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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
13章 激化する派閥争い
114/257

114話 対ソ戦略

このころのソ連はロシア革命後の誕生したソビエト政権は10年後にして少しずつ整っていた。

そこでソ連は28年の10月から第一次五か年計画を始め、32年末まで行っている。これが成功してソ連の生産力が大いに伸びた。次の第二次五か年計画は32年末から計画されていたが、実行に移されたのは33年の末からだ。

ソ連の躍進を見た、日本陸軍は強く反応している。

前述の陸軍と参謀本部会議の最終日の資料には次のように記されている。

「ソ連は計画が順調に行けば、生産力が大いに上がる。従って、対ソ戦に有利な時期は、ソ連が戦力を充実させる前となる。だが、その際には満州国経営の進展、国内事情の改善、国際関係の調整を見ないとならない。ソ連の戦力が充実するのは第二次五か年計画が終了して数年後になるだろう」

日本陸軍がソ連の生産力進展に大きな関心を寄せていたのは、ソ連が隣国で敵国との認識を持っていたからでもある。


荒木や小畑は「ソ連の軍事的脅威は極東でも増大しており、第三インターナショナル(コミンテルン)による国内のかく乱要因を早急に取り除く必要がある。それには満州国を利用して、ソ連を圧迫しつつ、強行手段をもってソ連を解体に導く」と言う考えがあった。

もう一つ彼らが考慮していたのは36年にロンドン・ワシントン軍縮条約の改定時期と国際連盟脱退によってパラオやサイパンなどの委任統治の問題が同時に起きることだった。日本が連盟を脱退したなら統治を任されている南洋諸島をどう扱うかも問題になるのだ。

そこで荒木・小畑は36年危機説を唱え、対ソ戦を主張し始めた。

それに対し鉄山は満州の安定と国内体制の整備によって国防力を強化して、対ソ戦に備えるべきと対抗した。


更に日ソ不可侵条約の取り扱いでも二人は対立する。

日ソ不可侵条約は日ソが国交樹立した翌26年にソ連から提案された。それ以来協議は持ち越しになっていたのだが、32年ソ連のトロヤノスキー駐日大使から改めて提案されたことにより本格的に協議されるようになった。

鉄山は情報部長として積極的に応諾する考えだったが、荒木、真崎、小畑の対ソ強硬派は反対する。

外務省は荒木陸相の意見を押し切ってまで、条約を結ぶ考えはなく、32年11月内田 康哉やすや外相は正式に拒絶を伝えた。

これ以外にも二人は対ソ政策で悉く対立していく。


正平の勉強会でも対ソ政策について大いに議論されている。

「ソ連と戦争しても得することはない。広大なシベリアを制覇するとしたら、兵力は100万では足りない。それだけの兵力をどうやって輸送するのかも考えてない」

「荒木大臣は緒戦で大勝利すれば、ソ連が降伏すると考えているのではないでしょうか?どうも日露戦争での戦い方を考えていると思われる」

「ロシアは広大過ぎる。シベリアを制覇してウラル山脈を越えなければソ連に脅威を感じさせない。ウラル迄兵站線を伸ばすのは余りにも無謀だ」

「ソ連はすでに革命の混乱を脱しています。第一次五か年計画を終えた段階でロシア帝国時代の生産力を取り戻しています。」

「ソ連の軍事力は日本と比較してどうなのですか?」

「満州に駐留している日本軍は飛行機を130機、戦車を100両保有している。それに対し、ソ連は飛行機350.戦車300です」

「日本よりソ連の方が上回っているのですか?」

「ソ連は独裁国家です。独裁体制の下では、戦車や飛行機の生産を重点的に行えます。ソ連との格差は今後広まるばかりになります」

それぞれが意見を述べ合う形になり、議論は白熱した。


「塚田さん。日本の飛行機と戦車の生産をどう見ますか?ソ連のように統制経済に移行すればもっと生産が上がるのではないですか?」

「確かにソ連のやり方であれば戦車や飛行機の生産量は大幅に向上します。でもそれだと民生部門に大きな負担を与えます。

まず、日本の鉄鋼生産量は欧米諸国に比べ、少なすぎます。更に機械加工の生産量も足りていません。この状況で戦車や飛行機に資材と人材を傾ければ、民間の自動車、船舶、鉄道車両などに支障が出る。日本でまず行わなければならないのは民間の工業力を高めることです」

「統制経済に否定的ですね」

「民間の生産力を上げるのに、国家ができることはあまりないです。民間が創意工夫して生産力を高めていくのを待つ方が、国家が統制するよりも結果的に伸びると思う」

「それはどうしてですか?」

「アメリカは建国してまだ150年しかたっておりません。それでも世界一の工業生産力になりました。その間、国が指導して生産力を高めようとしたことはありません。

私の感想ですが日本人はアメリカ人よりも勤勉で、勉強熱心だと思っています。すぐに生産力を上げようとしないで、民間の活力が延びていくことを待った方がいいと思っています」

「それでも、今の日本での経済政策で良いと思いますか?」

「日本政府としては、軍事費を縮小することです。今の国家予算では軍事費が3割を越えており、民間部門への投資が足りません。道路建設や河川工事をして、人の移動や人命の損害を防ぐことに力を注ぐべきと考えている」

「軍人の塚田さんからそのような発言が出るとは思いませんでした。是非、また陸軍大臣になってください」馬場亮太が感心するように言った。大蔵官僚として軍人の予算拡大要求に苦虫を噛んでいた彼の心からの声だった。

「まあ、そればかりは私にはどうにもできない。今は勉強して日本の問題点を検討していこう」

「そうですよね。日本経済は今ようやく不況から脱出したところです。戦争なんかしたら、国民の生活は無茶苦茶になります。」安田が声を張り上げて言う。

「国家予算でも軍事費は伸びるばかりです。民間部門に回すこともできません。どうにかして戦争は食い止めて欲しいものです」

議論は横道にそれたが、今の段階で日本はどこの国とも争うべきでなく、戦争に反対でまとまった。


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