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田坂とキヨ2

「嫌われてんのかなあって、俺。初めて会ったときからすっげえ顔で睨んでたからさ、大内さん」

「睨んでないよ」

「ちなみに今話しかけたときも睨んでたよ、俺のこと」

心当たりのない言いがかりに、顔をしかめそうになるけれど、それでまた睨んでいるだなんていわれてはたまらないので、不本意ながらも私は平静を装っていた。


「そんなつもりはないから、誤解だよ。私、元々目つき悪いし」

「うん、それはわかる」

遠慮なく人のウイークポイントを突くのは、全く田坂らしいやり方で、言った自分がバカだったと後悔させられた。

しかし、確かに私は田坂が苦手だけれど、だからといって別に嫌いというほどではなかったし、いくらなんでも人を睨みつけるだなんて不躾な行為をあからさまにするほど子供でもないつもりでいる。

だとしたら、田坂は一体私の何を見てそう思ったのだろうと省みても、一向に見当はつかなかった。


「めぐと大内さんってさ、仲良いよね。高校からだっけ。」

私が段々と眉間に難しくしわを寄せていくのを見かねたのか、田坂は話題を徐に変えた。

中途半端に形成されたしわに、言いがかりの危険を感じた私は直ぐにそれを緩めると田坂の視線に答えた。

「そうだよ。」

相手の意図が見えない以上そう答えるだけしか出来ない。


「めぐの裸、見たことある?」

「は?」

唐突な質問に、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。

しかし田坂は笑うでもなく、そう、初めて会ったときのあの体温を感じないような表情で意味のわからない質問を続けた。


「アイツが大声で泣くの、見たことある?こないだイライラしてコップ投げつけて割ったの、知ってる?」

「田坂、何いってんの?」

問いかけたところで、田坂の表情は微動だにしない。

握っていたペットボトルと手の間に汗がにじんで、まるで私の体の一部かのように引っ付いてくる。


「俺の元カノの写真、部屋で見つけて破いたの知ってる?元カレの・・・園田だっけ?そいつが最近までしつこくめぐの仕事先に来てたの知ってる?

そいつと別れた原因がめぐの浮気だっていうのとか。」

次々と突きつけられていく言葉に射止められたように、私は微動だにできなかった。

田坂が何を目的としているのかはさっぱりわからなかったけれど、晒されて行く私の知らないめぐに出くわすたびに私の呼吸は、酸素を奪われたように荒くなっていった。


「アイツがセックスのときどんな声出すか知ってる?」

その言葉にはじかれるように勢い良く立ち上がると、私は気づけば手にしたペットボトルを田坂に投げつけていた。


「田坂、何が言いたいの」

声が異常に震えているのは自分でわかっていた。握り締めた手の、指先が異様に冷たい。


「だから、俺の事だいっ嫌いでしょ、大内さん」

私の怒りに動揺することもなく、むしろ薄く笑った田坂は跳ね返って壁際に落ちたペットボトルを拾いに行く、キッチンのゴミ箱に捨てた。


「俺のことだいっ嫌いっていうか・・・」

キッチンで私に背を向けたまま田坂は言葉を続けた。言いよどんだ先で何を言おうとしているのか、背中からは測れない。

私が気に掛けていることなんてお構いなしに、田坂はゆっくりと二つのコップに水を入れると、戻って片方を私の前に置いた。

本当ならば、今すぐ飲み干してしまいたいくらいに喉はカラカラなのだけれど、田坂が持ってきたというだけでそのコップには触れることさえもしたくなかった。

それを感じてか、田坂は私の目の前でわざとらしく水を飲み干した。

そしてその薄い唇で、言いよどんだ言葉をはっきりと言い放つ。


「めぐのことがだいっ嫌いなんだよね?」

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