表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/144

密室トリックの前に……

 

   密室トリックの前に……

   

 尾崎凌駕が(おもむろ)に口を開く、

「密室トリックの前にやはりちょっと確認したいことがあるんですが……」

「何でしょう?」

「あなた――首猛夫が書いたパート『事件について語る~生首が三つ』の中にも事実とは違う――つまり嘘があるでしょう?」

「ああ、前にうやむやにした――」

「やはり、そちらから先に――」尾崎凌駕が降参という顔で「密室トリックの解明には失敗したようなのでね」

「首猛夫の記述の嘘……」

「ええ」

「ちょっと長くなりますが……」

 そう前置きして首猛夫は話始める。

 

 すべてを燃やし尽くせ! で書いたのですが……

 

「私も殺すのですか?」怯えたように尾崎諒馬が訊く。

「いえ、会長の指示は尾崎諒馬――あなたは助けろ、とのことです。ですが、坂東善は殺せ、とのことです」

 

 そう書きましたが、実際の会長の指示は……

 

 二人とも殺せ

 

 だったんです。

 

「うーん」尾崎凌駕が首を横に振って顔をしかめる。


 会長は「針金の蝶々」の舞台によく似た別荘を建設した。尾崎諒馬の執筆支援のため――

 それでその別荘で惨劇が起き……

 責任をとって――

 

 悪意のすべてを一身に引き受ける


 とか何とか……

 で、割腹自殺……

 

 まあ、あれは生成AIの作成した映像で会長はたぶん病死だったわけですが……

 

 いや、とにかく彼の執筆支援のために別荘を簡単に建てるでしょうか? 仮に彼が自分の子供だったとしても……

 実は会長はそこで惨劇が起こることを予想して……

 いや、期待していたんです!

 

 サイコパスの息子勝男がいつ猟奇的な事件を起こすかわからない。そうなったら、尾崎家、尾崎グループはお終いです。跡取り息子が猟奇殺人を犯す――それだけは絶対に……

 でも起きてしまうのなら……

 街中ではなく、山の中の自身所有の別荘で起こしてもらって、あとは全部燃やしてしまえば……

 うまく、勝男も殺して被害者にしてしまえば……

 そのために「針金の蝶々」を――

 尾崎諒馬を利用したのですよ。

 

 ここであるAIに尋ねた結果を挿入しますよ。

 ネット上のWeb小説「殺人事件ライラック~」があることを認識してもらった上で、

 

 近藤勝男が犯人ではないのですか?

 

 そう尋ねてみたのです。


 回答


 近藤勝男が犯人である可能性は低いと考えられます。むしろ、近藤勝男は被害者の一人として描かれています。


 以下の点から、近藤勝男が犯人ではないと推測されます:


 近藤勝男と妻の良美は、佐藤稔の自宅で発見された3つの頭部の中に含まれていました。

 近藤勝男と妻の車が別荘の駐車場に残されていたことが確認されています。

 警察は当初、佐藤稔を殺人と放火の犯人として断定し、逮捕状を取得しています。


 現時点では、近藤勝男は犯人ではなく被害者として描かれていると結論づけられます。


 AIだけでなく世間も、火事で焼けた現場から冷蔵庫の中の生首として発見される――そういう猟奇的な殺人の被害者を犯人だとは思わない。そういうことですよ。

 それで会長は勝男の斬首に(こだわ)った。

 これで尾崎家――尾崎グループは安泰です。世間は勝男のサイコパスに気づくことはない。

 溺愛している娘良美だけは大事でしたが、サイコパスの息子勝男も、実際は血がつながっていない息子の尾崎諒馬も、勿論、一番認めていない義理の息子の佐藤稔――坂東善もみんな殺すつもりだった。

 そのために殺し屋首猛夫を雇っていたんです。

 最後の会長の指示はやはり最初の予定通り、みんな殺せ、だったんです。

 まあ、最愛の娘、良美が殺されたので、もう他の子供なんてどうでもよくなったのかもしれませんが……

 とにかく会長は惨劇が起こることを期待して……

 あの別荘を建てた……

 そこに尾崎諒馬を呼べば、妙な化学反応を起こして勝男のサイコパスが発露する……

 それを予想して……

 期待した……

 

「それを――」尾崎凌駕が遮る。「あの時尾崎諒馬に話したんですか? 会長が殺せ、と言っているのに、彼は会長に『お世話になりました』と?」

「さあ、どうでしょう?」首猛夫ははぐらかす。

「まあ、とにかくそうであれば、会長が『この世界の悪意のすべては私が自らの死を以て引き受けます』そう言われるのはわからんでもないですね。病死でしたが、最期そう思って死んでいったのかもしれません」

 尾崎凌駕は納得したように頷いた。

「しかし……」尾崎凌駕が続ける。「確かに『世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けろ』というのは重い魅力的な言葉ですが、その言霊だけで尾崎諒馬は自殺したんでしょうか? 確かに彼が『針金の蝶々』を書かなければ――いや、彼がミステリー作家にならなければ今回の悲劇は起こらなかったかもしれない。しかし、それに――、彼に自殺するほどの重い責任が……」


 そうだ。確かにそうなのだ。

 しかし――

 

 結局……

 僕は良美ちゃんを助けられなかった。

 僕が良美ちゃんを殺してしまったのだ。

 

 尾崎諒馬はそう書いている。

 そして……

 世界の【悪意】のすべてを一身に引き受け……

 

「少し勇気がいりますが……」尾崎凌駕がそう前置きして「母屋二階の殺害シーンも見せてもらえませんか? 先ほど途中で止めた続きを……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ