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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
20章 日本と世界への関り
200/257

200話 防衛大学

正平は空軍創設、国防省創立と並んでもう一つ防衛大学の創設もしている。

「陸海空に軍が分かれても、それぞれの交流が絶えてはならない。今よりも3軍をもっと有機的に連携しなくてはならない。陸海空がそれぞれ別な方向に顔を向けては世界に遅れてしまう。そのためには将校達が同じ所で寝食を共にし、行動する経験が必要だ。現役の将校を現場から引き抜くのは実務的に無理がある。これから幹部将校を育成するために陸海空に分けられる前に、同じ釜の飯を食う経験をさせるのだ」

これについてはほとんど反論がなく、防衛大の創立は簡単に決まった。

国防省や空軍を創ることに比べて、防衛大を創ることなど軽く見られたのだ。だが、正平は防衛大の運営、ひいては校風・伝統こそが今後の日本の国防の基礎になると考えている。


「陸軍士官学校や陸軍大学はあまりに陸軍だけに固まり過ぎていた。これでは海軍との連携などうまくいくはずがない。若い時に同じ釜の飯を食い、同じ屋根の下で寝る経験をすれば、必然的に仲間意識は芽生える。その仲間意識は陸・海・空に分かれても必ず覚えているもんだ。」

陸軍と海軍にはそれぞれ士官学校があり、同世代の学生が所属していたのだが、防衛大学はこれを統合した形となる。

入学条件は18歳以上から22歳までとし、社会経験のある者でも中学校長の推薦があり、試験に合格した者なら誰でも入れた。1年の時から船上にも乗れる経験を持たせたいことから、横須賀にあった海軍施設を拡張して作られた。1学年約1200名の4年生大学として、学生は全員学内寮で生活し4年間暮らすことになる。


正平の防衛大に対する熱の入れようは次のことでもわかる。

防衛大の初めての始業式に首相自ら参列し祝辞を述べた。

「新入生、そして防衛大1期の皆さん、入学おめでとう。そして諸君は次の世代の日本の国防を担う大事な役割があることを認識して欲しい。

知っているとは思うが、我が国は空軍の創設、国防省の創設といった重要な国防の変革を迎えている。当然諸君の入学した防衛大学も変革の一貫として創立した。そして諸君はその第一期生であり、諸君のこれからの行動や規範が本校の伝統、校風を決定づけるのです。諸君の役割はそれだけ重要と言うことだ。


まず、自覚して欲しいのは、今日から諸君は公務員であると言うことだ。諸君は、公務員として給料を貰い、食費も宿泊費もただであり、その上学生服なども支給される。そればかりか校内の様々な施設・器具を無料で取り扱える。学生でありながらこのような厚遇を受けられるのは諸君だけだ。それだけ国民からの期待を諸君は受けているし、諸君の受ける厚遇は国民の税金である。このことを何よりも肝に銘じて欲しいのだ。

諸君が不行跡なことを行えば、国民を裏切ることであり、天皇陛下の期待に背くことなのだ。諸君の生活の根底には天皇陛下の思慮深いお気持ちがあることを自覚してもらいたいのだ。諸君の行動には常に国民の目がついて回る。「お天道様が見ている」このことを常に頭に入れてくれ。

諸君は選ばれた者という意識を捨て去れ。天皇陛下と国民から受けている恩恵に常に感謝しろ、信頼を裏切るな。怠惰・欲望・残虐など疚しいものを心の中から排除してくれ。


我が国の陸軍と海軍は輝かしい歴史を持っており、日清戦争、日露戦争、そして先の世界大戦でも目覚ましい活躍をして、我が国の防衛し、誇りを守ってくれた。これは諸君の先輩の成し遂げたことである、後々までも誇って良いことだ。

だが、残念ながら陸と海では相互の連携がうまくいかなかったこともある。良く、口にするのだが、中島飛行機の門は二つあり、陸軍用と海軍用に別れ、陸軍と海軍の関係者はそれぞれ別々に飛行機の開発をしていた。同じ社内であっても、陸軍系と海軍系と別れて情報を隠し合い交流も出来てなかった。今回の空軍創設はこのような弊害をなくす目的でもあった。


どんなものでも組織が大きくなると分派活動が盛んになり、派閥や出身地などで色分けされた人事や勢力争いがはびこってくるものだ。日本軍部の最大の弱点は陸軍や海軍との反目にあると言えよう。これを少しでも改善しようと努力しているところだ。

将来、日本の軍部を背負って立つ諸君にはこのような派閥争いには加わらず、真剣に日本の将来を考え、日本の防衛や戦略を研究し開発してもらいたい。そこで政府は日本の将来を背負う諸君には、同じ学校で寝食を共にすれば、必ずや仲間意識が芽生え、やがて陸、海、空と所属する軍隊が別れても、友人の付き合いは続くと考えている。諸君には陸上で戦車に乗り、海上で戦艦を操り、雲の上で飛行機を操縦しても、この学校で育てた仲間を思う気持ち持ち続けてもらいたいのだ。

諸君が軍部の幹部になる頃には、我々が懸命に努力してきた陸と海との融和の努力など、一笑するほど陸、海、空の連携が何の支障もなく出来るようになってもらいたい。


諸君は日本男児のあるべき姿を、大和魂を、武士道を体現して欲しい。国民から尊敬され、敬愛される学生になってもらいたい。そして防衛大学に良き伝統、良き校風を築き、残して行ってもらいたい。」そのように祝辞を締めくくった。


正平はその後も、何度も防衛大を訪れて、その度に校長や学生代表らと会い、学校の運営や学生の行動に問題がないか気にしていくようになる。

「学校は作っただけでは終わりではない。常に正しく、明るく、清潔で生徒が修学できる場にしないといけない」

首相が何度も訪問して、学校関係者も学生にも正平の熱意が知れ渡り、一層気を引き締めていくようになったのは言うまでもない。


遂に200の大台になりました。この話を書き始めた時は200話にならない程度には収めるつもりでしたが、戦前の資料を探るにつれ、面白いエピソードを知り、ついつい文章が長くなってしまいました。

日本はヒットラー、ルーズベルト、スターリンなどの世界の指導者によって、今後、翻弄される場面がきます。正平がどのように日本を最悪の事態、敗戦国に陥らせないように苦労していくのはこれからです。今後とも暖かい目で見守っていただければ有難いです。


現在、防衛大学は吉田茂首相の尽力で創立し、学校OBの中には首相に招かれ対話された方もご存命です。首相の防衛大生への期待の高さが現れる話で文中にこのエピソードを書き添えて見ました。また横須賀に防衛大を置いたのも、現状の防衛大の在り方が良いと思うからです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 200話の到達おめでとうございます。 途中で消滅してしまう作品も多いですが、ここまでたどり着いたのはすごいです! 今後の展開を期待しています!
[一言] 200話到達おめでとうございます
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