メイド長は思う
城の舞踏会が開かれるにあたり、平民からメイドを募集することになった。
採用の場にはミスリナ様と使用人頭とメイド長である私がおり、侍女長のメリー・ヤングは後宮担当で管轄が違うためその場にはいなかった。
平民の女性を一人前のメイドにするのは骨が折れる。
しかも短期間となると厳しい戦いだった。
掃除洗濯はすぐにできるようになるだろうけれど、魔法での仕上げは常に最高水準に、王に仕える者として、すべてが完璧でならなければならない。
国力の見せどころである華やかな今回のパーティーではなおのことだった。
「これはどこへ持っていけば??」
「二階廊下、奥の右側のお部屋です」
「薪は裏庭園の庭師にいただくのですよね? どこにいらっしゃるのでしょうか……」
「裏門の家屋にいます」
「窓の汚れが落ちません!」
「こちらの者に教わりなさい」
大変だった。
城にいるメイドは魔法の技術も必要になる。
この大きな城を掃除するには繊細な魔法の扱いが必須であり、行儀作法一つとってもいい加減ではならない。
天井から埃が落ちてくるなど、もっての他。
背筋の通ったお辞儀ができない人間は表に出られない。
指導がきつくなってしまうのはこちら側としても仕方のないことだと理解してほしいのに、怒られて辞めていく人間は後を絶たなかった。
「どこだろう……どこだろう……」
また道に迷っているメイド見習いがいる。
声を掛けようとしたとき、私より先にメイドに接触した女性がいた。
「どうされましたか?」
「あの、宰相様の執務室に煙管を届けるように言われたのですが、お部屋がわからなくて」
「宰相……隣の塔の、あれ……わかります? そうですそうです、連絡通路の手前にある大きな木の扉がお部屋です。他の扉は小さいので迷わないと思いますよ」
「ありがとうございます!」
メイド見習いがお礼を述べると、女性はすぐにその場を去った。
水色の髪の女性で、白い制服。
新聞や週刊誌でもたまに見かける、この世界を救った氷の魔法使い、ナナリー・ヘルだった。
最近は魔石が城に移されたことが話題になっており、その魔石を預けに彼女は来ている。
ドーランは慌ただしい時期で、国民や貴族も王族も休む暇がない。
彼女もハーレで働いていると聞いていたので、あっちにこっちにと忙しいのだろうとそっと労った。
寝台の整え方の指導、貴賓の休憩室に置く家具や茶器、キュピレットの花の管理など、教えることは目まぐるしくある。
厨房から少し離れた場所にある、百種類以上もの試験用茶葉が置かれた部屋。
今日はメイド四人にお茶の正しい入れ方を訓練する予定だった。
水は城の井戸から汲みあげた新鮮な物を使う。けして魔法で出した荒い水ではいけない。多忙な国王陛下も、朝一で必ず飲まれているのはドーランのまじりけのない柔らかな水だ。
味の違いを確かめてもらうために、今回は魔法製の水も使うことにする。
「まだかしら」
ラキヤ印のギディオン製茶器を持ってくるように言ったメイド見習いがまったく部屋に来ないので様子を見に廊下へ出てみると、すぐ近いところで茶器を持ってこちらへ歩いてくる姿が見えた。
しかも隣には爽やかな水色髪の女性が歩いている。
「あなた、道が分からなくなったの?」
「すみません! この方に教えていただいて……あっ」
ガチャン!
謝りながら態勢を前に倒したメイド見習いは、手に持っていた木箱を落とした。
嫌な音がして恐る恐る中を覗くと、案の定、王室御用達の茶器はひび割れて真っ二つになってしまっていた。
見習いに持ってこさせた自分が悪かったとため息を吐いて反省していると、その茶器を見た水色髪の女性、ナナリー・ヘルさんが木箱に手をかざしだす。
「ツウィーチ(繋ぎ合わせ)」
木箱がストンと立ち、中では茶器がかちゃかちゃ音を立てていた。
音が出なくなり中を見てみると、落とす前の割れていない綺麗な状態の茶器がそこにあった。
メイド見習いは半泣きで彼女に感謝を伝えている。
「よかったです。でも魔法で直して大丈夫でしたか? 不備があったらいけないので、あまり使わないほうがいいかもしれません」
修復の魔法は難しい。
メイドや使用人にとっては絶対に習得したい魔法の一つでもある。けれど完全な修復は正直難しく、今回のような茶器の場合は、直せたとしても割れた部分のつなぎ目が膨れ上がってしまったりと、まとまりはするが見目が悪い状態になってしまうのが普通のことだった。ギディオン製は特に扱いが難しく、複製もされにくい材料と技術が使われている。
それをひと振りであっという間に、こんなに綺麗に。
まったく才能をひけらかさない彼女に、深々と頭を下げる。
ああ、神様。
間違いでも何でもいいので、ヘルさんがメイドになる魔法を一瞬でいいからかけてください。




