表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
17章 外国交渉
171/257

171話 ラジオ声明4

正平は37年が押し詰まる頃、ラジオのマイクに向かっていた。


「我が国は4月に北支から軍を撤退しました。北支戦線は正規軍との戦いではなく、匪賊との戦いとなり、厄介なものでした。まず匪賊は待ち伏せを行い、時に住民に化けるなども平気で行います。正面から戦うことなど考えず、常にこそこそと裏から、攻撃を仕掛けてきます。そして日本軍が匪賊を撃退し、追撃すると、住民の中に逃げ込むのです。

正々堂々とした戦いなら日本軍はどこの軍隊にも負けません。しかしこのような卑劣な戦いは終わりがなく、日本軍の犠牲も増えます。

そして、地の利のある匪賊に有利になるものです。それならば、満州まで兵を引き、もし匪賊が調子に乗って、入り込もうとしたなら、ここで徹底的に懲らしめることにしたのです。その戦略上の理由から日本軍は北支から撤退したのです。


ここにソ連は支那と相互不可侵条約を結びました。ソ連は支那との条約によって、支那に武器を売りつけるのが容易となりました。ソ連は支那に武器を売り込んで金もうけをしようとしているのです。事実、ソ連から支那に兵器が渡っているのが確認できています。支那はソ連から買った武器で何をしようとしているのか?明らかに日本を敵国と考えていると見て良いでしょう。支那は南から、ソ連は北から日本軍を攻撃しようと考えたのです。日本軍を南北から挟んで攻めようとする意図がはっきり見ます。北支に軍隊を展開するのは戦線が拡大して、弾薬予備兵力の導入が困難になります。北支にいつまでもとどまっていてはソ連と支那によって、南北から挟みこまれ包囲されかねないのです。北支からの撤退は戦略を考慮してのものでした。


北支を支配するのは国益につながると主張する者がいます。しかし本当にそうなのでしょうか?北支には住民が多く住みますが、皆貧乏です。「貧乏人の家に泥棒に入る奴はいな」と言われますが、貧乏な支那からは得るものは少ないのです。「北支には地下資源があるではないか」と言う声も出ましょう。でも、北支からは石炭や鉄が見つかりましたが、石油は見つからないのです。日本国内、そして満州や朝鮮から鉄や石炭は産出されますが、石油だけは輸入に頼っています。北支で欲しかったのは石油なのですが、見込みは全くありません。

言ってみれば、北支に展開しても出費ばかり増え、収入はほとんどなかったのです。北支に軍隊を派兵して、得られたものは現地人からの反感だけだったのです。

「猪突猛進」「獅子武者」などと言う言葉があります。これは勇猛果敢を意味しますが、逆に言えば退くことを知らない馬鹿武者とも言えるのです。

日本軍は馬鹿武者ではありません。退くべき時に退くことのできる兵隊なのです。撤退を恥辱と思うより、次の為の一時退却。それが真の武将と言えます。


「もう一つ、国民の皆さんに留意していただきたいのが、欧州の情勢が緊迫の度を深めていることなのです。

言うまでもありませんが、欧州は世界における政治と経済の中心地です。世界に与える影響を見れば支那など胡麻の一粒にしかなりません。

この欧州が今、緊迫しています。

ドイツがライン川河畔に進軍しました。ライン川はヨーロッパの大河であり、交通の要で、ドイツ有数の都市がこの地域に点在しています。しかしヴェルサイユ条約によって、この地域は非武装地帯とされ、ドイツ軍は立ち入りを禁止されておりました。ドイツにとっては古くからのドイツの領土を守る気概で進撃したのでしょうが、条約を破ったのは明らかな行為です。

またイタリアはアフリカのエチオピア王国を占領しております。

欧州はこれらの動きに緊張しております。


今後、欧州の情勢がどうなるのか予断はできません。ただ、日本として、もし欧州に事が起これば対岸の火事として傍観できないのです。

先の世界大戦で我が国は世界の列強国として、認められるようになりました。日本が欧州まで軍艦を派遣したことで、世界は日本の強さを認識したのです。

ここで、欧州の情勢にどう対応するかにより、今後日本が列強国として体面を保てるのか、はたまた弱小国の一員になってしまうのか重大な岐路が差し迫っていると見て良いでしょう。

世界の情勢、分けても欧州の行方が重大なことになりつつある中で、支那にいつまでも関わってはいられないのです。


私は今、空軍を創設して軍隊の近代化、強兵化を考えております。今後の戦いは飛行機の重要性が増す。言うなれば、飛行機をどう使うかによって、国軍の強さが決まると言って良い。今、陸軍、海軍の中でどのように空軍を創るのか検討している。いずれ、国民に空軍の雄姿をお見せできるでしょう。

日本軍を近代化し、戦車、装甲車、空母、潜水艦、そして飛行機などを駆使する強い軍隊を作ります。

それには国内で何時でも戦車、軍艦、飛行機を大量に作れるようにしなくてはならない。

何度も言いますが、世界情勢を見れば、いつまでも北支の紛争などに関わって、いられないのです。

国民には、北支からの撤退が戦略上必要であったこと。そして空軍を創立して、日本軍の近代化を図ることが今は、第一だと理解して欲しい。


世界がこれからどのような方向になるのか誰も確信を持てる人間などいない。先の大戦は、サラエボの青年が放った銃撃で、始まったのです。いつ、どこで、戦争の火ぶたが切られるか分かりません。欧州で戦乱の場となった地域は悲惨そのものでした。もし日本が戦乱の場となれば、関東大震災とは比較にならない被害となります。大勢の人が死に、数多くの家屋が焼かれ、莫大な財産が失われる。万一にも日本国内を戦乱の場にしてはならない。決して安穏を決め込んで、いられないのです。日本の安全を守る、それには、国内を豊かにして強い軍隊を持つことです。


国民の誰もが車やラジオを買えるようになれば、大きな工場で車やラジオが生産されます。その大きな工場なら、車も、船も飛行機もそして弾薬なども大量に作れる。優秀な武器を大量に供給しないと強い軍隊にできない。丸腰の兵隊を戦場にはだせない。国民が車もラジオも持てるようになり、豊かになってこそ強い軍隊が作れるのです。

貧乏な支那などに関わっているよりも、国内を豊かにするのが先決です。日本を豊かにして、強い軍隊を作るのです。

日本は着々と準備を整え、次なる事態に、世界を巻き込む戦いに備えなくてはならないのです」


正平は何度も北支からの撤退は戦略上のもので、必要なことであったと主張し、次なる大戦に備えて空軍が必要だと強調した。

この主張は、送られてきた手紙の内容から、大まかに国民から受けいれられたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ