密室トリックを暴く尾崎凌駕
密室トリックを暴く尾崎凌駕
尾崎凌駕が語り始めた。離れの密室について――
さて――
これから離れの密室トリックについて解明しようと思うのですよ。何しろ現場にいた殺し屋首猛夫――あなたを前に語るので、その真偽はすぐにわかるとは思うのですが、まずは、黙って聞いてください。
読者への挑戦状(再掲)
1 首猛夫はいかにして殺しの任務を遂行したか?
2 密室の謎はまだ解けていない。
如何にして密室は構成されたか?
首猛夫は二つの挑戦をしています。しかしここにも叙述トリックが隠されていませんでしょうか?
素直な読者は、殺し屋首猛夫が何らかのトリックを使ってドアチェーンの密室に出入りし、近藤社長――尾崎勝男を殺害し斬首した、そう思ってしまう。
それは当然の前提で、如何にして犯行を行ったのか――つまりハウダニットの挑戦だと思ってしまう。
それこそが仕掛けられたトリックではないでしょうか?
いえ、最後まで聴いてください。
とにかく首猛夫の言動は少しおかしいのです。もし、密室に出入りして自分の手で犯行を行ったのなら、近藤社長――つまり尾崎勝男の首を自分で斬首したわけですから、最後、その首なし死体を改めて――つまり男性器の上の傷を会長に知らせて「間違いなく勝男」というそういう確認をするはずがないのではないでしょうか?
首猛夫は会長の命令で尾崎勝男を処分するために別荘に赴きましたが、勝男が引き籠った離れはドアチェーンに阻まれて中に入ることはできません。離れが密室なのは、「針金の蝶々」のプロット――未完成でしたが――そのプロットから想定されてしかるべきです。会長もそこはわかっていたはず。
「つまり離れの密室は勝男が自分の身を守るため――殺し屋から身を守るため?」首猛夫が口を挟む。
ええ、そうであれば、飛天御剣流ではありませんが、会長の命令は隙を生じぬ二段構え――たとえ首猛夫の牙をかわした所で、己が準備した密室に逃げ道をふさがれ、もう一人の首猛夫の爪によって斬首される――
「つまり、首猛夫は二人いたと?」再度、口を挟む首猛夫。
ええ、もう一人の彼を「首だけ男」とでも名付けましょうか。ほら、あなたが書いた「別荘に到着」にこうある。
まだ、明るいうちからずっとそこにいたので、離れへの出入りは完全に把握していた。まず、離れの中には最初誰もいなかった。
最初誰もいなかった――
すると、しばらくしたら誰かいたんじゃないですか?
勝男が離れに籠城する前、あなた――首猛夫は外にいたが、誰か――謂わば「首だけ男」が離れに入って身を隠した。
「どこに?」
ほら……
いや白状しますが、AIに訊いてみたんですよ。すると可能性として……
1.二階建ての母屋と別棟の離れからなる別荘
2.離れの中に飾られているチープなお面
3.母屋の立派な階段
4.階段の踊り場に現れた「ブリキの花嫁」
これらの要素が密室トリックの構成に関わっている可能性がありますが、現時点では推測の域を出ません
だそうです。
ほら、離れの中に飾られているチープなお面――
冒頭に書かれていたのに、いざ、惨劇が始まると、まったく触れられなくなった……
おかしい、でしょ? 離れの壁にはお面が……
間取り図を描いたのは首猛夫――あなたです。あなたが嘘を書いた。密室トリックがわからないように!
もちろん、それではフェアではないかもしれない。しかし書けばすぐに密室トリックがわかってしまう。
「間取り図で? 一体どんなトリックが」
正しい間取り図を書けば一瞬で氷解します。
これが正しい間取り図です!
しかし、首猛夫は首を横に振った。
「いいえ、壁のお面の裏にはカメラがあった、ただそれだけです。人が隠れる余地はなかった」
いや、そんな素っ気ない……
「そんなちんけなトリックで読者が納得しますかね?」
ちんけ! うーむ、手厳しいですね……
尾崎凌駕は密室トリックを暴いてみせた。しかし、首猛夫は「ちんけ」と一蹴した。
確かにそれはつまらないトリックのように思える。
しばらく沈黙が続く……




