第62話
この時、室内に充満したのは、ロケットランチャーの爆発音だった。
「大丈夫かや! 『救世主』様。」
使い捨てのロケットランチャーだったものを、メイドに渡し、窓から侵入するゾフィーだった。
「近所迷惑を考えろ。アーデルハイド。」
「そうですわ。『結界』が、間に合ったから良かったものの、万一を考えて欲しいですわ。」
「危ナカッタデス。」
こちらは、例のUSBが刺さったままのノートPCを、口にくわえた『黒豹』……もとい、ポロポだった。
「ノートPCは、僕が持つよ。ポロポ。」
「アリガトウゴザイマス。『救世主』様。」
「何ぢゃ、いちゃつきおって。わらわは、除け者かや。」
「そんな事より、ご近所迷惑には、どう対応した。アーデルハイド。」
「無論、既に避難済みぢゃ。『救世主』様。」
「では、建物への深刻な破壊に関しては、どうする。アーデルハイド。」
「抜かりない。既に、カーバーストーリー『ガス爆発事故』を流布済みぢゃ。『救世主』様。」
「そうか、だが無駄だったな。あの程度で、止まる相手ではないらしい。アーデルハイド。」
「EEeeyy~~けません。イケませんねぇ~~。一般住宅に、重火器を使うなんてぇ~~。」
「やはりと言うか、『ヘレン先生』、凄まじいですね。中国の『超人兵士』だったとわね。」
そう言ったのはサマノ。栄養補給用のカプセルを見せたのは、幼馴染だった。
「ワタシの、かぷぷぅっ! かぁえぇぇぇぇせぇっ!」
「かしこみもぉす。」
室内……部屋の残骸の内部に充満したのは、何か、重量物が、激突した音だった。
「くっ……お、重っ……。」
「何ぢゃ、不可視の衝撃波かの!」
「……変ナ……匂イ……何デショウ。」
「成程、彼女の『能力』は、『空気操作』だな。さっき彼女は、『空気の塊』を放った訳だ。」
「言われて見れば、『結界』に命中したのは『個体』ではありませんでした。『救世主』様。」
「恐らく、彼女は、『空気の塊』を放つ際、『イオン化』させている。これは、副産物だろう。よって、ポロポ。君が知覚したのは、『イオン化』した『空気の匂い』だろう。」
「成程、ソウ言エバ以前感ジタ、『赤外線』デ『イオン化』シタ『空気ノ匂イ』ト、似テマス。『救世主』様。」
「但し、彼女の『能力』には『制限』も多い。もし、『自在』に『操作可能』なら、僕の周囲を『真空』にするだけで瞬時に終わる。そこまでの『応用力』が無い証拠で証明で証左だ。」
「例え、出来たとしても……。」
「左様な事……。」
「ヤラセハセン! デス。」
「とは言え、咄嗟に『空気の壁』を立てて、ロケットランチャーの爆発を防ぐ事は、できた。ここは、射撃より、白兵で攻めるべきだろう。」
「合点承知ノ助デス。『救世主』様。」
「『セラミックブレード』の『錆』にしてくれようぞ。行って参る。『救世主』様。」
「かしこみもぉす。」
多数の水の『手腕』が、『ヘレン先生』へと、襲い掛かる。但し、サマノの隣を動かない幼馴染だった。
「ちっ、『空気の壁』が、堅いのぉ。」
「全ク、厄介デス。」
「本当、『水』と『空気』って、相性最悪……。」
「お嬢様! これを。」
「ナラバ、私ハ、コウデス!」
メイドから輝く刃を有する『剣の柄』を受け取るうゾフィー。『ウナギ』に変じたポロポ。
「まずい! 攻撃中止。防御に集中しろ。みぃちゃん!」
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