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やはり嘘はよくないがその前に――

 

   やはり嘘はよくないがその前に――

   

 このミステリーは嘘に塗れている……

 私の手記にも嘘がある……

 やはり嘘はよくないので、いずれ正すが、その前に――

 

 佐藤良美――旧姓尾崎良美との不倫関係について心情的なことももう少し詳しく……

 どうしても言い訳めいてしまうのだが……

 

 彼女に惚れられたが、私の方は恋愛感情は持っていなかった。最終的な彼女に対する感情は……

 

 ――怒り、だった。

 

 何度も書いているが、彼女に対して恋愛感情は持っていない。それは彼女に何度も伝えてきた。それに、彼女とは結婚は出来ない。戸籍上、血縁関係のある兄と妹なので、法律的に結婚はできない。彼女と親しくしたのも、異母兄弟の関係なのでそうしただけで、男女の関係になることは望んでいなかった。

 更に、親友だった尾崎諒馬=鹿野信吾=佐藤稔のこともある。彼が彼女を好きで交際しているのを知っていて、彼女と一緒になることは考えられなかった。

 彼女が私を献身的に看護してくれたことには感謝の気持ちはあったが、それ以上のことは何も望んではいなかった。

 いや、その感謝の気持ちがあるが故に、完全に彼女のことを無下にできなかったのはあるが……

 そのために彼女が求めてくることを拒めなかった……

 

 ただ一時的な性欲に従っただけだ。避妊はしていたので左程問題だとは考えていなかった。一度応ずれば彼女もある程度満足して諦めてくれるかと思っていた。

 大体、彼女は坂東善=佐藤稔と結婚している。その結婚に愛があったのかは知らないが、既婚者のくせに私を求めてくるのはおかしい……

 いや、既婚者だから――夫の間に愛がなければ、却って激しく求められたのかもしれない……

 全く理不尽な話だ……

 

 いや、彼女との性的な接触には少し意味があった……

 少なくとも失顔症――相貌失認という障害を抱えてからの彼女との男女の営みには意味があった……

 そのことはもう少しあとに書こう……

 

 とにかく、私のことだけ話せば、呼び出されて彼女の自宅を訪ねる際は不倫関係を終わらせる説得に行くので、あれは持っていくことはない。大体、行為をするつもりは微塵もないのだから……

 あれ――とは、避妊具……

 だから、結局なし崩し的にことが始まる際には、彼女が準備してくれたやつを使うことになる。避妊は絶対だ。子供が出来たら困る。大体、彼女とは血が繋がっている――

 いや、これは彼女と自分が似ている、と感じた直感だけでDNAを調べたわけではないが……

 恐らく、生物学上の父親が同じ……

「その男」が共通の父親だと私が信じているだけのことだが……

 彼女の方は私と血は繋がっていない、と思っていたのだろう。しかし、私の生物学上の父が尾崎睦美でないことは彼女には話していないわけで……

 とすれば、やはり彼女も自分の生物学上の父が尾崎睦美ではないと思っていたのだろう……

 

 ――それにあなたと私は血が繋がっていない―― 

 

 彼女がそう言ったのはそういう意味だ。

 

 ああ、すると、そうか――

 

 尾崎睦美は娘、良美を溺愛していた……

 しかし、血は繋がっていない……

 娘に初恋の女性の名前を付けている……

 つまりはそういうことなんだろう……

 彼女もまた……

 

 まあ、憶測で書くことでもないな……

 

 とにかく、彼女との行為では必ず避妊をしていた。それは絶対の条件だった。

 しかし、あの日、彼女が準備してくれた避妊具に細工がしてあるのに気付いたのだ。

 

 ――怒り、だった。

 

 先にそう書いた。彼女の企みに怒りが込み上げてきた。

 

 ――愛する男――好きな男の子供が欲しい――

 

 彼女はそう弁解した。

 

 何だろう? 私は激しい怒りを感じた。

 その言葉は母が自分に残した手紙にあった言葉と同じだった。母とその息子の関係で、そう言われることは嬉しい気持ちがあったが、彼女と男女の関係でそう言われると、激しい怒りを感じたのだ。自分は父になるつもりは微塵もなかった。

 

 それで――

 

 いや、少し違う……

 違ってほしい……

 

 観念してそろそろ嘘を正さないといけない……

 

 嘘を正すのは次の章にして、少し彼女の立場で書いてみよう……

 一方的に自分の事ばかり書いてしまっているし……

 

 彼女にしてみれば、尾崎諒馬=鹿野信吾=佐藤稔と交際していたとはいえ、彼の方が一方的に好意を寄せていただけなのだろう。

 そこに私が現れ、私に惚れてしまった。

 しかし、私と彼女は戸籍上血が繋がっている。私も彼女も戸籍上の父は尾崎睦美だ。なので、二人は結婚はできない。

 ああ、更に悩ましいことに、生物学上の彼女の父は尾崎睦美ではないのだろう。彼女としては本当は血が繋がっていない男――つまり私――を愛してしまったが、戸籍上は血が繋がっているので結婚できないというジレンマ……

 

 ――愛する男――好きな男の子供が欲しい――

 

 女にとって、男はひとつの手段である。目的はつねに子どもだ。

 女性の目的は子供にある、とか言ったのはニーチェだったか……

 

 彼女とのその行為は、私にとっては一時的な性欲を満たすだけのものであったが、彼女は子供を欲していたのだ。

 結婚できないのなら、子供だけでも……

 避妊具なしでの行為こそを彼女は望んでいたが、私がそれを許すはずもなかった。避妊具の使用は絶対だった。

 だから、彼女は避妊具に細工をしたのだ。

 そんなことをされて激怒しない男がいるだろうか……

 

 だから……

 

 いや、違う……

 違ってほしい……

 

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