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3 ソシアス王国

 半年後、ソシアス王国の王都陥落の報がもたらされた。

 三ヶ月にわたる籠城の末、ソシアス王は敗北を認め、開城を選んだ。

 フェルナンドはソシアス王との会談のため、城に足を踏み入れた。

 数名の部下と共に謁見の間に入った途端、ドアは閉じられ、兵がフェルナンドを取り囲んだ。

「聞いたとおりの甘ちゃんだな」

 玉座に座った王が手を振ると、十の槍が一斉にフェルナンドを突いた。

 しかし、フェルナンドは無傷だった。

 少しも焦った様子はなく、体に当たる寸前で折れた槍を平然と見やり、焦り恐怖する兵達の首を魔法を込めた一振りの剣で一瞬にしてはねた。

 そしてそのまま玉座に歩み寄ると、少しの迷いもなく王の首をはね、ごろりと床に転がった頭を片足で踏みつけた。

 王妃とその子供達が目の前で起きた王の死に震え、腰を抜かし

「な、何とぞ命だけは…」

と後ずさりするのをドレスの裾を踏みつけ、フェルナンドはゆっくりとした口調で尋ねた。

「王とつながっていたのは、アグアドの王妃か?」

 震えながら何度も頷いた王妃の胸を、ためらうことなく剣で貫いた。怪我を負ったと聞きながらピンピンしている王太子も、第二王子も、まだ幼い王女に至るまで、部屋にいた王の一族は例外なくその場で命を落とした。


 今回の戦に王妃エデルミラとその祖国ダレス王国が加担していたことは明確だった。

 第一王位継承者を正当に消し去りたいエデルミラ。自分の自由になる者にアグアドの王位を継がせたいダレス王。そして国境近くの領土を狙うソシアス王。

 言いがかりをつけて意図的にアグアド王国に兵を向け、アグアドの第一王子であるフェルナンド率いる軍を国境で全滅させる計画は、思いのほかうまく進んだ。

 しかし半端者の寄せ集めだったはずの軍は戦いを進める毎に強さを増し、無能なはずの魔法使い達は調子づいたように魔法を炸裂させた。中でもセラフィナの防御魔法の効果は高く、敵の魔法攻撃はほとんど効かなかった。

 すぐに終わると思っていた戦が長引き、ソシアス軍が苦戦するのを見て、ダレスからの援軍は撤退を始めた。徐々に戦いの場は国境からソシアス国内へ、そして王都へと移り、長い籠城も、最後の大逆転を狙った開城も無駄に終わり、王の妹の息子であるフェルナンドの手によりソシアス王はその命を落とすところとなった。

 年若きアグアド王国の第一王子フェルナンドの死に場所とするはずだった戦が、ソシアス王国の崩壊をもたらすなど、誰が予想しただろう。


 フェルナンドはソシアスの王城に留まり、刃向かう貴族達を統制し、一年をかけてソシアス国を手中に収めた。戦争中のフェルナンドの無慈悲な戦いぶりを知るものは皆怯え、人々は影でフェルナンドを残虐王と呼んでいた。

 しかし、城を落とし、王の一族を躊躇なく一掃して以降、フェルナンドが剣を振ることはなかった。

「王たる者が自ら誅する必要はありません。罰が必要なときは、私共にお命じください」

 自ら王の代理として刑の執行人を名乗り出たのは、四人の魔法使いだった。

 フェルナンドの命を狙う者、言葉以外で刃向かう者はその場で命を落とし、怒りを買った者は地下牢に運ばれた。


 時折、数日後に魔法使いが王に以前の事件を問いかけることがあった。

「先日の納税に関する異議ですが、新たな提案を受けました」

「そうか。…検討しよう」

 思い出したように話を向け、短い報告の後、魔法使いは立ち去った。

 そしてその事件に関わり地下に送られた者は、王の怒りが消えている時は軽い刑か、時には何事もなく放免され、王が許さぬ時は死をもって償うこととなった。


 時にアグアド王国の者が様子を見にソシアス国の王城まで来ることがあったが、例え警備であっても武人を伴うことは許されず、武器は入城前に預けられ、拒否した者は入城を認められなかった。どんなに武器を隠し持っても、セラフィナが王城に仕掛けた守護魔法により王を裏切ろうとする者の企みは見破られた。王に面会できるのはほんの数分。訪れた者達は機嫌を悪くしたが、悪態をついて王の機嫌を害した者、王都で暴れた者は、どの国の者であろうと変わりなく処罰された。例えアグアド王や王妃の命で訪れた者であったとしても例外はなかった。

 ソシアス国の者は、自分たちが敗国の民であっても虐げられることなく、正当に守られていることに安心し、新たな王の下、徐々に元の生活を取り戻していった。

 

 ソシアス国に平穏が戻っても、時折フェルナンドは発作のようにうなされることがあった。自らの強い魔法で揺るがない心を得たフェルナンドも、眠りの中の悪夢までは制御できず、襲いかかる闇に抗おうともがく中、どこからともなく守りの力が注ぎ込まれると黒ずむ闇がゆっくりと晴れていき、眠りの世界へと導かれた。しかし目覚めたフェルナンドがそれを覚えていることはなかった。


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