表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
14章 混乱の1年
136/257

136話 広田内閣崩壊

広田は正平の協力は取り付けていたが、内閣の一致には頭を抱えていた。

特に蔵相の馬場鍈一の暴走は悩みの種だった。前任の高橋是清が公債を適時に削減する方針だったのに比べ、軍部の要請に応じて軍事費の大幅な増大と公債の大量発行を行ったのだ。その政策を実行するために、省内の人事にも着手して津島次官を退官させ、軍部と強硬に渡り合っていた賀屋興宣かやおきのり主計局長を異動させるなどしている。

馬場政策の軍事予算の増大は常識を外れていた。超大型の昭和十二年度予算案は前年に比べ実に30%を超す増大幅だったのだ。これを見た商社は軍需物資の需要を当て込んで、一斉に輸入注文を出し、それが為替にも影響を及ぼし、急激な円安を招いていく。これが他の輸入物資の高騰を招くことになり市場は混乱し、更に外国為替が乱高下し、日本経済の先行き迄不安視されるようになった。

首相とは言え、蔵相に直接指示することはできない。広田は馬場のやり方を見守るしかなかった。これが当時の内閣制度の欠点だ。

「これはまずい。このまま本予算が実行されると、日本経済は大変なことになる」広田はハラハラしながら国会での予算審議に臨んだ。


その国会で、「割腹問答」が展開される。

割腹問答とは立憲政友会の浜田国松が「近年のわが国情は特殊の事情により、国民の有する言論の自由に圧迫を加えられ、国民はその言わんとする所を言い得ず、わずかに不満を洩らす状態に置かれている。軍部は近年自ら誇称して(中略)独裁強化の政治的イデオロギーは常に滔々(とうとう)として軍の底を流れ、時に文武恪循かくじゅんの堤防を破壊せんとする危険がある」と軍部の政治干渉を痛烈に批判したのだ。この時の浜田は議員歴30年で、前衆議院議長でもあり、議会の長老として尊敬を集めており、この演説は党派を超えて多くの議員に共感を与えた。

答弁に立った寺内陸相は「或は軍人に対しましていささか侮蔑されるような如き感じを致す所のお言葉を承りますが」と険しい表情で反発してしまう。

だが、再び登壇した浜田によって「私の言葉のどこが軍を侮辱したのか事実を挙げなさい」と切り返される。

そこで寺内は「侮辱されるが如く聞こえた」と言い直すのだが、浜田が納得するはずがない。

3度目に登壇すると「速記録を調べて私が軍を侮辱する言葉があるなら割腹して君に謝罪する。なかったら君が割腹せよ」と激しく寺内を攻め立てたのだ。

これに寺内が激怒して浜田を睨みつけたために、議場は怒号が飛び交い大混乱した。


寺内の憤慨は収まらず、「衆議院を懲罰解散してくれ。さもなければ私は大臣を辞める。」と広田に要求をした。このあたり寺内の直情径行の性格が出ており、自分の非を認め謝罪すればことは丸く収まった。

寺内の強引な要求に対し他の閣僚からは冷ややかに見られ、永野修身海相などから真っ向から反対される。だが、寺内は要求を引っ込めなかった。

それにより議会は二日間も閉じられてしまい、政局は混迷を増していく。

ここで広田はあっさりと閣内不一致を理由に総辞職をするのだった。

「あの問答は勿怪の幸いだったよ。あのまま予算が通れば、日本経済が怪しくなる。それなら総辞職してでも十二年度予算案を廃案にしたほうがいいからね」広田は後で打ち明けている。

馬場の予算を葬るために、自らの首相の座を投げ捨てた広田の奇策であった。


ここで時間は1章プロローグの第4話に戻る。

1章で話したように、広田の辞職を受けて元老の西園寺は次の後継首相選びに乗り出すのだが、難航する。

西園寺が最初の首相候補に考えたのが宇垣一成である。

軍備の近代化と軍縮論者で知られ、政党にも理解を示していることが西園寺に高く評価されている。

だが、ここで以前に石原が仕掛けた軍部大臣現役武官制度が障害になる。

宇垣は拝命直前までいって、陸軍から協力を得られなくなっていた。

前に石原たちが仕掛けた軍部大臣現役制度により、現役の将校からの協力なく陸相を任命できなくなり、組閣が出来ないのだ。

現役の中将以上の者に大臣を要請するのだが、断られ続けてしまう。

宇垣派だった南、金谷、阿部なども統制派に逆らいきれず、陸相の寺内なども首を縦に振らない。

かつて宇垣は陸相時代に軍縮を進め、寺内を予備役に編入することが決まりかけていた。その時に「母の胎内にいる時から陸軍に育った私です。任地は由良でも澎湖島の要塞でも結構ですから、どうか一生陸軍に置いて頂きたい」と泣きつかれ、寺内を現役に置いといた。それだけの恩を売っておいたのだが、それでも寺内は統制派の意向に逆らえなかったようだ。

正平は宇垣から要請があれば、受けるつもりでいた。だが宇垣は喧嘩別れしたばかりで遂に連絡はなかった。

逆に西園寺から首相を要請されることになった。

そして、陸軍統制派も宇垣の首相就任を強引に拒否した手前、更に正平の首相就任までも拒否できなかった。

このようなことから塚田正平の首相が決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ