第4話 転生先にて
意識が回復してから4か月ほど経ち、ようやくこちらの世界に産まれ出ることができた。想定内とはいえ、残念なことに貧乏な家の生まれで、母乳も離乳食も十分ではなく、栄養は十分とはいえなかった。だが、幸いなことに体は順調に育っており、器官が発達するにつれ、五感から得られる情報量が増えてきていた。
前世の意識を保ったまま、0歳児になるという特殊な状況なので、確証は持てないが、日々の情報量の増え方が異常に思える。子供の成長は、見極めが難しいし、この世界の他の子供と比較できていないが、既に、周りを認識できる十分な能力が身についている。
子供の成長速度について、今後も検証が必要だが、少なくとも、植物の成長速度は、明らかに早い。家の近くに生えた植物の成長速度は、地球の倍だ。種類によっては、それ以上早いのではないかと思う。仮説を立てるとすれば、女神が言っていた、周りに『マナ』が充満していることが、植物の成長速度に、影響しているのかもしれない。
今のところ、得られた情報を精査すると、他に地球との大きな違いは感じられない。1日や1年の考え方は地球と大差ないようだ。女神が、地球との環境条件が似通っていると言っていたのは、事実なのだろう。
毎日、情報収集に努めているが、俺はまだ小さく、自分で移動ができない。基本的に、母親に抱かれて移動した先しか見ていないが、生まれた場所の様子が少しずつ分かってきた。
気候は、極端に暑くも寒くもない。すれ違う人は疎らで、人口も多くは無いようだ。せいぜい村程度の規模だろう。村は山の斜面に作られており、平らな場所には作物が植えられているのだが、あまり順調に育っていない。作物の成長速度は早いが、その分、駄目になる速度も早い。
村全体的に、作物が育たないのであれば、慢性的に食糧が不足している可能性もある。稀に、母親が村の外に出ることがあるが、周囲には広大な砂漠や荒野が広がっている。
村から外には道らしきものもなく、この村への人の往来がほとんどないことも想定される。お世辞にも暮らしやすそうな土地とは思えない。よくもこんなところに定住するな、というのが正直な感想だ。
何か特別な資源があるわけでもなく、産業もあまり発達していない。小規模な放牧や農業などの一次産業が行われているが、それ以外を営んでいる様子がない。この村の唯一の利点は、砂漠の近くではあるが地下水が豊富であること。その水が生命線となっている。
皆が貧乏で、他の家を支えられるような余裕はない。だが、心の支えとなるような宗教があり、同じ境遇に、耐えながら暮らしているように見える。
こういった状況であれば、水は貴重な資源となりそうだが、村の中はもちろん、外から水を求める人が来る様子もない。この世界、少なくてもこの周辺では、水が貴重ということはないようだ。
五感が育ち、音が聞き取れるようになってからは、まわりの声を聴きながら言葉を覚えた。この体は、若いせいか物覚えが異常に良く、一度聞いたことは細かく思い出すことができる。
聴いた声も細かく覚えているので、後から思い出して復習することで、単語の意味の習得も早い。お陰で、生まれて1年程度経った時点で、日常会話であれば、ほぼ理解できるようになっていた。
その頃には、周りの子供達を見る機会も増え、観察の結果、周りの子供を見る限り、成長速度は前世と変わりがないことが理解できた。
たった1年で、日常会話をするような子供がいれば、閉鎖的になりやすいこのような環境下では、ろくな目にあわないことは想像に難くない。俺の成長速度は異常だが、栄養不足と相殺されているため、他の子供より、やや大きいくらいで済んでいる。
住んでいる村の名前もわかった。村の名前を口にする人が、ほとんどいないので、知る機会がかなり長い間なかったが、ようやくわかった。村の名前はアンファング村というようだ。まあ、知ったところで、外から人が来ないこの村では、一生その村の名前を使うことがないかもしれない。
村は、自給自足が基本の貧乏な村で、貨幣も見たことがない。周りは、ほとんどが耕地に向かない土地で、農業は村の中の限られた土地のみで行われている。
耕地が限られているうえに、農業以外にろくな産業がないため、人手が余っているようだ。母親は中々定職につけないようで、苦労している。
俺が乳離れをしてからは、俺を置いたまま朝から働き、時々様子に見る以外は放置されている。忙しく働いているわりに、貧乏でろくに飯が食えない状況が続いているからか、母親は相変わらず、聞くと悲しくなる、例の口癖をつぶやいている。早く大きくなって、支えられればと思うのだが。
俺は放置されている時間を使って、なるべく家の外から聞こえる声に集中して、日々情報収集に努めていた。だが、産業もなく、人の出入りもなく、刺激になるような出来事も少ない田舎の貧乏な村では、すぐに情報収集を続ける必要性がなくなった。
(産まれた後でも、結局、暇なのか。)
母親のお腹の中で、十分な時間暇を持て余したが、再び暇になってきていた。情報収取の必要性も薄れ、暇になってきてからは、その時間を使って、女神から丸投げされた使命について考えている。
今の環境で成人したとしても、できることは非常に限られる。このままでは、とても使命に費やす時間が確保できるとは思えない。現状をしっかり認識して、無策にならないように今後の方針くらいは持っておきたい。
女神は、この世界は環境破壊が進み、人口が減り、さらに大型獣や魔物が出現して、人口減少に拍車をかけていると言っていた。だが、この村では、大型獣や魔物のことはほとんど話題にあがらない。
村に実害が出たという話は全くなく、稀にその存在や恐怖について噂程度の話を聞くくらいだ。この村から出るようなことがない限り、大型獣や魔物に対する対策などの優先順位を低く設定しても問題ないだろう。
環境破壊だが、この村の周辺は、見渡す限り砂漠か、草木が多少生えている程度の荒野になっており、土地に力がないように見えた。今の状態が、環境破壊の結果で、前世と同様の原因であることがわかれば、少しは打つ手があるはずだ。少しでも改善を図りたい。
片親とは言え、頑張って働いている母親が、まともに生活できない状況は、正直許容しがたい。環境を改善することで、農業が行える耕地を広げられるなら、母親も農業で生計を立て、今よりましな生活ができるはずだ。せめて、真面目に働いている人が、食に困らないくらいにはしてあげたい。
ただ、環境破壊というテーマは、原因や事情にもよるが、当然簡単に改善や解決ができるわけがない。仮に、周辺が環境破壊により、砂漠化が進んだ土地と仮定する。砂漠化の主な理由は、気候変動や、人間の活動などによる土地の劣化になる。
気候変動の原因は、様々だが、例えばCO2などの排出に起因した温暖化であるなら、当面お手上げだろう。改善していくためには、クリーンエネルギーを開発する技術力が、まず必要になる。更に難しいのは、開発したエネルギーの利用や、CO2排出を抑制する生活への転換などを実施させる強制力が必要になってくる。
どう考えても、現状で取り組めるような話ではない。世界中に強制力を働かせるなら、極端な話、世界征服をする必要がある。それこそ、俺が今すぐ強力なチート能力に目覚める。そんなことでも起きない限り、妄想する気にもなれない。
まあ、この村の技術力を見る限り、CO2などの排出に起因した温暖化の可能性もほとんどない。この世界のどこかに、工業が異様に進んだ国があれば別だが、恐らくそんなことはない。環境破壊の原因は、もっと単純な理由だろう。
可能性が高いのは、人間の活動による土地の劣化、それに起因する環境破壊だろう。前世の知識を参考にする限り、この村の技術力や、産業の発達具合、人口などを踏まえると、見渡す限り荒野になるような環境破壊が起こるとは考えにくい。
前世の知識外となると、やはり植物成長が早いこと。その影響かもしれないが、情報不足のため、原因の特定まではできそうにもない。
暇に任せて、色々と考えて見たものの、結局、幼児の俺には、ほとんどできることがない。今は、引き続き情報収集も行いつつ、体の成長や能力向上に努めながら、力をつけていくことに努めていこう。




