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映像をコピーしたUSBメモリ


   映像をコピーしたUSBメモリ

    

「ここに例の映像が入ってます。重要な部分だけ抜き出していますが」

「例の別荘の? そうか。会長と首猛夫は映像を見たんですね……」

「ええ、廃棄されたはずですが、私はこっそりコピーを取りました。当時は確かJAZというリムーバルディスクでしたが、デジタルコピーは劣化しない。今はこのUSBメモリの中に……」

「それをここで見る? 私のパソコンで?」

「ええ、『別荘での殺人事件』は小説を書くより、これを見た方が早い」

 首猛夫は尾崎凌駕のパソコンにUSBメモリを差し込んだ。

「まずはこれにしましょう。刺激の少ないやつから」

 フォルダーを開いて、一つの動画ファイルをダブルクリックする。

 

 映像が始まる……

 夜中のライラックの小路……

 月明かりで真っ暗ではない。

 音声はない。母屋の玄関が開いてウェディングドレス姿の鬼の面を被った……

 手にはバケツを提げている。そして離れに向かって走ってくる。


「勝男です! 尾崎勝男!」首猛夫が叫ぶ!


 鬼の面は勝男が離れの玄関ドアを開けたところで顔から外されバケツの上に置かれた。尾崎勝男の顔がハッキリ映像に映っている。

 そして勝男は離れに飛び込んでドアを閉めた。

「見たでしょう? バケツの中は映ってませんが、あの中に――」

 唐突に動画は終わった。短い動画だった。

 最後母屋から二人の浴衣姿の――

「奥に小さく映っているのは尾崎諒馬と坂東善」尾崎凌駕がポツリと言う。

「ええ」首猛夫が肯定する。

「短いですね。もう一度お願いできますか?」

 首猛夫は再度動画ファイルをダブルクリックする。

「もう一度」

 尾崎凌駕はそう催促して数回動画を食い入るように見つめていた。

「もういいでしょう。次は――」首猛夫は少し迷った。「先にこっちにしましょう。密室トリックに繋がる核心の――。ただ、覚悟してください」

 首猛夫は深く深呼吸して次の動画ファイルをダブルクリックした。


 ベッドに仰向けに勝男が浴衣姿で寝ている……

「シングルサイズのベッドです。つまりここは離れの中です」

 勝男は微笑んでいた……

 嬉しそうに笑っていた……

 ベッド脇に誰かが立っている!

「ほら! 私です。私が手に――」

 ベッドに立っている人物の手には牛刀が握られていた。

「はっきりわかるでしょう? 私は密室の中にいた! そしてその手で!」

 牛刀が素早く勝男の首に――

 血が迸り……

 生首が……

 転がって視界から消えた……

「もう結構! 止めて!」尾崎凌駕が叫ぶ!

 動画はすぐに止められた。

 

 首猛夫はただ突っ立っていた。

 尾崎凌駕は黙っている。動画の続きを、とは言わなかった。

 

「ここまででわかるでしょう? つまり、私は密室の中に……」

「いや、もういいです」尾崎凌駕が首を横に振って両手で顔を覆った。

 かなりの間沈黙が続いた。

 


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