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話を戻す 人体標本室――

 

   話を戻す 人体標本室――

   

 ここで話を戻す。

 

 つまり――

 

 地下四階より更に地下の人体標本室――

 尾崎凌駕と「良美」なる人物――

 

    *   *   *  

 

 尾崎凌駕の目の前で、首の顔の一部分が僅かに歪んだ。

 ――生きている……首は生きている……

 つまりは生首……

 尾崎凌駕の心を読んだように「良美」が呟く。

「くだらない……」

「くだらない? でも首は生きているでしょう? ほら、今も口が動いている。生きている首――つまりは生首! くだらない? 確かにそうかもしれない。しかし――」

「いや、とにかく――」「良美」いやずっと「良美」と呼ばれている人物が尾崎凌駕を遮った。

「お返しですよ」尾崎凌駕が笑った。「前にあなたもやったでしょう? 顔の仮面を剥いで『私は勝男です』とか」

「あれはただ書いただけで――」

「ただ書くか? 実際に演じるか? まあ、読者は文章しか見られないわけで――」

「とにかく、私は――」

「まあ、茶番はここまでにしますよ」尾崎凌駕は笑って「あなたは首猛夫――ほら、首は生きている!」

 

 説明すると、喪に服すると宣言した尾崎凌駕に「もうそろそろ」と持ちかけてWeb会議システムで話をしようと思った首猛夫だったが、ちょっと驚かそうと医療センターの地下二階の尾崎凌駕を訪ねてきていたのだ。

 その途中で尾崎凌駕から連絡が入り、スマホをWeb会議システムに繋げて話そうとしたが、尾崎凌駕は、

「すみません、パソコンの調子が悪くてそちらの画像もなくて真っ暗、声も届きません。こちらの声と映像はそちらに届いていると思うので、一方的に話しますのでご視聴ください。良美……『ちゃん』を付けるべきか? それとも『さん』を付けるべきか? いや、苗字込みでフルネームで呼ぶべきですかね?」

 そう勝手に首猛夫を「良美」にしてしまって――ちなみにハンドルネームはちゃんと「首猛夫」にしていた――(らち)が明かないのでそのまま尾崎凌駕の部屋を訪ねたところ、彼がパソコンの音量を最大にしたため……

 

 部屋に大きな音が響いた。

 それは……

 絶望的な悲鳴にも似た……

 鼓膜を突き刺すような……

 

 そう、ハウリングを起こしたのだ。

 

「これも叙述トリックですかね? 読者は――」

「いや、もうやめましょう」首猛夫は尾崎凌駕を遮って「しかし、本当に地下にこんな標本が……」

「ええ」尾崎凌駕は真顔に戻って「一応、医療機関の闇でしょうかね。私も本当に最近初めて知りました。この部屋の存在を――」

 首猛夫はじっとその標本を見る。

 二人の佐藤稔……

 二人の良美――いや、勝男と良美……どっちの……

 いや……これは恐らく……

  

「二人の良美は似ていたんでしょうか?」尾崎凌駕が訊く。

「いえ、似てはいない――まあ、判断は個人の主観が……」

「首猛夫は二人の良美は似ている――そう思ったんじゃないですか? 似てると思ったから『耳の形』を頭に入れた」

「耳の形で区別するため? そうかもしれませんね。まあ、二人は似てるとも似てないとも……」

「ほら、こっちの耳はよく見ると耳たぶが……所謂、福耳です。これが良美ですかね? どっちの良美かはわかりませんが――」

「そうですね。するとこっちが勝男……いや、良美ちゃんですかね?」

「良美ちゃんは福耳ではなかった?」

「さあ、どうでしょう」首猛夫はさらりと「ほら、あなたが今『福耳』といったこの生首の耳もそれほどハッキリと耳たぶが大きいわけじゃない。『福耳』と言われればそうかな、そう思う程度です」

 尾崎凌駕は不意に部屋の奥を指差した。

「まあ、僅かでも『福耳』と思えるのならいいじゃないですか。奥にあるもう一つのおぞましい生首の標本……頭に穴が開けられ、夥しい数の電極が突き刺さっている……。それは耳は普通です」

「生首が三体、一つが福耳?」

「ええ、福耳が姉良美ですかね?」

「仮にそうだとして、それで何かわかりますか?」

 首猛夫の問いに尾崎凌駕は首を横に振った。

「まあ、何も」

「密室トリックに繋がる何かがわかったんじゃないですか?」

「まあ、ここまでの茶番な寸劇で読者に少しヒントを与えたところはあるかもしれません」

「なるほど。ヒントをねぇ」首猛夫も笑った。

「とにかく戻りましょう。私の部屋に」

 尾崎凌駕は首猛夫を連れて自分の部屋に戻った。


 

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