映像をコピーしたUSBメモリ 続き
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尾崎凌駕がポツリと、
「映像他にまだあるようですね?」
「ええ、母屋の二階です。見ますか? いや、見るべきですね。小説に書くより見た方が早い。これも殺害シーン、強烈ですよ」
「逃げるわけにはいかない」
首猛夫は三つ目の動画ファイルを開く。
ダブルベッドに目が虚ろな……
ネグリジェを着て、腕には――
チューブが繋がっている。チューブは真っ赤だ。
「ベッドはダブルベッドです。奥にウォークインクローゼットの扉も見える。つまり、映っているのは母屋の二階です。勝男が瀉血処理をしてます。ベッドに寝ているのは妻の良美です」
尾崎良美――旧姓祐天寺良美がダブルベッドに横たわっていた。浴衣を着てダブルベッド脇に立っているのは勝男だった。
「ほら、わかるでしょ? 先ほどみた二つの動画、あれにも顔がハッキリ映っていた。勝男です。これから妻の良美が……」
「もう一人……ベッド脇に……」尾崎凌駕が口を挟む。
「ええ、呆然と見ている男――佐藤稔、つまり尾崎諒馬=鹿野信吾です」
そこで首猛夫は動画の再生を一時停止する。そしてじっと尾崎凌駕の反応を見る。
尾崎凌駕はただ食い入るように画面を見ている。そして黙っている。
「続けますよ。残酷なシーンですが……」
尾崎凌駕は返事をしない。首猛夫は一時停止を解除した。
勝男がマスクとサングラスで顔を隠す……
妻の良美にも鬼の面を付ける……
「止めて!」尾崎凌駕が叫ぶ!
首猛夫は動画を止めた。
「もう少し後にします。まだいくつか動画があるようでしたが、刺激の少ないものを先にお願いします」
「わかりました」
首猛夫は二つの動画を再生した。
一つは階段のいちりとせ……
確かにウェディングドレスを着た勝男が踊り場に現れ、バケツを頭に被る……
手に何やら持っているが、ポリ袋を提げているのはハッキリわかる!
半透明で生首らしきものが入っているのはわかるがちょっとハッキリはしない。少なくとも誰の生首かはわからない。おもちゃだったとしても多分わからない。
そのまま勝男は一段ずつ降りて行って、いちりとせらしきものは行われてはいないのかもしれない。まあ、音声がないので何も言えない。
もう一つは離れの外……
勝男がバケツを持って離れに飛び込んだ後……
二人の男――尾崎諒馬と坂東善が……
その二人の男の顔がハッキリわかるところで首猛夫は一時停止した。
「尾崎諒馬と坂東善です。二人のミステリー作家」
首猛夫の説明に尾崎凌駕は何も答えない。ただ黙っている。
首猛夫は一時停止を解除した。
尾崎諒馬が離れの裏に、坂東善が母屋に戻って画面から消えたあと、サングラスとマスクの人物が現れ、離れの玄関ドアを僅かに開けて中を覗き込んでいる。
「覗いているのは首猛夫です。離れの外の映像なので動画ではわかりませんが、今、中で勝男がウェディングドレスを広げているところでしょう」
それで動画は終わった。
「ふーむ、つまり外にいたあなたはどうにかして密室の中に入った。そして勝男の首を撥ねて殺して、また外に出た。しかしドアチェーンはそのまま――」
「もちろん、磁石なんてチンケな――」
「ええ、まあそれはわかっています」尾崎凌駕が頷く。
「どうします? 先ほど最後まで見なかった母屋の――」
「いや、後にします。とにかく離れの密室トリックを暴かないと……」
尾崎凌駕は考え込んだ。
首猛夫は何も言わず、ただ尾崎凌駕を見守っていた。
そして……
何故だか、無性に悲しくなってきていた……
口元が僅かに歪み……
目頭が熱くなってきた……
ひょっとしたら涙が流れたかもしれなかった。
「どうしました?」尾崎凌駕が訊く。
「いいえ、何も……」
「そうですか……、まあ、何となくわかりますが……、その涙の意味……」
しばらく沈黙が続く……
――何を今更……
――知っていたことなのに……
――ずっと大丈夫だったのにな……
――ずっとずっと、このミステリーの事だけを考えてきたのにな……
――まあ、俺にも心臓=ハートはあるからな……
――そんな資格はないのだろうが……




