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桜ヶ池異聞  作者: 在江
第三章 結論
11/17

腹蔵

 「あっ」

 「あ、急に声を掛けて済みません。驚かせてしまいました」


 深江(ふかえ)は丁寧に頭を下げた。警察官であるから、気配を断つのは得意である。風祭(かざまつり)が振り向いた瞬間に気配を見せたので、突然のことに風祭が驚いたのであった。


 竹野(たかの)日置(ひおき)はそれぞれ離れた別の場所から、風祭と辺りの様子を観察していた。約束通り、風祭以外の新聞部の学生は、来ていないようであった。


 風祭は深江の登場の仕方に度肝(どぎも)を抜かれたらしく、大人しく深江と話をしている。竹野と日置の存在には気付いていないようだ。

 竹野も日置もそれなりに修羅場をくぐって場数を踏んでいるから、簡単に気付かれるような隠れ方はしていなかった。


 見ていると、深江と風祭が並んで歩き出した。深江が少し話をして、いきなり乱暴を働いたりしないようなら、近くにあるホテルのロビーへ誘うことになっていた。竹野と日置は充分な間隔をおいて、二人の後についていった。


 深江達がホテルへ入ったのを確認して、竹野と日置は合流した。


 「敵やないやろなあ」

 「多分。俺とお前が出会ったように、彼がこの時期にポン大にいたのも、運命なのだろう」


 日置がくすっと笑った。


 「運命を持ち出すなんて、竹野さんらしくない」

 「俺も年をとったと思うよ」


 話しながら高級ホテルの入口をくぐった。暖かい光と空気が溢れて竹野達を包み、公園の繁みの中で屈んでいたために強張った手足をほぐした。


 辺りに人は少なく、入口を向いて座っていた深江が、すぐに気付いて手を挙げた。

 背を向けて座っていた風祭も、深江と同時に竹野達に気付き、ぎょっとしたように首を捻じ曲げて入口を見、そわそわと腰を浮かし、それから諦めたように再び椅子に沈んだ。


 竹野達が席につくと同時に、黒白の制服を着た男が珈琲を人数分運んできて、一礼して去っていった。挨拶のために席を立ちかけた風祭を、竹野は手で合図して押し止めた。


 「初めまして、竹野です。こちらは日置。風祭君、まずは珈琲をどうぞ」


 そう言って、竹野はすぐ珈琲に手を伸ばした。器も温められており、口をつけると熱い液体が流れ込んで、内外から身体が温かくなっていくのがわかった。日置は両手で器を包んで手を温めている。


 二人の様子を見て、風祭も珈琲に手をつけた。しばらく沈黙が続いた。深江が珈琲に砂糖を入れて掻き混ぜる音が、微かに聞こえるだけである。


 竹野は風祭を目の前に見て、こいつは少なくとも原因ではない、と断定した。どう見ても、悪意のない大学生である。新聞部にいる割りには内気そうに見えるが。


 「さて、一息ついたところで本題に入ろうか」


 風祭は、椅子の中で身を固くした。


 「見ての通り、ここにいる四人には、共通点がある。君は碰上(ほうじょう)で起こった異変を新聞部として調査しているそうだが、まず、これまでに君達にわかった事を我々に教えてもらえないかな。あるいは、君の見解でもいい。深江も先ほど君に言ったと思うが、君達が掴んでいるよりも有益な情報を教えて上げられると思うよ」


 話しかけながら竹野は、自分の話し方が千田(ちだ)教授に似ていることに気付いて、内心苦笑した。年下の見知らぬ人間を説得しようとすると、同じ話し方になるのだろうか。自分達の情報を隠して、相手に探りを入れる。ずるいやり方であることは、わかっている。風祭の方は、固い表情のまま、竹野に目を据えて考え込んでいた。


 「風祭君の見解と、新聞部の見解は、違うのやないか」


 日置が言って、珈琲を一口飲んだ。


 「新聞部では実のところ、何も掴んでいないに等しいのです。ですから、僕がのこのこと深江さんの誘いに乗って来てしまった訳です」

 「すみません」

 「別に深江さんが謝ることないやん」

 「信用できない、という訳だな。まあ無理もない」


 竹野はやり方を変えることにした。やはり自分がされて気分のよくないことを人にすべきではない。


 「ではこちらから話そう。碰上で起きた件について、ここにいる三人で調べた結果、通常では考えられない力が原因であることが推測された。これから現場に入ろうと思っていたが、君も一緒に入ってもらいたい。もちろん、相当な危険が伴うし、生命も保証できないから、無理強いはできないが」


 急に態度を変えた竹野に、風祭だけでなく深江も日置も、ひどく驚いたようだった。そして風祭は、そんな深江達の態度を見て、決意を固めたようであった。


 「いいでしょう。僕があなた方に協力することで、情報をいただけるということですね。解決した(あかつき)には、うちの新聞で特集させてもらいましょう。うまく説明できればいいのですが」


 と、最後になって自信がなくなったらしく、視線を落した。


 「何とかなるやろう。お腹も空いたし、折角やからここで食事せえへん? 僕、一度こないな高級な場所で食べて見たかったんや」

 「解決したら、お祝いに食べてもいいがね。こんな恰好では入れないだろう」


 四人は高級ホテルを出て、車を掴まえ、適当なところで食事を済ませた。


 食事中は、周囲の耳を気にして今後の具体的な話はしなかったが、お互い自己紹介をした。

 それから風祭が碰上大学へ入学した理由、新聞部へ入った理由を話したり、竹野が米国留学について話をしたり、日置が地元の京都の話をしたりして、初対面同士にしては話が盛り上がった。

 その中で、深江だけは、自己紹介以外は静かに他の人の話を聞いていた。


 食事も終わりの頃になると、話題は徐々に碰上異変へと近付いてきた。深江が控え目に提案した。


 「先ほど風祭さんが気にされていた、他の新聞部の人達への説明ですが、やはりお父様の仕事の関係で情報が入った、とするのがよいのではないかと思いますが」


 風祭は、まじまじと深江を見た。


 「新聞部がそちらへお邪魔してから日が浅いのに、もう僕の家の電話番号や父のことまでわかるものなのですか」


 深江が竹野を見たので、竹野は頷いて引き取った。


 「私が言うのも変だが、警察の組織力を甘くみてはいかんよ。君が心配している新聞部の他の人達にも、家の人にも大学にもうまく説明できるようにしておくから大丈夫」


 「でも僕が連絡した方がいいと思うんですが。見張っていて、僕があなた方と碰上へ入ろうとすれば、自分達も入りたがると思いますよ」


 「見張っとる?」


 日置が頓狂な声を出して、辺りの様子を窺った。周りの席は大方埋まっており、皆酔っ払って自分達の話に夢中になっていた。


 そこで竹野達は漸く、風祭達新聞部の今までの活動を聞くことができた。根城にしている場所を聞いて、竹野が言った。


 「そこから入るつもりはない。放っておこう。多分、彼等は入れない」

 「僕らみたいな力がないからですか」


 風祭が尋ねて、竹野が頷いた。深江がそっと立ち上がって、出口の方へ歩き去った。


 「心配なら、あの辺へ行く時は変装すればいい。ところで、赤木君とは碰上の話はしてないのかね」

 「え。赤木、圭一くんのことまで御存知なんですか」

 「あ、やっぱり赤木少年も、そうなんや」


 日置が嬉しそうに言った。風祭に会ってから、赤木少年の能力についても話題になっていたのである。竹野達と同じ能力を持っているのなら、異変を察知して避けた可能性も出てくる。


 風祭は、赤木圭一と碰上異変について話し合ったことはないと言い、赤木が異変時に中から出てきた唯一の人間だという話を聞くと、顔を強張らせた。


 「でも、圭一くんは、何かを破壊するような人間ではありません。碰上にいたのは、お兄さんを偲ぶためだったのだと思います」


 「ああ、過激派の学生運動に巻き込まれて亡くなった」


 どこまで知っているのだ、と風祭が不審な顔をした。


 「まあお腹も落ち着いたことだし、深江さんが戻ってきたら、場所を変えて本題について詳しい話をしよう」


 支払いついでにあちこちへ電話を掛けていたらしい深江は、厳しい表情で足早に歩いて竹野の脇まで来た。上体を折り曲げ、耳元で囁く。


 「すぐ本部へ戻るように指示がありました。赤木圭一が碰上へ吸い込まれたそうです」

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