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嘘を記述して真実に迫るミステリー

 

    嘘を記述して真実に迫るミステリー

    

 このミステリーは嘘で(まみ)れている。そうだろう?

 その嘘は、その嘘が嘘だとわかっている者――真実を知る者にある種の居心地の悪さを突きつける。

 

 ――いや、それは嘘だ! 間違いだ!

 ――真実は……

 

 真実を知る者は居心地の悪さから、そう真実を吐露したくなる。その誘導のために嘘が記述されるのだ。

 謂わば、嘘を記述して真実に迫るミステリー、それがこの「殺人事件ライラック~」なのだろう。

 真相は探偵の推理によって暴かれるのではなく、記述者の嘘に耐え切れなくなった犯人の自白で暴かれる、そういうミステリーなんだろう。

 何なら読み返してみたまえ。別荘の離れでの密室殺人という本格ミステリーであるはずが、尾崎諒馬=鹿野信吾はその謎はそっちのけで、バスルームの首無し遺体――人体模型だったわけだが――の臍の横の手術痕があった、と嘘を吐き、それが右か? 左か? と水沼=坂東善=佐藤稔に迫っている。

 水沼=坂東善=佐藤稔はその嘘を見破っているが、「どうしてそれが嘘だと知っているのか?」を説明するためには自分の犯行を自白せざるを得なくなる、そういう仕掛けだ。

 尾崎諒馬=鹿野信吾は佐藤良美――旧姓尾崎良美を愛していたのだろう。本格ミステリー作家なのに、目の前で起きた離れでの密室殺人の謎よりも、佐藤良美――旧姓尾崎良美の生首を見てしまったために、誰が彼女を殺したのか? その犯人を追い詰める方が重要だったのだろう。

 脳髄に電極をぶち込まれ、AIの力を借りて覚醒した水沼=坂東善にも事件について書くように仕向け、ついには彼に自宅での犯行を自白させることに成功してしまった。

 

 ――ちょっとした言い合いのあげく、階段から突き落とした――

 

 それが真相だった。

 尾崎諒馬=鹿野信吾は良美ちゃんから、水沼=坂東善が愛しい佐藤良美――旧姓尾崎良美を殺したらしいことを聞いていた。しかし、それはあくまで伝聞で、かつ「殺したかもしれない」という曖昧な情報だった。

 だから、何とかして水沼=坂東善を追い詰め、自白させたかったのだ。

 

 そしてそれは成功した……

 ……ように見える……

 

 少し、前に私はある実験を行った。それは読者も憶えているだろう。

 

 尾崎凌駕のとある実験

 

 にて、あるシーンを纏まった文章にしてAIに読ませれば、まるでそのシーンを見ていた人物にAIは成り切れる。そういう実験だ。

 

 果たして水沼=坂東善=佐藤稔は本当に覚醒したのか?

 

 確かに彼はお茶会に参加しているし、手記も書いている。しかしだ――

 黒服、青服、尾崎睦美会長――お茶会に参加したこの三人はAIが生成したアバターだった。会長は詫び状も書いているが、それも情報を与えられた生成AIが書いた物かもしれない。

 

 と、すれば……

 

 もし、水沼=坂東善=佐藤稔もAIが生成したアバターだったとしたら……

 

 ある一つの嘘がある。それを私、尾崎凌駕は知っている。その嘘が嘘のまま放置されるのは気持ちが悪い――居心地が悪いのだ。

 

 真実を知っているが故にこのミステリー「殺人事件ライラック~」に記述された嘘に耐えられなくなる。

 しかしでは何故真実を知っているか? と問われれば……

 

 とにかく、私はある嘘に耐えられない……

 

 水沼=坂東善=佐藤稔が――

 

 ――ちょっとした言い合いのあげく、階段から突き落とした――

 

 それは嘘だ!

 

 では誰が階段から突き落としたのか?

 

 いや、それは……

 

 とにかく、水沼=坂東善=佐藤稔は彼女を階段から突き落としてはいないのだ。それはハッキリ断言できる。

 

 私はあの現場にいたのだ!

 

 私は真実を知っている!

 

 記述されたある嘘を嘘だとハッキリ指摘できるのだ!

 

 ただ、誤解なきように願うが……

 

 私は彼女を階段から突き落としてはいない……

 

 

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