第二十三話
「へえ、あなた達、違法薬物を売ってる人間を探してるのね?」
地上では平静を取り戻したヒオに対してミリシア達が尋問を行っていた。
「警察の調べではこの辺で薬のやり取りをしたと言う証言が多くあるのじゃ。ここで余達に攻撃を仕掛けてきたからには、お主も何か関わりがあるのではないかのう?」
「いいえ。こっちの世界に来て数ヶ月くらいここに住んでるけど、別にワタシは違法薬物なんかに関わってないわよ。実際にやり取りの現場も見た事がないし。でもね、その薬物を売ってる奴の事は知ってるわ。たしかドレッドイーターとか名乗ってる派手な髪の男だったわ」
「そいつがアタシの娘を……頼むヒオ! ソイツの所へ案内してくれねえか!?」
「ママがそう言うなら構わないけど、どうしたの、そんなに血相変えて……」
「ユイの娘がそのドレッドイーターとやらが売ってる違法薬物によって殺されたのじゃ。実はのう──」
先ほどまで慈愛の表情を浮かべていたユイの態度が急変した事に、驚きを隠せなかったヒオだったが、ミリシアからここに至るまでの経緯を聞いた事でその目から一筋の涙が走る。
「そんな事があったなんて! やっぱりあの男、ワタシを騙してたのね! 許せないわ!」
「騙してたってどういう意味だ?」
「ワタシがこっちの世界に来たばっかりの頃、ドレッドイーターが声をかけてきたのよ。きっと誰かがワタシが魔法を使うってウワサをあいつに伝えたんだと思うわ。その時にあいつは言ったのよ、『自分の売っているのは違法薬物だけど、危険なものじゃない。今はまだ世の中に理解されていないだけだ』って、『人の心を落ち着かせる上、痛み止め代わりに使える安全な商品だ』ってね」
ヒオの言葉にユイは首を振る。
「実際はそんな都合の良い薬じゃねえよ。ソイツの売る薬が原因で死んだのはアタシの娘だけじゃねえからな」
その時、ユイの中には違法薬物に関する知識を持たないヒオに思うところはあったが、当時異世界からやってきたばかりだった彼女に罪を問うというのは、無理筋であると自分でも理解していた。
「薬を使って車を運転した結果、意識を失って人を轢き殺しただとか、薬物依存症になった人間が金欲しさに犯罪に手を出しただとか、よく聞く話だ」
それがドレッドイーターがヒオに秘匿した事実の内の一つであった。彼の語る違法薬物の効果には耳触りの良い部分があるが、実際には使用者本人やその周りの人間に対して深刻な被害を及ぼすのがドラッグの厄介な性質だ。
「そんで? そのドレッドイーターはオマエの魔法に用があったんだろ? どんな事をさせられたんだ」
「ええ……あの男はワタシに食料を与える代わりに幻覚魔法を使うように言ってきたわ。下水道の中に『見せたくないもの』を隠しておける空間を作りたかったらしいの」
「『見せたくないもの』? そりゃ違法薬物の事か?」
「そこまでは知らないわ。ワタシはいくつかの場所に魔法を施しただけだから。でも薬物以外に『見せたくないもの』があるとしたら……それは一体なんなのかしら?」
最後にそう漏らしたヒオ達の問いに、答えるものはいなかった。
◯
「ここにドレッドイーターなる者は居るでござるか!?」
ヒイロはシァンの声に誘われ『集落』に戻る。そこには想像通りシァンが憤怒の表情を浮かべて立っていた。
「シァン。お前もここまで辿り着いたのか、しかしどうやって」
「勇者殿!? ちょうど良かった、この者が拙者に全てを教えてくださったのです!」
彼女の発言を聞き、ヒイロはそこで初めてシァンが背中に荷物のようなものを担いでいたのを認識した。
「あ……ああ、あいつ、です」
シァンの背負うその荷物は少女のような声を発した。もちろんその正体は荷物などではない、痩せ細った少女だ。
「あいつか、みんなを殺した……!」
少女の指さす先には『集落』の奥で佇むドレッドイーターの姿があった。
「お聞きください皆の衆! この少女は幻覚魔法によって秘匿された空間に囚われていた人物で、逃げ出す事の出来ぬよう厳重に拘束をされておりました! 拙者が話を聞いたところ、彼女の他にも沢山の子供が、ドレッドイーターなる者に無惨にも殺害されたと聞き、ここに馳せ参じたので御座る!」
突如現れたシァンの告発に、『集落』に混乱が生まれる。
「魔法だの殺害だのってなんのこと? ドレッドイーターさん! あの子はなんなの!?」
まるで神に救いを求める信者のような切実な表情でアリスがドレッドイーターに尋ねた。それに対し、彼は余裕の笑みを浮かべ、
「おいおいおい。ヒオのやつ、『この世界にはワタシの他に魔法を使える奴なんていない』とかほざいてた癖に。全部バレてるじゃないか」
あっさりと自身にかけられた嫌疑を肯定するのであった。
「どういう、意味ですか……?」
「やっぱり殺して人目に付かない場所で流すってやり方が一番だったな。欲張って都合の良い女を保存なんてしとくべきじゃなかった。こうなったら仕方ない、君達には真実を教えてあげよう」




