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ドロドロとした昼下がりの××ドラマ

 

   ドロドロとした昼下がりの××ドラマ

   

 崇高な本格ミステリーがドロドロとした昼下がりの不倫ドラマに成り下がってしまうのかもしれないが、それが現実だ。

 彼女は私の失顔症――相貌失認という障害を知っていたのか? は定かではない……

 いや、恐らくは知っていたのだ。知っていてそれを利用したのだ。

 私は彼女の献身的な看護に感謝している。心から感謝している。しかし、それ以上の感情は私にはなかった。恋愛感情は――というか、私には恋愛感情というのがよくわからないのだが――まったく持っていなかった。

 しかし、その感謝の心があるが故に彼女を拒むことはできなかった。彼女の夫が不在の昼下がりに私は呼び出されて彼女の自宅を訪れることが多々あった。

 勿論、毎回これを最後に不倫関係はやめよう、と彼女を説得してみるのだが、泣かれて、非難されて、懇願されてなし崩し的に関係を持ち続けてしまっていた。

 

 そして……

 

 ある日、呼び出されて彼女の自宅を訪ねると、そこに女性がいた。

 当然、私には顔は区別はできない。その女性を良美――私を献身的に看護してくれた佐藤良美だと思い込んで――

「良美」そう呼びかけてしまった後、出てきた彼女……

「そう、良美ちゃん。私の弟の――」そう紹介しかけ、ゲラゲラ笑って「ごめん、私の弟の婚約者の祐天寺良美ちゃん、つまり今度妹になるの。義理だけど。つまり弟が結婚すればね。可愛いでしょ? ほんと」

 

 眩暈がした……

 

 二人の良美は同じような服装をしていた。

 

「ほら、お揃いのペアルック。仲良し姉妹」良美が笑った。

 佐藤良美――旧姓尾崎良美がゲラゲラ笑った。


 不倫関係にあり、極秘に会っているのに、将来の自分の義理の妹に私を紹介しようとする、それはどういう神経なんだろう……

 

 それに――

 

 祐天寺……

 

 それで私は理解した。失顔症が故にその女性の顔はわからないが、祐天寺という姓で理解した。その女性はあの施設で会ったあの女の子なのだ。

 祐天寺良美は無表情でただ会釈した。彼女が私があの時の男性だと認識しているようには思えなかった。

 私は失顔症――つまり、顔の「個人識別」能力は著しく低下しているが、顔の表情までわからなくなっているわけではないのだ。それが救いだった。


「この人は――」

 そう、私のことを紹介しようとする良美を私は遮った。

 祐天寺良美があの施設で抱き着いた男性が私であることに気付くのを恐れた。


 祐天寺良美が帰ったあと、私は良美と今後のことを話し合った。当然私は不倫関係を終わらせたいと説得した。しかし、彼女はそれを拒んだ。

「君とは異母兄弟だ。それに君には夫が――」そう説得する私に、

「夫とは別れたい。それに――」


 ――それにあなたと私は血が繋がっていない―― 

 

 彼女は確かにそう言った。

  

 

 あの日も……

 


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