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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
14章 混乱の1年
132/257

132話 正平たちのナチスへの見方

正平の勉強会でもドイツの動向が議論を呼んだ。

「ドイツの復興は目覚ましいものです。特にナチスが政権を取ってから、分裂していた国内を纏めた手腕は目覚ましいです」

「国を統一したのは見事ですが、強引なやり方であったのも事実です。反対派が多数を占める地方議会に、乱暴者(突撃隊)を乱入させ混乱を引き起こし、反対者を追い出すやり方は強引すぎます。これを日本でやれば大問題でしょう」

「いやあ、日本だって、クーデターが起きたのだから、あまり批判はできませんよ」

「226事件は短期間で鎮圧された。ドイツ政府が動乱を企てたのに対し、下級兵士が反乱した日本とは様相が違うぞ」

「政府が権力を使って、地方や民間を封じ込めるのが良い政策と言えるのか?」

「そうだよな、ナチスのやり方を日本に持ち込むことはでくいない」


「失業対策はどうか?幅広で自動車専用のアウトバーンの建設で多くの失業者を雇っている。このやり方は使えるのではないですか?」

「道造りだけで失業者を大幅に減らすのは無理ですが、効果はありますね」

「無理と言うのはどういうことです?」

「やはり、予算に限度があると言うことです。予算が無限なら、失業者をいくらでも雇えますよ。でも税収には限りがあり、全ての失業者を雇えないのです。それに道だけ作っても、利用されないなら意味はないでしょう。聞くところでは、アウトバーンはガラ空きと言うじゃありませんか。ドイツは無用の長物を作り続けているように思えます」

「つまり、人が良く利用する道から作り始めないといけないのですね」

「そういうことです。車の所有者が多くいる地域から始めることが肝要だと思います」


「肝心の自動車生産はどうなのですか?」

「豊田と日産を合わせても1万5千台で、アメリカ車は2万台を超える」正平が手短に答える。

「商工省が自動車製造事業法の制定を目論んでいるがあれはどうなります?」

広田内閣は36年5月に、自働車製造事業法を成立させた。この法案では自動車を製造する会社は許可制となり、豊田と日産だけに与えられ、アメリカ企業の既存の工場はそのまま認められたが、拡張することはできなくなった。

「良い法案とは思えませんね。企業は経営が自由に出来て伸びる物です。あのような特定企業だけに製造を認めるようでは、企業は育ちません」

「ですが、日本の自動車会社はアメリカの企業に比べて、余りに小さくて競争になりませんよ。保護しないといけないのではないですか?」

「それは一理あります。しかし、人間というものは安住になれると、怠惰になります。企業も同じです。保護ばかりすると、企業は保護に甘え、競争して大きくなろうとしなくなる。国内では通用しても、海外では競争のできない企業のままになる。そんな企業ではいつまでたっても技術は伸びず、アメリカ企業に太刀打ちできません」

「保護と競争のバランスが大事と言うことですか」

「そうですね。あの法案では保護が行き過ぎていると思います」


「ユダヤ人対策をどう思いますか。あのやり方は、私は好かんのです」留松が憤りを込めていった。

「あれは国内問題の不満をユダヤ人に押し付ける政策でしょう。住宅問題が解決できないから、ユダヤ人を追い出して、そこにドイツ国民を住まわせています。しかもユダヤ人の財産を没収して、国民に分け与えることで国民の人気を高めています。あのやり方は日本ではできませんよ」

「昔、江戸幕府は士農工商の身分制度を作った時、その制度の外に、エタヒミンを置いた。彼らに正規の職を与えず、と殺業など人が嫌がることをやらせた。打ち首で処刑された遺体を葬ることも彼らの仕事だ。日本で初めて遺体を解剖したのは杉田玄白達と言われるが、実際に腑分けしたのはエタヒミンだった。

幕府がこのような身分を作ったのは、侍による支配に農商工たちが彼らの下にはもっと卑しいものがいる。それに比べれば農民たちは恵まれていることを示すものだったと言われている。

日本でもこのようなやり方が行われてきた」

「驚きましたね、塚田さんがそんなに江戸時代のことまで詳しいとは知りませんでした」

「身分制度は権力者に都合よく作られるものです。だが、そのような社会は必ず硬直化して、社会の不満は高まるものです。江戸幕府が倒れたのは社会の不満が蓄積したと言えると思う。

私はアメリカで黒人社会を見た。黒人たちは白人と同じ店に入れず、交通機関さえも別だった。このような差別はいずれ問題になると考える。

ドイツのユダヤ政策もいずれは破綻するように考えている」


「ナチスの宣伝活動はどうですか。人々はヒットラーを神のようにあがめていると言われていますが」

「どうなんでしょうね。ラジオ、映画など総動員して、ヒットラーを称えています。個人崇拝もやり過ぎると、嫌みに感じるのは私だけでしょうかね。普通の神経なら、あそこまで持ち上げられると、尻がかゆくなりますが、気にしないでしょうかね。日本人の気質とあまりに違いますよ。」

「政府の方針を国民に伝えることは大事ですよ。特に統制派のように国家総動員を考えている連中には必要な手段でしょう。宣伝は重要ですが、ドイツの様なやり方は洗脳に近いと思いますね」

「そうだよな。日本人が『天皇陛下万歳』と言う時は敬意をこめている。ドイツ人が「ハイルヒットラー」と言う時、強制されているように感じられる。中には進んでヒットラーを賛辞する人もいるのだろうが、動員されている者もいるようだ」

「ともかく、軍人や政治家が個人崇拝には、批判を抑える目的がある。反対者を抑え込む有効な手段として宣伝を使っているように思えるな」

その後も勉強会では経済や外交など様々な面からナチスドイツについて検討されていた。


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