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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
15章 新たなる決意
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148話 ラジオ声明2

4月の土曜の夜、正平の声がラジオから流れている。

「先月の私の話に大勢の人が興味を示され、沢山の投書が来たことをありがたく思います。

投書数は全部で1136通に上りました。

山梨県の大神田さんはから次のような投書をしていただきました。

『私の住む村は、駅まで歩くと片道で5時間もかかり、町の店にいくのも同様です。道ができてバスが走るようになれば大変助かります。ですが、私の住む村は山里で道は狭く急坂でおまけに石ころだらけの悪路です。馬車はおろか人の往来さえも不便なのです。そんな状況で私の村にも車が通れるようになるのでしょうか。急な坂道をバスが走れるでしょうか?また道を広げるのには地主の承諾が必要になりますが、手続きはどうなるのでしょうか?工事はどのようにすすめられるのでしょうか?』

投書はもっと長いのですが、主要な部分はこのようなことでした。

もっともなご意見だと思いました。確かに日本の自動車会社はまだ歴史も浅く、自動車を多く生産しておりません。そんな中で急な坂道でおまけに悪路を走れる車がつくれるのかと思われるのは、当然です。でも昨年、日本内燃機がくろがね号を開発しました。これは軍用車として使えるように、悪路でも急坂でも走れる車です。これを使えば日本の未舗装の道も走れます。道を広げてもらうだけで、多くの村々にまで車が走れるようになります。

残念ながら、乗員は二人乗りで荷物もあまり積めません。政府は日本の自動車会社にこれを基により大型な車の生産を発注します。いずれはバスぐらいの大型車も製造してもらうつもりです。」

正平はくろがね号が悪路に強いことに注目して、一般用としてこれの大型化と大量生産を指示していた。


「バスが通れるほどの道造りは大変です。でもくろがね号が通れるくらいなら大工事になりません。

道を広げるのは地元の協力が必要です。地主さんにも負担をお願いすることになり、当然、土地に見合った金額は支払います。また税制面での優遇処置の法律も整備して、地主さんの負担をなるべく少なくするつもりです。

道を広げる工事は地元の人たちを雇って行います。今の道を広げる工事なので、特別な技術は必要なく、体力に自信のある人ならだれでも工事に取り掛かれます。

世界恐慌以来、絹糸の価格は下がり、養蚕農家の収入は減少しております。この工事は収入の減った農家を助ける一面もあるのです。農家は現金収入が得られ、政府は莫大な予算を組まなくても道造りが行える一石二鳥の政策です。

これは失業対策でもあるのです。農家ばかりか都市で仕事の見つからない人も道路づくりに参加できます。地方の道造りの計画は村や町の役場が中心になって作成します。政府はどこに道を造れとはいいません。地方のことは地元の人が一番よく知っており、どこに道を造れば便利なのか知っているからです。政府はその計画が妥当であれば資金を提供します。あくまでも道造りは地方が主体にやってもらうことになります。」

地方に道の計画を任せるのは、今の狭く多くある道を広げられるだけで短期間に車が走れる道にできる判断からだ。舗装した広い道はいずれ造るにしても、人がどうにか通れるくらいの狭い道を、車が通れる広さにすることが先決だと思ったからだ。当時の日本の大きな輸出品は絹でアメリカが最大の輸出国だった。それがアメリカの不況で輸出が落ち込み養蚕農家は大打撃になっていた。工事を急いだのは痛手を負った養蚕農家の救済が目的でもある。


「前回でも言いましたように東京と大阪を結ぶ東海道は未だに弥次喜多が歩いていたころと同じです。雨が降れば水たまりも出来、デコボコだらけで車で東京大阪を走破するのに何日もかかります。そんな状況下で日本は世界の一流国などと誇れるはずもないのです。地方の道造りは地方が主体になって行ってもらいますが、東京と大阪を結ぶ道ぐらいは国が先頭になって作ります。今は計画中ですが、その骨子はドイツやアメリカで進んでいる自動車用の道を考えている。

この道は片側でも最低3車線、将来交通量が多くなると見込まれるところは更に広くしなければなりません。新しい東海道なのです。できる限り平坦で、まっすぐな道です。東京と大阪の間には箱根や伊吹などの山や、天竜川、木曽川などの山や川が多数あり、大変な難工事にもなる。大きく長いトンネルや橋を造らなければなりません。当然、大量の鉄やコンクリートが必要になります。また土木工事用の機械も必要です。それらを製造する会社は今後、工場を増やし、人も雇うことになるでしょう。それも失業対策になります。」

正平は将来の本格的な自動車用道路の計画にも言及した。


「東京にお住いの斎藤さんから、民生に力を入れるのは良いが、国防が疎かになるのではないかとの懸念がありました。私は民生に力を入れますが、軍事費を削減はしません。軍備を疎かにする考えは全くありません。

自動車会社を育てれば、日本全体の工業生産力が上がります。自動車をたくさん作ることは、多くの機械が必要になり、更に鉄鋼、ガラス、ゴムなども作らなければならなくなります。更に電力も必要となり、ダムも作らなくてはならないでしょう。つまり自動車を多く生産するのは日本全体の工業に波及するのです。

先の世界大戦でドイツが敗れたのは、工業生産力でイギリスやアメリカに劣っていたからです。どんなに優秀な軍隊を持っていても、銃器や弾薬がなければ負けます。ドイツは工業生産力が低かったために、前線の兵士に武器を送り続けることができなくなったのです。強い軍隊を作るには、武器や弾薬をたくさん作れる工業力が必要です。そしてそれは平時においてから高めておかないと戦時になってから急には用意できない。常日頃から工業力を高める努力が必要です。それには自動車を普及させるのが、日本には合っているやり方です。

私が道を造る目的は村や町を繋げるだけでなく、日本の会社に多くの資材や機械を発注し、もっと大きくなって工業力を高めて貰いたいのです。そうすれば日本の工業力は向上し、それがひいては戦車や飛行機、艦船の生産力の向上にもなります。

日本国民が豊かになることは、強い軍隊にもなることなのです。」

他にも二つの投書も取り上げて、道路を造ることは一石二鳥の政策でもあると強調した。

「今後も、皆さんの投書に目を通して参考にさせてもらいます。投書全てに私一人では目を通せませんが、側近や部下には全て読んでいます。皆さんのご意見をお寄せ下さい。また、次のラジオ放送でお話しします。それではごきげんよう」

くろがね号というのは陸軍が発注した4輪駆動車で、開発時期はアメリカのジープよりも4年も早かった。ただ、小型であったため、武器弾薬の輸送には適しておらず、実用面ではジープに劣って、一般に普及するまでにならなかった。現存するのは数台程度しかない。


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