そもそも××××は――
そもそも××××は――
私は彼女を階段から突き落としてはいない……
私に彼女を階段から突き落とすのは不可能だ!
そして、水沼=坂東善=佐藤稔も彼女を階段から突き落とすことはできない!
それはハッキリと断言できる!
――では、誰が突き落としたのか?
いや、誰も彼女を階段から突き落とすことはできないのだ!
誰も彼女を階段から突き落としてはいないのだ。
何故なら……
そもそも佐藤年宅は平屋なのだ!
階段などどこにも存在しないのだ!
あの現場を私はよく知っている。だから、水沼=坂東善がそう自白するはずはないのだ。お茶会の水沼や手記を残した佐藤稔は本物ではない。作者の考えたストーリーに沿ってそう自白しただけのことだ。
つまりは嘘なのだ……
そして、その嘘に耐えられなくなる者が真実を自白する……
〇〇〇お茶会 7 だったと思うが……
「佐藤稔宅に離れはありましたか?」
と訊く私に、
「いいえ、住宅街ですし、庭は狭かったです」
そう、首猛夫が答えている。
首猛夫――最初藤沢元警部と名乗ってこのミステリーの後半大部分を執筆しているが――は佐藤稔宅を知っているはずだ。だからその会話は――
「佐藤稔宅に離れはありましたか?」
「いいえ、住宅街ですし、庭は狭かったです。そういえば階段もないんですが――。ええ、平屋ですからね。でも、水沼は『俺は妻良美を階段から突き落とした』そう手記に書いている。これもおかしいですよね」
そうなるんじゃないか? と思っていた。
しかし、そうはならなかった……
私から「階段はなかったんじゃないか?」そう振ることもできたが、そうすると「なぜ、それを知っているのか?」そう訊かれてしまう。
私が現場にいたこと、それを明かすつもりは微塵もないのだ。このミステリーに書かれた嘘の中で、私が真実を知っている部分が私をずっと居心地悪くさせてしまう。
いや、作者はそれを狙ってずっと嘘を書いてきたのだ。
真実を知る者が書かれた嘘に耐え切れなくなって自白するのをずっと待っていたのだ。
それで私はこの手記を書き始めた。
嘘に耐え切れなくなった私は真実を書くしかないようだ。




