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第四十一話

 ヒイロが超大統領に就任してからの日々はとても慌しかった。彼が最初に行った大きな改革の一つに、人々のリトルシスターからの解放があった。実在しない権力者であったリトルシスターの真実を白日の元に晒すことで、キースが超大国ヒノクニにて行っていたテレカメラでの思想誘導を全て廃止したのである。他にも一級市民を優遇する法律の撤廃や、テレカメラでの市民監視を禁ずるといった革新を行ったが、列挙するにはあまりにも多岐に渡ってしまうのでここでは割愛する。つまるところキースの独裁状態であった超大国ヒノクニをヒイロが出来る範囲で健全な形に改革を続けたのだ。無論、その改革の陰には彼の愛するミリシアの姿があった。

「勇者殿〜! 今日もパトロールが終わったで御座るよ〜!」

 そして、シァン含めた元勇者パーティーも彼の治世をより良いものにするべく、協力を惜しまずに毎日己のなすべき仕事をこなしていた。

 シァンは現在、高い戦闘スキルをかわれTokyorkの治安維持を目的としたパトロールや、警備隊への訓練を行っている。

「なんでよりにもよってワタシがあんな遠いところに配属されるのよ……! でも遠くにいる事で、相手の事を思う時間が長くなるのね。つまりワタシ達は相思相愛って事かしら勇者様ぁ!?」

「妄想もここまでいくと酷いものだね。ったく、どうして僕がこんなやつと同行しなくちゃいけないんだ?」

「あんたが文句をつけられる立場だと思って!? 悔しかったらさっさと勇者様のホムンクルスでもクローンでも作ってみなさいよ!」

 ヒオとキースの二人は、テレカメラの廃止により、中央の目が届かなくなった事で、混乱が生まれると予想された地方へ視察に赴いている。

「お母様、もう何日も不眠不休で働かれてますよね? そろそろお休みになられた方が……」

「ウチの家電が爆売れしてんだよミミ! こんな稼ぎ時に寝てる時間なんてねぇぜ!」

「では社長業を肩代わりする家電を作るのはいかがでしょう?」

「ナイスアイデアだミミ!」

 富裕層を優遇したいくつもの法律が廃止されたことにより、二級、三級市民の所得が向上し、町の経済状況が大きく変わった。それにより閉店を余儀なくされていた下級市民向けの商店が営業を再開した事で、労働や家庭に関わる家電ロボットの需要も増え、アクタ電気の家電が大きく販売数を伸ばしているようだ。

 そんな状況も後押ししてか、それまで利益の多くを担っていた兵器部門を縮小する事を現社長であるユイが発表し話題を呼んだ。じきにアクタ電気が人を傷付けるための製品を作る必要は無くなるだろうと、忙しそうにする母の後ろ姿を見ながら、ミミはほっと安堵するのであった。



 そしてリトルシスターからの解放から数年が経ったある春の日のこと。とあるチャペルにてささやかな結婚式が行われようとしていた。招かれていたのは、新郎新婦の限られた関係者のみで、小さな会場でありながらも、空席が目立っている。

「相変わらずケチくさいやつよのう。この国の主人として挙式をあげるのじゃぞ、こういう時こそ町の一つや二つ貸し切ったりせぬのか」

「そんな真似はしない」

 時は挙式の直前だ。チャペルの控え室にて、そう花嫁が愚痴るのを新郎が窘める。どうやら結婚式の開催方法について、二人の間に意見の相違があったようだ。

「そもそも、まだこの国の問題全てを解決出来た訳ではないからな。大掛かりな結婚式などしている場合じゃないだろう」

「まったく……せっかくファーストレディになったと言うのに、これではいつまで経っても贅沢な暮らしが出来ぬではないか」

「そうだな。不便をさせてしまい本当に申し訳ない、離婚しよう」

「結婚式当日に離婚を提案する阿呆がどこにおる! 今のは軽い冗談ぞ、そう真面目に受け取るでないわ!」

 クソ真面目に頭を下げてきた新郎の頭を、新婦がひっぱたく。しかし、頭を上げた新郎の顔は真剣そのもので、

「あながち冗談でなくてな、今の話で思い出したのだ。そう言えばお前はこの国で『金とは別にこの世界で成し遂げたい真の野望がある』と話していたのを。俺との結婚がお前の野望の邪魔になったのではないかと思うと、申し訳ない気分になったのだ」

 そう告げるのであった。

「野望──そう言えばお主に銀行強盗を持ちかける際に話しておったな」

 うっかりしていた、と言いたげな新婦だったが、ほっとした表情を浮かべる。

「よくもまあそんな言葉を覚えておったと褒めてやりたいが……お主が心を痛める必要はない。なぜなら、余がこちらの世界で成し遂げたかったその野望は、すでに達成されておるのだからな」

 どう言う意味だ? と新郎が尋ねようとしたところで、式場の人間に入場の準備をするよう声をかけられる。二人は指示に従い、扉の前まで移動をする。幸いなことにダイタニアと超大国ヒノクニの間で結婚式の作法に大きな違いがなく、準備にあたって困惑する事が少なかった。

 二人が立つ扉の向こうには式場があり、そこには神父とかつての勇者パーティーの面々が待っているはずだ。じきに入場が促され、そこで二人は永遠の愛を誓うのだ。

「余の野望はな」

 扉が開かれる直前のタイミングで新婦、ミリシアは言った。

「魔王のような支配者ではなく、ただ一人の人間として自分の愛するものと結婚し、幸せになる……これを叶えたかったのじゃ。だからもう、余の野望はとっくに叶っていたのじゃよ。お主のおかげでな、ヒイロ」

 新郎新婦の入場の時間となった。そこでヒイロと呼ばれたかつての勇者はもう一度、自分の伴侶となる元魔王、ミリシアの姿を見た。

 彼女が身に纏っている純白のウェディングドレスは、神々しい肌や髪にもよく似合っていて、一度目にした者はその圧倒的な存在感に言葉を失ってしまうだろう。

 美しい、と彼は初めて彼女と出会った時と同じような感想を抱いた。

 式場から華やかなファンファーレが鳴る。新郎新婦入場の合図だ。

 そうして、二人の未来の扉が開かれた。心の中でヒイロは静かに思う。

(ミリシア、やはりお前の野望はまだ叶っていない。俺とお前は二人で、これからもっと幸せになっていくのだ)

 果たして、これからも続く二人の人生にどのような困難が待っているのか、それは彼ら自身も分かっていないだろう。

 しかし、たとえどんな苦難が待ち受けていたとしても、ヒイロは愛しき妻と仲間達の協力を得て幸せな人生を歩むだろうという事は彼自身、心のどこかで確信出来ていた。


 ちなみに二人の小規模な挙式については、すぐに近隣の市民達の間で情報が広まってしまったようだ。

 結果として式が始まってすぐ、チャペルは二人の幸せな結婚を祝う市民に囲まれてしまい、ヒイロの想定より何倍も豪勢で、幸福な結婚式になってしまったのであった。


《Little sister is not watching you! but Hero is watching Demon King!》


おしまい


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