「死ねっ!!
テメエら二人まとめて食われちまえ!!!」
「ヴァージニアもなんかあるだろ? やっておきたかった事とか。
お前も言っちまえよ~~!」
「言うでござるよ~~!」
「ウザッ!!
ンなこと言ってる場合かぁぁ!?」
走る速さは一切緩めていないが、当然いつまでも逃げきれるものではない。
ブルードラゴンはブレス系の攻撃を使わないのが唯一の救いだが、このままでは死ぬまでの時間がわずかに伸びるだけ。
そのわずかな時間で考える。この状況から抜け出す逆転の一手……!!
「そうだ!」
「おっ?」
「上手くいくかはわからないが……」
「何でもいいからやるでござる!
失敗してもかまわぬ!!」
「よし、それじゃ……
PHYuUUuuuu……」
「さっきの笛の音!? どうやって……」
「そうか、口笛でござるか!!」
ドラゴンテイマーがどうやって笛で龍を操るかは知らないが、音色を再現できれば……
「GUUU……?」
「いけるか!?」
効きなれた笛に似た音に、ブルードラゴンは反応して――
「GURUU……」
徐々に、動きが緩やかになっていく。
「よしっ!」
生き残りの目が出てきたことで、俺は思わずガッツポーズをとり――
「PfYiii?」
音色が乱れた。
「GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「ふざけんな! この状況で外すかフツー!?
チンドン屋のトンチキな口笛に期待したアタシがバカだった!」
「とんだガッカリ野郎でござるな!!
絶体絶命の時に閃いた逆転の一手をスカるとは!」
「まて、待てって!
PHYuUUuuuu……」
冷や汗でびしょ濡れになりながらも必死に音色を戻し、再びドラゴンの動きが静まっていく。
「GUUU……?」
「よし、今度こそだよ……!」
「GURUU……」
「あとちょっとで眠りそうにござる……!」
ドラゴンが瞼を閉じようとしたところで、今度は音を緩めないようにと気張り――
「PfYiii?」
屁の音が混ざった。
「GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「もうダメでござるぅぅぅ!?」
「死ね! もう死んでしまえぇぇぇ!!」
●●●
1週間後、いつもの酒場。
「そこで俺は剣に炎をまとわせ、ダダダっとドラゴンの背を駆け上がり、魔法剣を一閃!
巨大なドラゴンの首がゴロリッと落ちて、あたり一面血の海よ!!」
「おぉ~! 流石はドラブさん!」
「すげえ人だと思っていたが、とうとうドラゴンスレイヤーになったとは!」
張り扇でテーブルを叩いて調子をつけながら冒険譚を語る俺に、酒場に集まったFランク連中が感嘆の声を上げる。
「まさかドラゴンなんぞが出てくるたぁ思いもしなかったギルドの連中、驚いて飛んできやがって……
マスター、ビールおかわり!」
「それで最後だ。
っていうかツケ払い終わった直後にツケで飲もうとするんじゃない。」
「チッ、ケチめ……
えーと、どこまで話したっけ?」
「……何やってるっすか?」
「何って、俺がブルードラゴンを退治した時の話を……」
声をかけてきたのはアーサーだった。
「なんだ、『本物の』ドラゴンスレイヤー様のおでましか。
よしテメーら、解散解散!」
俺の言葉に、聞き入っていた他の冒険者も席を立ち、めいめい自分のテーブルに戻っていく。
「駄ボラは終わり? じゃ、アタシたちも帰るか。」
「明日からまたゴブリン狩りでござるな。」
酒場にいる全員がさっきまでの話を気にもしない。
「……いや、本当に何やってるっすか?」
「ホラ話だよ。
こないだ俺たちが遭遇したブルードラゴン、お前が退治してくれただろ?
それを、さも俺たちが自力で退治したみたいに作り話にして語って聞かせてたんだよ。」
「……何で?
何のためにそんなことしてるんすか?」
アーサーは困惑している。
「コイツが妙に話が上手いから、皆で面白がって話させてるのさ。
ウソッパチだってわかった上ではしゃいでんだよ。」
「ここら辺は上等な演劇なんて縁がござらんからなぁ。
この程度の話でも面白がるもんでござるよ。」
「あの……もっと有意義なことしませんか?
気になってたんすけど、皆さんその気になれば昇格できるんすね?
ドラゴン使いの魔族を倒したのは皆さんの手柄だし、ドラゴンの足止めだってそうそうできることじゃないっすよ!?」
「そんなん買いかぶりだ、買いかぶり!
俺たちゃいいとこEの中位レベル! それだったらFのまんまデカいツラしてた方が楽なんだよ!」
「そんなだからジェミィさんに怒られるんじゃ……」
「いーんだよ。
俺たちゃお前みたいな英雄になるのは諦めた人間だ。
で、世の中そんな連中はごちゃまんといる。
だけど、そんな連中が冒険者ゴッコして遊ぶのくらい勝手だろ?」
「そんなもんっすかねぇ?」
「ああ、そんなもんだ。」
故郷の父さん、母さん。
残念ながら、俺はクズどもとつるんでグダグダやってるような、Fランクが定着したザコ冒険者になってしまいましたが。
危険な目にもしょっちゅう合うし、あんまり世の中の為にもなってませんが。
案外楽しく、これはこれで悪くないもんだと思います。




