物語3・16
ロックマンと会場へ戻ると、次はマリスの番というところまできていた。
「ちゃんと送るから、もう帰るんだよ。いつまでもここにいたら危ない」
「言われなくてもそうするわ。というか送らなくていいし仕事したらどうなの」
「ちょうどダンスの時間も終わるだろうし」
一曲丸々踊るダンスになっている。
戻ってきた直前まではモズファルト家の令嬢と踊っていたから、さすがに候補上位にいる人とは代わる代わるというような中途半端なダンスをできないのだろう。
小休憩を挟みつつダンスをしているから死ぬほど息が上がるなんてことはないのかもしれないが、ここにいる令嬢を全員相手に踊るなんてなかなかできることではない。まず私だったら足がもたない。
「もう帰るの?」
壁際で見ていたらしいニケが、こちらに気がついて歩いてきた。なぜ私の場所がわかったのか驚いていると、ナナリーがここにいるのが気になってしょうがないからつい目で探しちゃって……と言われた。
嬉しいやら恥ずかしいやらである。
「メイド長探してから行くよ。そうだ、殿下とのダンスどうだった?」
「……はぁ~。足を踏まないかどうか緊張しちゃってほぼ覚えていないわ」
見たかったなぁ。
「最後はマリスさんなんだから、せっかくなら見てから帰ればいいのに。アルウェス隊長もいるんだし」
「え~、いいのかな」
「今さら何を遠慮しているのかしら」
腕を引っ張られて最前列に連れて行かれる。
穴場なのか、密集していなかったので誰にもぶつからずスルスル前へ移動できた。
階段の近くに落ち着く。
マリスとゼノン王子がよく見えた。
「ねぇこれ……本当に踊るだけで決めるのかな」
「いいや、そんなわけない」
背中にぴったりくっついて来ていたロックマンが口を挟む。
「隊長の言うとおり裏で決まっているのよ、そういうもの。ここはただの舞台で、台本がちゃんとあるんだから」
「台本って大げさな」
「夕方、私が殿下に渡した紙があるでしょう? この人を選ぶようにって指示があったんじゃないかしら。それがフィルフィーネ様なのか、マリスさんなのかは私も知らないけどね」
そんな話に、つい手に汗がにじむ。
最初っから決まっているのならこんなパーティー開かなくっても……と思ったが、王の島の高度が落ちてきているという話題に集中させないためのパーティーだとも彼女から聞いていたので、出かけた言葉を飲み込む。
そうしているあいだにも、マリスとゼノン王子のダンスが始まる……と思って視線を戻したが、まだ何も始まっていなかった。
人の輪に囲まれた二人だが、王子の手がマリスに向けて伸ばされたまま動きは止まっている。
進まない状況に、貴族たちはざわめいていた。
「どうされたんだ?」
「マリス様、体調がよろしくないのかしら」
輪の中心。マリスは王子に差し出された手を見てそのまま立っていた。
目が泳いで固まっているようにも見えた。
「俺では嫌か?」
近い場所で見ているせいか、声が聞こえた。
ゼノン王子が優しく微笑んでいる。
その顔を見て、マリスは眉間にしわを寄せて眉尻を下げた。
困ったような、泣きそうな顔をしていた。




