探偵がいないと進展しないが……
探偵がいないと進展しないが……
尾崎凌駕がリタイヤしてしまって、事件の真相解明の進展はすっかり止まってしまった。引き継いだ私に何ができるのだろうか?
いや、一応密室トリックは暴かれたのだけれども……
尾崎諒馬=鹿野信吾=佐藤稔の脳内を学習したとされるAIにチャットで呼び掛けることはできるし、そのAIに何か――手記なのか小説の原稿なのか――書いてもらうことも可能ではある。
それ以外に私にできること……
まだ読者に伝わっていない事実を話すこと……
それは可能ではあるが……
それがあの別荘の事件と関係があるのかどうか?
しかし、やはり書くべきだろうな……
まずは――
――退場するしかない……
――やつにバトンタッチするか……
と、私を「やつ」呼ばわりして退場した自称殺し屋首猛夫について……
このトイレにもう一人誰かいて……
そいつと鏡越しに目があった……
そうとでもしておこうか……
彼はそう書いているが――
確かにあの時、私はトイレにいて鏡越しに彼の顔を見ている、と書いても間違いではない。
彼の顔には確かにやけどの痕があった。しかし、元の顔がわからないほどの酷いものではなかった。
しかし、尾崎凌駕は、
「しかし、あなたは顔が変わっている。やけどを負って……。だから僕には映像に映った犯人とあなたが同じ人物なのかわからない……」そう言っている。
尾崎凌駕には彼の顔のやけどの痕がそこまで酷く見えたのか? かなり誇張したのではないか? 意図的に?
尾崎凌駕について私はあることを知っている。憶測もあるが恐らく正しい。それをここで書くべきだろうか?
書いてもいいのだが、やはり尾崎凌駕自身が直接自分で――
探偵役はリタイヤしたとしても、まだ書くことはあるのではないか?




