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第3話 転生スタート

(ここはどこだ?)


 暗闇の中で意識を失ったが、意識を取り戻しても何も見えなかった。それでも状況が違うことはわかる。今は、暗闇と言うより、何も感じられない状態になっていた。


 自分の現状について理解するまでに、しばらく時間が必要だった。というのも、どうやら俺は母親、転生先で母親だが、その腹の中にいるようなのだ。五感どころか、脳も発達していない状態はずなのだが、不思議なことに意識がある。


 母親が、妊娠してからの経過日数が不明のだが、地球と同じであれば、最長で10か月弱はこのままということになる。


(暇そうだな。)


 それが俺の正直な思いだった。


 それにしても、酷い扱いではないか。こちらの都合も聞かず、選択肢もない。いきなり異世界送りとは。使命も、ざっくり異世界を救って欲しいと伝えられただけ。望み薄ではあったが、転生特典についても結局聞けず。まあ、諦めていて、聞き忘れていたのも事実ではあるのだが。


(・・・まあ、いつものことか。)


 そう、いつものことだ。俺は、他の場所で戦略も戦術も破綻して、どうにもならなくなると、名指しで呼ばれる。社会人の時から変わらない。結局、放り込まれた先で、自分でどうにかするしかない。既に起こってしまったことは変えられないし、こうなったからには、前向きに捉えていくしかない。


 状況は良くないが、最悪でもない。何もしないくせに、要望や文句だけいう上司がおらず、俺の成果で出世した先から、余計な仕事が振られることもない。余計な足かせや制限がなく、好きなようにできる。むしろ状況としては良いとも考えられるだろう。


 前世の知識がある状態で、しかも0歳児からスタートできるのは有利だ。転生特典の王道、自動翻訳能力なんてものは、望むべくもないが、これなら転生先での言葉に困ることはなさそうだ。


 今後は、前世の知識を持つというイニシアティブを、いかに活かすかを考えていく方が、建設的だろう。活かせる範囲は、生まれた家に大きく影響されることになる。せめて、貴族や金持ちの家に生まれれば範囲も広くなる。せめて、それくらいは期待したいものだ。


(しかし、どうしたものかな。)


 何をするにしても、今は情報が圧倒的に足らない。足らないというより、ない。声だけが良い駄女神も、完全に沈黙している。駄女神は不遜な呼び方だが、俺の状況を知れば、罰を当てられる筋合いはない。いや、むしろ既に、現状、罰が当たっている状態なのかもしれない。


 駄女神の話では、この世界は環境破壊が進んでいるという。それを改善して救うことを、最大の使命と考えるとしても、そもそもその理由が、分からない。文明が進んだ影響か、氷河期なのか、大火災が起きたのか、はたまた未知の生物などによる原因によるものなのかも、さっぱりわからない。


 当面、この世界の情報収集に努めるしか手はないのだが、今の状態では手段が限られ過ぎている。唯一情報源となりうるのは、俺の体と直接接している母親から、うっすら伝わってくる感覚のようなものしかない。


・・・


(ふう。期待薄だな。)


 意識を取り戻してから、数日が経過した。母親から伝わる感覚の情報だけでも、生まれる家に期待できず、将来に暗雲が立ち込めている。特殊な事情、例えば母親が病気でもない限り、生まれる家は裕福ではなさそうなのだ。


 母親から伝わる感覚から、常におなかを減らしていること、理由は分からないが、よく震えていることなどが分かる。そんな状況でも、俺が死なずにいるということは、必死に生きようとしてくれているのだろう。


・・・


(本当に暇だ。)


 今の状態は、何も与えられないまま、牢獄にとらわれているようなものだ。この状態では、72時間が限界と聞いたことがあったが、その時間は、とうの昔に経過した。


 耐えられる理由は、前世での見聞きしたことは、前世以上に明確に思い起こせること。理由は分からないが、そのお陰で暇は潰せているのだが、過去の記憶にある事実は変えられないし、新たな知識は増えない。一刻も早く外に出して欲しい。


・・・


(確実に、成長はしているようだな。)


 少しでも新たな知識を増やそうと、外の情報収集に努めようとしているが、五感がろくに発達していないため、情報がしばらく取れない状況が続いていた。それでも、少しでも情報を得ようとあがいていたところ、思っていたのとは違う方向で、わかる情報が僅かに増えてきた。


 母親から、へその緒を通して、栄養が送られている感覚や、違う場所から、何かが送られていることが知覚できるようになってきている。送られてくる栄養は、日によって違うことが相対的にわかる。栄養が送られる量が、少ない日の方が圧倒的に多く、母親が食うにも困っていることが伺え、悲しくなってくる。


 栄養不足による、体の成長を心配していたが、少しずつだが順調に育っているのを感じている。へその緒とは違う場所から送られてくる「何か」が増していて、感覚でしかわからないが、それが良い影響をもたらしている。そう感じている。


・・・


(なんなのだろうか)


 栄養とは違う「何か」、その正体は分からないのだが、直感的に悪いものや、危険なものではないのも理解できている。体が順調に成長するにつれ、五感とは違う、その何かわからないものを感じる能力が、日増しに強化されていくのを感じる。


 母親から送られてくる栄養は、相変わらず不安定だが、俺の成長は順調だ。その理由は、栄養とは違う何かであるのは、ほぼ確実だ。色々考えたのだが、前世の常識の範疇で、それに対するものは、結局思い当たらなかった。


 前世の常識の範疇外で、異世界にあるもの。思い当たるものは、女神が言っていた『マナ』だ。女神は『マナ』は生物の根源であり、基本的には意思を持たない力の根源と言っていた。それが体に流れ込み、足りない栄養を補っていると考えると、今の順調な成長もわからなくはない。


 確証は持てないが、前世の知識ではわからないものだし、この際、もう『マナ』と呼ぶことにする。それは俺の中に、確かに流れ込んでいる。徐々に『マナ』を感じる能力が強化されているのか、流れ込んだ後も、知覚することができる。それを利用して、しばらく流れを意識して調べてみた。


 『マナ』は、俺の体の近くに常に集まってきており、体のある1点から吸い込まれるように入り込んでいるのが分かった。このような状況は、この異世界では常識的なものなのか、女神が特別に用意したものなのかはわからないが、無事に生まれることができそうなのはありがたい。


 女神が用意したものであるならば、感謝すべきことだろう。そういえば、女神の名前さえ聞けていなかったな。


・・・


(ようやくか。)


 母親の腹の中では、太陽の光なども感じられず、日数の経過が分かりにくいが、体内時計のようなものが備わっている。その体内時計で、4か月程度経過したとき、いよいよ出産となるようであった。結局、得られた情報が少なすぎて、産まれた後の戦略や行動方針は決まらないままだが、産まれた後でも十分考える時間はあるはずだ。


(ぐは、苦しい。)


 もやもやと、今後のことを考えていたら、強く圧迫される感覚が続き、やがて外に出られていた。その時間は短く、拍子抜けするほど、あっさり外に出ることができた。ありがたいことに、安産だったのだろう。


 やっと暇から解放される! 待ち望んだ瞬間であった。だが、外に出られたものの、さまざまな器官が未成熟で、すぐに、いろいろ見えるわけではないことを改めて思い知った。五感で異世界を感じる日が来るのが、本当に待ち遠しい。


・・・


(やっぱりな。)


 産まれてから2週間以上が経ったが、相変わらず、得られる情報が少ない。だた、うすうす想定していた通り、恵まれた環境でないことだけは、すぐに分かった。


 俺の体は、沐浴をされる様子もなく、たまに水で拭かれている程度。母親は栄養が十分でないためか、母乳があまり出なかった。それでも、母親が、懸命に俺を育てようとしてくれているのは十分に分かる。


 しばらく経ち、離乳食が食べられるようになっても、安定して食事が提供されることはなかった。それでも俺は順調に育ち、五感も発達し、言葉も理解できるようになっていった。


「産んでしまってごめんね・・・」


 言葉が理解でき、これまで口癖のように聞かされていた言葉の意味を知った。家はやはり貧乏で、食べ物は恵んでもらうことや、時にはごみをあさるような生活。父親はどうやらいない。


 母親の言動から父親は生きているようで、くそ野郎の可能性が高そうだった。一日でも早く自由に動けるようになって、まずは親孝行をめざしたいと考えていた。

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