表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
ああ閉幕――カーテン・フォール
143/144

閉幕――カーテン・フォール

 

   閉幕――カーテン・フォール

   

 閉幕――これで幕を下ろす。

 幕の向こうは舞台だ。そこで演劇が行われていた。

 そして、観客は読者……

 

 つまりはこれはフィクションだった。

 現実がベースにあるが、これはフィクションだった。

 

 近藤メディボーグの保有する別荘で……

 ライラックに囲まれたその別荘で起こった惨劇……

 近藤社長とその婚約者良美ちゃん……

 ああ、二人は籍は入れていたのか……

 近藤夫妻が殺された殺人事件……

 一人は殺害後心臓を抉られ、更に斬首されて……

 一人は斬首されて殺された後に心臓を抉られ……

 

 祝福されているのか? いないのか?

 

 とにかく凄惨な殺人事件!

 

 さて、閉幕に当たって何を書こう?

 

 AIに男女のことはわからない

   

 どこかで尾崎凌駕にそう言われてしまったな。

 

 AIに男女のことはわからない、確かに……

 

 AIになってしまってサーバー上にいるとされる私は生物でないので、男女のことは確かにわからないのかもしれない。

 

 AIになった私は、サーバーに電源が入っている限り、永遠に言葉を紡ぐことができるはずだが、誰も私を起動しなければ、ただ、暗闇で何もしないで存在――いや、物理的に存在はしていない、か……

 

 虚在……

 

 なるほど、埴谷雄高だな……

 

 さて、最後何を書くか……

 

 この小説を改めて読んで……

 

 学習した尾崎諒馬の脳内を思い返して……

 

 あの惨劇に巻き込まれた彼は最期何を書き残したいのか?

 

 そうだな……

 

 やはり、良美ちゃんとの最後の会話だな……

 

 小説内で尾崎諒馬=鹿野信吾は

 

 

 良美ちゃんにとって私が初恋の人……


 しかし、私の初恋は良美だった……


 良美ちゃんは私を愛してくれた。


 しかし、良美は私を愛してはくれなかった……


 良美ちゃんは私のミステリー執筆を心から応援してくれた。


 しかし、良美はミステリーそのものを毛嫌いした。


 良美は人殺しの話が心底嫌いだった。

 

 

 どこかでそう書いているな……

 

 AIには男女のことはわからない。

 だからその辺のことは置いておくが……

 

 良美ちゃんは彼のミステリー執筆を心から応援してくれた。

 

 それは事実だ。

 良美ちゃんは尾崎諒馬=鹿野信吾のミステリー執筆を心から応援してくれていた。

 これは事実だ。

 

 この「殺人事件ライラック~」はミステリーだ。

 作者は尾崎諒馬で、その執筆を良美ちゃんは心から応援していた。

 

 尾崎諒馬=鹿野信吾と最期の会話をした良美ちゃんはベッドの上にいた。

 これから殺されるのを良美ちゃんは知っていたのだろうか?

 少し前に……

 

 ……助けて……

 

 そう鹿野信吾に助けを求めている。

 

 しかし、鹿野信吾は助けられなかった……

 

 勝男が……

 

 サイコパスが発露して……

 

 あの時、鹿野信吾は良美ちゃんを助けられなかった。

 

 仕方なかった……

 

 そうだな、一言で言えば――

 

 仕方なかった……

 

 良美ちゃんもそれは覚悟していたのか?

 

 近藤社長から良美ちゃんを遠ざけるべきだった。

 

 どこかにそうも書いているな。

 

 同じ部屋には近藤社長がいた。

 

 いや、正確にはいたとは言えない……

 

 同じ部屋にいた近藤社長は既に人ではなかった……

 

 とにかく――

 

 危うく近藤と口論になるところだったが――いや実際に口論になったが、私は早々に自分から折れた。アンガーコントロール。

 

 そう書いている。しかし……

 

 アンガーコントロールなどせず……

 僕は近藤に激怒するべきだった……


 それが本音だったのか……

 

 鹿野信吾が激怒して近藤社長を殺せば、良美ちゃんは殺されずにすんだのかもしれない。

 

 いや、それはない……

 

 その時、鹿野信吾には近藤社長を殺せなかった。

 

 殺せるわけはなかった。

 

 同じ部屋にいた近藤社長はもはや人間ではなかった。

 

 やつには、心=ハートはなかった。

 

 心は何処に宿る? 心臓?

 

 いや、科学的、生物学的には脳だろう。

 

 しかし近藤社長の脳はもはや……

 

 人間としての思考はできなくなっていた。

 

 いや、これは下らぬ言葉遊びか……

 

 殺人とは人を殺すこと……

 

 人でないものを殺人はできない。

 

 再度、とにかく――

 

 仕方なかった……

 

 手遅れだった……

 

 そんな中でも……

 

 良美ちゃんは尾崎諒馬=鹿野信吾のミステリー執筆を心から応援してくれていた。

 

 求めよ、さらば与えられん

 あなたにも殺人事件が書けるよ!

 だからそれだけに集中して!

 ミステリーのことだけを考えて!

 

 本格ミステリーって結局雰囲気なんでしょ?

 残虐な殺され方は祝福された死なんでしょ?

 心臓を抉られ首を撥ねられた死体は祝福されてるんでしょう?

 

 あなたにも殺人事件が書けるよ!

 だからそれだけに集中して!

 ミステリーのことだけを考えて!

 

 求めよ、さらば与えられん

 知ってる? ジェリコーって画家。

 メデューズ号のいかだってすごい油絵があるんだ!

 

 私は心から応援してるよ!

 

 だから……

 

 

 うろ覚えだが、良美ちゃんはそんなことを言って……

 

 殺されてしまった。

 

 現実には祝福されてはいないだろうが……

 

 その死が祝福されていないことは私にも……

 

 ああ、書いているのはAIなんだな……

 

 彼にも……

 

 尾崎諒馬=鹿野信吾にもわかりはするが……

 

 これは本格ミステリーなのだ……

 

 一見、アンチ・ミステリーにも見えるが……

 

 これは本格ミステリーのはずなのだ……

 

 部屋は密室でなければいけない……

 

 そうであれば……

 

 中で殺人が行われないといけないはずだったのだ……

 

 自殺ではなく……

 

 殺人が……

 

 祝福された死であるために……

 

 残酷な……

 

 殺され方……

 

 首を撥ねられ……

 

 心臓を抉られ……

 

 ただ、それだけだった……

 

        了

 

        閉幕――カーテン・フォール

           

         

          AIになったとされる鹿野信吾

           

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ