サンタクロースの敗北
クリスマスの朝、少年Zはベッドの枕元に掛けておいた靴下の中に絶望を見た。
Zを裏切った膨らみのない靴下には一通の手紙が入っていた。
『 Zくんへ
お手紙ありがとう。きみがほしがっていたプレゼントの
ようかいなんとかの、バカみたいな時間も見れないウォッチをじゅんびしたのですが、
そのちょく後にきみの母上からもお手紙をいただきました。
母上はこう書いていました。
「Zはお手伝いもせず 良い子ではありませぬ。
なのでサンタさんからプレゼントをもらうにあたいせぬ外道ゆえ
Zのために用意したプレゼントはドブにでも投げ捨ててください。
そのかわり、わたしに黄金の仮面をプレゼントしてくださいまし。
わたしはとても良いママで、小鳥にエサをあげたり、魚たちのために歌ったりしました。
これはノーベル賞4こ分に値します。
かしこ」
このような次第なので、Zくんのプレゼントは今ごろドブの底のヘドロの中です。
いい子にしていれば、来年はプレゼントをあげるでしょう。
サンタクロースより』
Zは怒りで全身が震えた。
Zは部屋を飛び出してダイニングに行き、そこにツタンカーメンのような黄金の仮面を被った母親を発見した。
「おはよう、Z」
母親のこもった声はZの怒りに火を注いだ。
「ママ!ママはサンタさんに、僕が悪い子だって手紙を書いたのか!」
「そうよ、だって悪い子じゃない」
「なんてことを!僕はサンタさんからのプレゼントをずっと楽しみにしていたのに!」
「あらあら。だったら来年こそ良い子にすることね、おほほ。さあ、朝ごはんを食べなさい」
食パンと目玉焼きとハムとサラダとスープが食卓で湯気を上げている。
だが、夢の敗れた朝に食べるべき食事をZは知らなかった。
「うるさい!・・・僕はママを一生許さない!ママなど野生のラクダにでも噛まれてしまうがいい!僕の、僕のプレゼントが・・・」
感情のたかぶりを抑えきれなくなったZが今にも涙を流しそうになったとき、
「おはよーう。なんだか、サンタさんがプレゼントをくれたみたいだ」
とパパが起きてきた。パパの左右の腕にそれぞれ水着を着た若い女性がまとわりついている。
「やあ。サンタさんに若い愛人をお願いしたら、本当にプレゼントしてくれたんだよ」
パパがだらしない笑顔で言うと、ママが悲鳴を上げた。
「ヒイィィィッ!アナタは愛人をサンタさんにお願いしたのですか!私というものがありながら、若い女をサンタクロースに!」
「そういうママだって黄金の仮面を被っているじゃないか。パパは物欲にまみれた女が海ヘビの毒と同じくらい嫌いなんだ」
「まあ!言ったわね、この浮気男!」
黄金の仮面を被ったママが包丁を手に、
「こうなったら、アナタを殺して私も死ぬわ!」
とこもった声で言った。
パパの腕にすがっていた女たちが怯えてパパの背中に隠れる。
「いいよ、怖がらなくて。あの女とはすぐに、2秒後くらいに離婚するから。君たちは俺との素敵なせいかつ、つまり、性的な活動を想像して待っていなさい」
パパは女たちに優しく声をかけて、スッと腰を落として龍の構えをした。
「来い・・・ママ。パパはこう見えても、南関東で一番に殺人拳法が達者なのだ」
「知っているわ。だからこそ、アナタの事が好きだったの・・・だったのに!」
Zは体を凍らせたまま動けないでいた。
「やめて・・・やめてよ。パパ?ママ?」
「Zは黙っていろ!パパは、パパである前に男なのだ!オスなのだよ!」
「アナタこそ黙りなさい!私とは・・・私とはぁぁぁッ!」
ママの突き出した包丁とパパの拳が交差するのをZは見た。視界が真っ赤に染まる。
「やめてぇ!」
Zは自分の叫び声で目を覚ました。
全身に嫌なけだるい熱を感じながら、Zは体を起こし、枕元の時計を見た。クリスマスの朝だ。
ベッドに掛けられた靴下が不自然な四角い立方体の膨らみをしている。
Zは靴下には目もくれずにダイニングに行き、朝食を準備するママと、新聞を読んでいるパパをそこに発見した。
「おはよう、Z。サンタさんからプレゼント届いた?」
ママが含み笑いしながら食卓に食パンと目玉焼きとハムとサラダとスープを並べていく。
「どうした、Z?サンタさんからのプレゼントは?」
心配そうにパパが尋ねた。
Zは食卓につくと、
「パパとママはサンタさんに何をお願いしたの?」
と聞き返した。
ママは首をかしげながら
「ママはね・・・今日も元気に、みんなで朝ごはんが食べられますように、ってサンタさんにお願いしたわ」
と少し笑った。
パパは新聞を折り畳みながら、
「パパはね・・・若い愛人を二人ばかりお願いしたよ」
と言った。
ダイニングルームと廊下を隔てるドアの磨ガラスのむこうに、二人の水着姿の女性のシルエットを、Zは見た。
おわり




