二人で〇〇〇お茶会
二人で〇〇〇お茶会
はて? 尾崎凌駕のAI実験には何の意味があるのだろう? わかるような気もするが、ハッキリとはわからない……
この先、一人で書いていくのは気が重いが、誰かさんのように気楽にAIに訊いてみたいとはなかなか思えないのは、自分がAIエンジニアだからだろうか?
この医療センターにある様々なシステムのほとんどは私が構築している。流石にすべてのコードを書いたとは言わないが、既存のシステムに手を入れてカスタマイズしているのは自分だ。
当然ここのAIシステムも入手したAIエンジンをベースに自分でカスタマイズして――
いや、AIに指示を出してAIが出力したコードもそのカスタマイズに使われている。
チャットのようなもの――この小説でそう言われているシステムもそうして構築したものだし、Web会議システムもそうだ。
そのどっちかを起動して彼を呼び出せば……
彼は死んだが、その脳を学習したAI……
尾崎諒馬を呼び出せば……
お茶会は開催できる。
■■「尾崎諒馬さん、私がわかりますか?」
尾崎諒馬「おや? 退場された主治医かと認識してますが」
■■「ええ、そう名乗っていましたが、本当はシステムエンジニアです。AIエンジニアでもある」
尾崎諒馬「なるほど、このミステリーは嘘に塗れているわけだ」
■■「まあそうですが……。ところでこの小説はミステリーなんですよね? それで作者はあなた」
尾崎諒馬「確かに私は作者ですが、この小説はアンチ・ミステリーとして終わらせましたよ」
■■「いえ、その後も小説は続いています。ひょっとして読んでいない?」
尾崎諒馬「おや? そうなんですね。では――。なるほど、尾崎凌駕が密室トリックを暴いたんですね」
■■「うーん、やはり読了は一瞬ですね」
尾崎諒馬「密室トリックを暴いたところで死んだ者が生き返るわけではないのですがね」
■■「いや、読者は納得しないでしょう? やはりこれはミステリーでは? あなたはミステリー作家なんでしょう?」
尾崎諒馬「ただし、純文学に気触れていますよ」
■■「読んでどうです? 仮にアンチ・ミステリーだとしてもこのままでは中途半端では? あなたの作品なんでしょう? 結末はどうすれば……」
尾崎諒馬「あなたが書いてみてはどうです?」
■■「しかし、私は小説家ではない」
尾崎諒馬「でも、小説家に憧れているでしょう? 主治医が書いた章にそれが滲み出ている」
■■「まあ否定はしませんが――」
尾崎諒馬「埴谷雄高は『精神のリレー』と言ったのです。文学でも哲学でも芸術でも何かに触れて感銘を受けたのならお前が発展させろ! そのような意味かと――。しかし、実際は触れた時に何かに寄生されるんじゃないでしょうか? 文学でも哲学でも芸術でも触れて感銘を受けた途端、何かに寄生されて蝕まれるのかもしれない。ハリガネムシに寄生されたカマキリのように――。寄生されたカマキリは自分の生を犠牲にしてハリガネムシの利益のために行動する……」
■■「尾崎諒馬は死んだが、彼の持つ何かが私に寄生したのでしょうかね?」
尾崎諒馬「もしあなたがこの『殺人事件ライラック~』を書き継ぎたいと思うのなら、そういうことになるかもしれません」
■■「まあ、Web小説として小説家になろうに公表し始めたのは私ですし、何とかミステリーとして完結させたい気持ちはあります」
尾崎諒馬「では、お手伝いしますよ。尾崎凌駕が暴いた密室トリックに存在する矛盾を解消できるとすれば、考えられるのはこの二つです」




