田坂とキヨ 3
田坂は何を言っているのだろう。どこをどう解釈したらそんな結論に達するのだろう。
理解できない言葉が頭の中をものすごい勢いで旋回していく。反論よりも絶句が勝って、私はもうお構いなしに眉間にしわを寄せて田坂をじっと見ていた。
「どこで何してようと干渉しないなんて、女の子にとっちゃ大人で格好いいのかもしれないけどさ、めぐは実際そう思ってるのかもしれないけど、大内さんは違うよね。
めぐが知らないところで何してるのか知るのが怖いんだよ。」
「意味がわかんない」
「だろうね」
一々癇に障る返し方をするものだと、感心すらしてしまう。田坂はさも余裕ありげに手を伸ばして窓を開けると、煙草を取り出して火をつけ、私にも一本差し出した。
「いらない」
窓から、むっとした草いきれの匂いが風に乗ってやってくる。突然やってきた暖かい空気のせいで、冷房で冷え切っていた体が湿気を帯び始めるのが不快だった。
「気づいてないっぽいもんね、大内さん。」
その余裕ぶった話し振りが心をささくれ立てていく。こんな話し方をする奴だったろうか。
思ってみても考える余裕がなくて、脊髄反射のように言葉を投げつける。
「なにが」
私の声にも段々と苛立ちがこもっていた。気づいた田坂は萎縮するどころか煙草の煙を深く吸い込んで吐き出して、その流れを目で追っていた。
「大好きでしょ、めぐのこと」
出された一言に、益々田坂の考えがわからなくなった。からかっているとしても、趣味のいいものじゃない。
苛立ちを通り越して、妙な夢を見ているような気分だ。だって、田坂はこんなに私と話す奴じゃない。今まで一度だって仲良くお話したことなんてない。冷や汗が手の中ににじむ。
「大好きじゃん。」
すっかりと眉間のしわを緩め、奇妙な生き物を見でもしたように目を見開いたままで固まる私に、田坂は追い詰めるような視線を投げつける。
脳みそが振り回されて、私はにわかに視線が定めることが困難だった。
「まるで自分の彼女にこれ以上近寄るなって言ってるみたいだったよ、田坂さん。
最初は、俺のことが嫌いなのかと思った。田坂っていう奴が嫌いなんかなって。」
一息分大きく煙を吸うと、田坂はろくに吸っていない煙草をもみ消した。
「でもそうじゃないよね、大内さんはめぐの彼氏が嫌いなんでしょ?
大内さんはめぐが好きなんだよ。」
「・・・好きだよ、それがどうかしたの」
やっとのことで言葉を搾り出すと、田坂は言葉を捜しているのか目をゆっくりと泳がせながら首の後ろをさする。吐き出す息がぶれて、下唇が震えた。
消しきれていなかった煙草を、田坂は再び灰皿に押し付ける。
めぐはまだ帰ってこないのだろうか。
コンビニはこんなにも遠かっただろうか。
「それ、普通じゃないよ」




