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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
12章 暗躍の時代
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110話 斎藤内閣瓦解

満州国承認、連盟脱退、満州事変での休戦など斎藤内閣は国際問題で振り回され続けた。そんな中で帝人事件が起こる。

帝人事件とは政財界での帝人株の取引を巡って、収賄や汚職疑惑事件を指す。34年1月に時事新報が帝人と財界人グループ「番長会」、そして複数の政治家との間に贈収賄疑惑があると報じたことから始まる。


帝人は帝国人造絹糸株式会社の略で、前に出てきた鈴木商店の系列だ。鈴木商店が倒産しても事業は順調に伸びていて、株価が吊り上がっていた。そこに台湾銀行が大量の帝人の22万株を保有していたことから、その株を巡って暗躍が起こる。元鈴木商店番頭の金子直吉が鳩山一郎や「番長会」に働きかけて、11万株を買い戻すのに成功する。その後に帝人が増資をしたため、株価が大きく跳ね上がり、莫大な利益になった。このことから、関連する役所や政治家に金が渡り、株取引できたという疑惑が生まれたのだ。

「番町会」は実業家で日本商工会議所会頭の郷誠乃介ごうせいのすけ男爵の番長にある自宅に財界人が食事会をしたことから始まる。時事新報はこの「番町会」のメンバーが中心になって帝人株操作をしたとの疑惑記事を取り上げた。


この記事を受けて検察が安易に捜査に乗り出し、16人を起訴してしまった。

その起訴された中に、商工大臣、鉄道大臣、大蔵次官 、大蔵省銀行局長、大蔵省特別銀行課長、大蔵省銀行検査官などが含まれていた。当事者の民間人は帝人社長、台湾銀行頭取の他番町会から2名もいるが、明らかに政治家や官僚に偏り、しかもその容疑が汚職や背任であった。そして、高橋蔵相の息子も絡んでいるとも噂に上がる。

そして34年7月世論の批判の高まりを受け斎藤内閣は総辞職に追い込まれた。


ただ、この事件の顛末を見ると、「でっち上げ」の要素が多分にある。

拘留期間が200日にも及んだ捜査にも拘らず、何一つ疑惑を裏付ける証拠が出て来なかったのだ。帝人株の売買があった記録だけはあったが、賄賂に使われたとされる1300株は銀行の金庫に保管されており、犯罪の痕跡がなかった。

結局37年に起訴された全員が無罪となるが、これは倒閣に利用されたと考えてもよいだろう。


でっち上げの背後にいたと言われたのが、司法官僚出身で枢密院副議長の平沼騏一郎だった。彼は犬養が暗殺された後の首相後継の一番手に上げられていた。にもかかわらず、西園寺は平沼の右翼気質を嫌い、斎藤を首相に任命した。また枢密院議長の座も西園寺により防止されている。これを恨みに思って若手検事を動かして、捜査に乗り出させたと言うのである。

ただこれはあくまでも憶測にすぎず何の根拠もない。

若手検事が功名心に走り、時事新報の記事に躍ったのが真相ではないだろうか。検事は証拠品の検討を碌にしないまま、容疑者を起訴し、しかも200日も拘留した。検察の不用意な捜査により内閣が倒れており、「検察ファッショ」と後々まで謗りを受けるのは当然と言える。


この事件は新聞社の記事に踊らされた検察の不法捜査にあるが、もう一つ事件を大事にしたのが政友会の内部事情だった。当時の政友会は中島商相が斡旋により、鳩山一郎(政友会主流派)が政友会と民政党との連携に動いており、これに対し政友会非主流派であった久原房之介が反対していた。久原は連携を潰すためにこの事件を利用して鳩山を追求した。

このほかにも検事の不満や、軍、右翼等の様々思惑などがあって拡大したとも思われる。


結果から見れば、根拠のない新聞記事に検察も国会もそして世間も躍らされた事件だった。それにより、斎藤内閣は倒れた。

第25代総理 若槻礼次郎(第1次)在職期間 大15. 1.30~昭 2. 4.20 446日

第26代総理 田中儀一昭 在職期間 昭2. 4.20~昭 4. 7. 2 805日

第27代総理 浜口雄幸 在職期間 昭4.7.2~昭6.4.14 652日

第28代総理 若槻礼次郎(第2次)在職期間 昭 6. 4.14~昭 6.12.13 244日 在職通算日数690日

第29代総理 犬養毅 在職期間 昭 6.12.13~昭 7. 5.16 156日

第30代総理 斎藤実 在職期間 昭 7. 5.26~昭 9. 7. 8 774日

以上は昭和になってからの歴代総理と在職期間だ。

皆短命で、10年間で総理が6人も交代しており、この中で、浜口や犬養は暗殺されている。二人とも世論の批判は受けているが、暗殺と言う常道でない手段で職を失った。総辞職に追い込まれた理由も軍部の暴走、政党内の紛争、偏った世論など首相だけの責任とは思えないものもある。


斎藤内閣も検察の勇み足の捜査もあって、倒れることになった。誰が仕掛けたのかは不明だが倒閣運動によって引き起こされた。

他の内閣と比較しても彼に能力がなかったとは実績や経歴を見ても言い切れない。

そして、明治憲法には首相には内閣を率いる権限が書かれてない。そもそも「内閣」という言葉がなく、内閣がどのような手順で成立するのかさえ記述されてなかった。これにより内閣は閣僚の誰かが反旗を翻すといつでも「内閣不一致」の状態に陥り、総辞職せざる状況に追い込まれる。

更に軍部が大臣を出さないと内閣そのものが成立しない。

斎藤の実力を問う以前に、明治憲法に問題が含まれていた。


ここまでほぼ毎日投稿をしてきましたが、遂にタネキレになって投稿を続けるのが難しくなってきました。

ここで一旦お休みさせてもらって、来月から再開しようと思います。

今まで投稿するのに懸命で、皆さんからのコメントに応答してきませんでした。本当に申し訳ありません。この機会に少しでもお答えしたいと思います。

なお来月からは新章に入ります。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  薩長閥による集団指導体制を前提にした明治憲法の欠点に対して、主人公が如何な対応で政治を主導するか?楽しみです。 [一言]  大正末期から終戦の詔勅まで続く政治の混迷は、明治憲法の制度…
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