第三話 オワリの街並み
第三話
城下町へ足を踏み入れる。
美しい街並みに、思わず息を呑んだ。
妙に滑らかな石畳の感触が足から伝わってくる。
街路には木々が並び、色とりどりの花が咲き誇っている。
それらが白石の街を、艶やかに彩っている。
行き交う者たちの姿も多種多様。
鱗肌の者や、見上げても足りぬほどの巨躯の者。
逆に、自分の胸ほどしかない小さい者。
皆が等しく笑い合い、温かく過ごしている。
(この街には……血の臭いがしないな)
そして皆、ヨルを見ると笑顔で話しかけてくる。
「あ、姫様〜!見て見て!」
「おお、大きく育っておるのう。美味そうじゃ」
「あらヨル姫様、今日も抜け出していたのねえ」
「見つかった。恐らくゲラルの奴がチクったのじゃ。見つけたら絞ってやる」
誰もが自然とヨルに声をかけ、ヨルもまた彼らに応じて笑っている。
道中、ローレルとユーガオは無言だった。
正確には、ヨルが度々ユーガオをからかい、ユーガオが焦りながら対応することは何度もあった。
だが自ら話すことはない。こちらに声をかけてくることもない。
街とヨルの空気は、どこまでも和やかだ。
反面、後ろを歩く三人の間には重苦しい緊張が途切れない。
半里も歩かぬうちに、視界の奥に城が見えてくる。
巨大というわけではない。しかし造りは見た目以上に頑丈だ。
城の四面を空堀が囲っており、城に入るためには、正面の架け橋を降ろす必要がある。
(最低限、防衛設備も整っているな)
自分だったら、荷車に潜入して……いや、排水口に枠をかけて……
忍の習慣として、城に潜入する際のことをイメージしてしまう。
そのとき横目でこちらを見ていたローレルと目が合い、笑みを向けてきた。
(……?)
先ほどまで、剣を抜こうとまでしていた男が、気づけば笑いかけている。
警戒を緩めてくれたと思えばそれで良いのだが。
背筋に、冷たいものが走る。
◆
城門をくぐる。
警戒を隠そうとしない騎士たちの視線が集まるが、ヨルの姿を見るなりフッと空気が軽くなる。
「ヨル様!おかえりなさい!」
「今日はどこ行ってたんですかい?」
騎士たちが、気さくに話しかけてくる。
城内といっても無骨さよりも、柔らかな空気が広がっている。
さらに敷地内は緑が豊かで、至るところに多くの花が咲き乱れている。
(戦の為の城には見えぬな……)
城庭では使用人たちが行き交い、洗濯や掃除に追われている。
「いつもの鍛錬場に父上はおるかの」
そう言って、ヨルはさっさと進んでいく。
奥に行くと、多くの騎士が槍や剣を振り、模擬戦をしていた。
「あ、父上!」
ヨルが手を振る。その先には、騎士たちの訓練を見守っている大柄な男が一人。
ヨルの声に気づき、こちらを見る。
(あれが当主か……)
絢爛な装いも、仰々しい冠もない。
黒髪を後ろで束ね、濃い髭はキッチリと整えられている。
オワリ領当主 ハナマサ アサヒ
立ち姿で、分かる。
統治者としてただ鎮座するだけの当主ではない。
近づけば斬られる。そう思わせる気配。
「父上〜!」
ヨルが駆け寄る。
駆け寄ってくる愛娘に対して、アサヒは屈んで両手を開く。
「ヨルや〜」
笑みを浮かべ、ヨルを呼ぶ。
――次の瞬間。
『このバカタレがっ!!』
ヨルの頬に両手をバチンと押し付けた。
「ァいだッ!!な、なひをふるのじゃ父上!」
「何をするじゃないわ!また無断で城を抜け出しおって!」
「ほ、ほんなことより、だいじなようじが……」
「そんなこともあんなこともないわ!」
「……。」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見つめるユーガオ。こめかみを押さえ、深く息を吐く。
そこにローレルが間に入る。
「アサヒ様。ヨル様の言うように、少しご相談したいことが……」
「なんだ?」
「…………」「……………。」
声を潜め、ローレルとアサヒが言葉を交わす。
やがてアサヒの視線がこちらに向く。
目が合った瞬間。
――斬られた。
(……ッ゙!?)
咄嗟に、腹を押さえ確認する。
血は出ていない。体も、繋がったままだ。
刹那の殺気。
それだけで、死が脳裏をよぎった。




