ときめき奏多メモリアル 中篇 その①
*思ったより話が長くなりそうなので、申し訳ありませんが中編は分割してお送りいたします。
最新話投稿です。現在絶賛夏風邪発症中です!!
01-【SISTERS CREATER】
次の日―――靫空奏多は朝の10時、自宅から少し離れた閑静な高級住宅街に単身・・・否、1人と1匹がいた。
というのも、話は昨夜の深夜にまで遡る・・・
時刻は0時12分。奏多は風呂から上がり、家事も一段落したので自室に入り、就寝前に買いだめていた大量のコミックスの新刊や、読みかけの推理小説など、夏休み中にどの順番で消費するか悩んでいた。
読みかけの推理小説も消費したいが、以前、月夜と大前に勧められた漫画やライトノベルも気になり、はたまた泣けると絶賛の映画の小説版も読みたいと、まるでレストランに来てメニューに悩む客の様に目の前に連なる本の塔から選抜本を選ぶのに必死だった。
すると、山積みの本の上に王宮のペルシャ猫の様な座り方の一匹の元・野良猫兼、現・猫神という現・ペットであるソナタがいた。
何を思っているのかはわからないが、本を取るためにかがんでいる奏多より気持ち数センチ目線が高いのか、猫がドヤ顔をする、いや猫の顔なので正しくドヤ顔なのかは定かではないが、それらしい何とも表現しにくい顔になってしまっていた。
そして、綺麗な姿勢を保ちつつ、口を開いた。
「主よ、一つ儂の頼み――ジャぎゃべ!?」
なにかを言いかけたタイミングでバランスの悪くなった本の塔は崩壊し、突然の事で反応が出来ない猫は素っ頓狂な声と共にロケット加速の如く、主人の胸に飛び込んだ。
一方、奏多の方も、予測できない本の雪崩のせいで視界を奪われただけでなく、数冊の本の角が頭部、額、瞼、頬、口、肩、股間、太腿、脛、足の甲に飛来し、そのダメージを感じる間もなく、猫ロケットが炸裂し
胃の中身が逆流しそうになった。
「は・・・う、うぅ・・・あっ・・・」
特にダメージが大きかったのは当たり前だが股間だった。
しかも股間に飛来した品は完装版のコミックで、重さ及び大きさは英語の辞書と同等、もしくはそれ以上であったため正に悶絶物の一撃と化した。
「あいたたた・・・す、すまぬ主。」
「だ、大丈夫。じゃ・・・ないよ、全く・・・・で、何を言いかけてたんだい、なんだか今日は色んな人から色んなことを頼まれ過ぎてもう何でも来い精神になっている僕に、何を言いかけたんだい?」
股間のダメージと一日の精神的疲労で頭がおかしいのか、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
「何で説明口調なんじゃよ・・・まぁ良い。折り入って儂からのお願じゃ、夏中お前さんと一緒に同行させてくれ。」
「同行・・・そりゃまた何で?」
「うむ、よくぞ聞いた。まぁ大きい理由があるとすれば・・・要するに暇なのじゃ。儂は時折、近所の神々の会合に出向く程度で外出をしておるが、遠出をしたことがなくての。犬神の奴を次の会でコテンパンにせねばならぬのだ!!」
そもそも、神の会合とやらが近所で行われている時点で結構凄い事なのだが・・・そもそもこいつは野良だったので色んな所を言っているんじゃないのか、またお前に掛けている一週間の食費で妹の弁当を週に3回は重箱にできるレベルなんだぜ、とツッコミを掛けるのは面倒くさいので省略しよう。
後、暇だと言っているのも大いに合点が行く、この猫と来たら、梅雨入り時期から今日まで『儂のきゅーてくるな毛がゴワゴワするから『えあこん』とやらを掛けっぱなし行けい!!』などと家では日中ゴロゴロしては買いだめしてあるお菓子を貪り、部屋に置いてあるPCで勝手にゲームはやるは、動画は見るは、終いには何を思ったのか成人向けの漫画サイトで【ケモ耳 幼女 ハードプレイ】などと変な用語をいれて検索した履歴も残っており、良い子には見せられない絵や映像が映っていた。
このニート猫を永遠の5月病から脱却させるためには、一度田舎の山にでも放りこもうと思っていたところだったのだ。
「分かった、イイよ。で、どうする?そのままで歩くか?鞄の中に入って移動するか?それともケージの中に入るか?」
鞄に猫をいれて歩くか・・・うん、どこかの怪盗団の眼鏡のリーダーもやってたし、カッコイイからありかも・・・
「ん?いや、儂は人間に化けていくぞ、無論、乗るのはお前さんの"ばいく"とやらの後ろじゃ。」
ふむふむ幼女を連れ、夏中連れまわす・・・一瞬で怪盗と同等、はたまたそれ以上の犯罪者になってしまいそうだ。
そうでなくても、知り合いに見られたらあらぬ誤解を植え付けられそうなので本当にマズい・・・
「えっと、ソナタさま。申し訳ありませんが鞄に入って頂けると嬉しいのですが・・・」
「後ろの座席じゃ、もう決めた。実は先刻"ねっと通販"とやらで買い物をし、服は一式揃えておる。」
なるほどこちらの意見は無視・・・ん?ネット通販?
奏多の言葉など放っているソナタは奏多の私服の入ったクローゼットの奥から真っ白のワンピースやチェックの半袖など数着の子供サイズの服が出てきた。
「お、お前・・・いつの間に、て!お金はどうしたんだ!?」
「お前さんの財布からちょくちょく抜いておいた。ほれ、今こんだけ溜まっておる。」
と服の中から一万円札が何十枚も束になったモノが出て来て、自身のお小遣いの様に見せびらかしているが、このお金は僕が稼いだものだ。
奏多はこの時初めて全国に少しは居るであろう子供から財布のお金を盗まれた親の気持ちを理解できた気がする。うん、腹立つ・・・が、まぁ、いいや。金には困ってないし。
「はは、お前は将来良い怪盗になるよ。」
「ん?儂は既にキャッツアイじゃぞ、リアルな意味で」
「何でネタ解るんだよ。」
と特に面白くも無い冗談を言ったところで、直ぐに寝て、起きて、今に至る。
今は夏、10時ごろに照り付ける日差しはアスファルトからジリジリと熱気を発せさせ、蜃気楼が見えるかの如くモヤモヤとなっていた。
蝉の音が鳴り響き、一層夏感を醸し出す。
「熱いのう、どうなっておるんじゃ日本の気候は?」
この猫が日常的に日に当たらないせいか真っ白な肌に流れる汗が異様に目立つ。
「温暖化やら異常気象のせいさ、そんなに嫌なら冷房の使用をお控えください。エアコンからでるフロンガスは一応原因の一つだからさ。」
「断る。」
すっぱり言われた、この神には環境とかどうでも良いのだろうか・・・全く、本当に神なのかも疑わしい。
すると、奏多はあることに気がついた。
(服が透けて、多分アウトなところまで見えてる・・・)
何と、ソナタ(人間体/幼女)の真っ白なワンピースに汗が染みこみ、当然この猫に下着を付けるなどという風習はないので色々なところがスケスケとなっていた。
「でも、流石に同級生や知人にお前の姿を見せるとマズイ、高校2年生が子持ちみたいな変な噂が蔓延しかねない、だから2人きりの時はそのままでいいから、人前に出るときは流石に猫に戻ってくれ。」
「え~・・・儂このままがいい~~」
「1日1本カルピス。」
「ほれ、はよう鞄に入れろ。行くぞ」
なんて欲望に忠実な奴だ。
猫の姿になると、服はそのままなので奏多は素早く服を回収し、若干濡れたワンピースを目立たないようにバイクに掛け乾かすように置いた。
ソナタは鞄に入るとヒョコッと顔だけ出し、窮屈そうにもぞもぞしているのが伝わってきた。
そして乙家のチャイムを鳴らすと、インターホン越しに元気な声が聞こえてきた。
『いらっしゃーい!!ドアは開いてるから入って入って!!』
元気な刹那の声が聞こえ、その言葉に従い扉を開けると、玄関に入ると直ぐにキレのいい決めポーズを決めたメイド姿の乙姉妹が立っていた。
「・・・何故にメイド?」
その言葉に反応したのか、ふっふっふ、と不気味に笑いポーズの形状を変えると、こちらに指を突き刺すように指摘した。
「接待にはメイド服が常識なんだぜ、お兄ちゃん!!」
「・・・ご奉仕タイムはメイドの仕事だよ、兄ぃ。」
純白のふわふわエプロン、黒白のストッキング、メイドカチューシャ、そして対照的に刹那は左頬に永遠は右頬にそれぞれ派手な文体でⅡ&Ⅲとタトゥーシールが貼られていた。
両極、胸の差が目立つが抜群のプロポーションなのでそういう趣味を持つ人にはたまらないだろう。
多分、世間一般的な見方からすればこの二人は可愛いのだろうが、奏多にとっては夏なのに熱くないのかなと、ちょっと心配になってきていた。
「ねぇ~どう!?似合ってる~?」
「・・・評価をどうぞ。デレレレレレレ」
「うん。似合ってるんじゃないか?可愛いと思うぞ。」
それを聞き互いに顔を合わせでへへへ、と声を出しながらニコニコ笑っていた。
こいつらが解らない・・・
リビングに上がると、意外に綺麗になっており、以前、家に上がった際とは180度ちがった雰囲気だった。
「あ、お兄ちゃん。飲み物出すね」
「実は特製ドリンク・・・作った。」
と奏多の前にドンと出されたのは―――
「タピオカ?」
「うん!今巷で話題のヤツ!!」
「業務用スーパーで売ってた・・・」
タピオカミルクティー別名パールミルクティ、発祥は台湾。主流はミルクティーにトウダイグサ科のキャッサバを原料として作られるタピオカをいれ、ミルクティーを飲む際に同時に楽しめるモニュモニュとした触感が主に女子高生に人気な飲み物だ。
だが、現実は非常である。
この飲み物、糖質・cal共に白米一膳分に匹敵し、あろうことか、紅茶に合うという理由でバターがふんだんに使われたケーキやクッキーと食べ合わせることで、幸せと引き換えに1日分の糖質接収を高々数分で完了させてしまう物だ。
いくらタピオカに食物繊維が豊富だろうがそれ以上の糖質をその元であるキャッサバ・ミルクティーの糖質で相殺すら敵わないのでダイエットは勿論、痩せたい人にとっては全く無縁と言っていい。
「そういやニュースになってたな・・・4時間並んでこれ買う人いるんだろ?」
「女子高生はインスタとかそう言う系のSNSで盛り上がりたいんだよ。」
「所謂、『流行に乗れちゃってるぜ、私!』みたいなノリ・・・。」
「大変なんだな、最近の女子学生って・・・」
全国の女子学生に尊敬の意を込める奏多であった。
「じゃ、いただきます。」
と一口含んだ瞬間、口の中に、甘味、苦味、酸味、渋味、様々な味が口の中でsuperking!!
無論、吹き出してしまい、2人に掛かってしまった。
「わっ!お兄ちゃん汚い!!」
「・・・ある意味ご褒美。」
「お、お前ら・・・これ、何をベースに作った?」
「ん~・・・えっと、紅茶に牛乳に砂糖に蜂蜜に檸檬にチョコレート!!」
「・・・あと、乾燥蠍の粉末、揚げイモリの磨り粉、すっぽんエキスに、ローヤルゼリー、赤蝮ドリンクに・・・こちら、【50歳からでもまだまだ元気!!マーラ・ダ・グングン】(¥8780(消費税込))。」
「後半がほとんどハイポーションのレシピになっているんだが・・・オエッ、口の中がイガイガする。」
水道口に飛びつくように走り、ゴクゴクと水で喉に貼りつく薬物感を取り除く。
「お、お前等・・・ミルクティーはどうした!?完全にミルクティーの色だから騙されたぞ!!」
「だって、私牛乳嫌いだから、家に牛乳置いてないんだもん」
「阿保か。何故午後ティーとかで代用しない・・・」
「はっ!」
「『はっ!』じゃねぇよ。その魔ドリンクで一体何本ミルクティー作れると思ってんだ?」
というか、刹那牛乳嫌いだったのか・・・だから、2人に成長の差が――――
思わず刹那を凝視してしまい、刹那が照れくさそうにしている。
「おい、何だか、身体が熱く成ってきた。お前等本格的にヤバいの入れたろ!!」
すると、ダンスを踊る様に互いに手を握り合い、拳をこちらに着きだすと、再び決めポーズを決めた。
「私達からの粋な計らいさ!!今夜は寝かせないぜ!!」
「・・・さぁ、やろうぜ・・・〇〇〇。」
「朝っぱらとんでもない事言い始めたなお前ら・・・全年齢なんだから、もうちょっと発言に責任を持て。」
「誰に向かって言ってるんだい?お兄ちゃん。」
「僕を含めた世の中の健全な少年たちにさ。」
「・・・って、言ってる奴ほど、意外とむっつり~。」
この妹擬き共め・・・
奏多は体の奥底から、熱さから出はない体の火照りを感じ始め、台所で水をがぶ飲みすると、少しは落ち着いた。
「ん?お兄ちゃん、鞄に何か入れてるの?」
「もぞもぞしてる・・・」
奏多が見ていぬ間に、鞄に手を出そうとしてたのか鞄の周りに立つ二人が鞄のチャックに手を掛ける。
「あぁ、実は――――」
と鞄のチャックを開いた瞬間、束縛から解放された一匹の猫は華麗にシュタっと地面に着地した。
「にゃおん。」
「猫!」
「にゃーにゃー可愛い・・・」
予想以上に猫に喰い付いたのは無表情の永遠でソナタを抱きかかえるように捕まえると、頭をなでなでと撫で色々なスキンシップをし始めた。
「この子の名前は?」
「ソナタだよ、今年の4月ごろから飼い始めたんだ。」
「頂戴。」
「ダメだよ。てか、金稼いでるんだったら自分らで買って飼え。」
「・・・・ケチ。」
ここでケチという言葉が浴びせられるのは何か違う気がするがするが、気にしない気にしない。
「で、今日の仕事の、えっと・・・僕の声の収録だったね。もう準備は出来てるのか?」
「うん!!二階の一室全部音声スタジオに寄せて改造してあるからいつでも収録出来るよ!!」
「台本・・・呼んできた?」
「あぁ、とりあえず一通りはな。結構普通なセリフばっかでちょっと拍子抜けだったけど。」
「んじゃ、収録しよっか!!」
「ソナタちゃんも・・・」
永遠はソナタを抱え、3人と1匹は2階の一室に入った。
部屋に入ると、二部屋分を貫通して半分は様々な機材が置かれており、窓付きの壁に隔たれ、もう一方の部屋にはスタンドマイクがポツンと建てられており、大きなヘッドホンに台本立て傍にはモニターディスプレイが設置され、こちら側の機械から支持を飛ばすらしい。
「んじゃ、収録室に入って準備をお願いねー。」
「分かった、えっと、確か音が鳴るモノ外した方がいいんだよな。」
「出来ればでいい・・・大体は編集で消せる。」
「じゃ、このままで・・・」
奏多は収録部屋に入ると、シンとした空気に違和感を覚えつつも、ヘッドホンを付け、台本を台本立てに置いた。
『あーあーあー、こちら刹那、こちら刹那、マイクテス、マイクテス―—————聞こえる~?』
「あぁ、ちょっと大きい位・・・」
『オッケー。じゃあ収録開始するからお兄ちゃん、声整えたりして準備できたら右手上げてね。』
奏多は軽く咳ばらいや、持ってきた水を口に含み、深呼吸—————
そして、右手を上げた。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1————スタート!』
そこからは台本に綴られた『おはよう』や『ありがとう』などの日常会話のセリフを指示された感じに何パターンかに分けながら読んでいた。
「なぁ、このD〇O様風に『無駄ッ』って本当にしなきゃダメか?これって確かセールス電話避けだったよな。」
『要る!!要るって!!電話越しに『無駄ッ』って何回も聞こえたらやばい家ってブラックリストに乗るよ!!絶対!!』
目を血走らせながら訴える目の前のプロデュースの声が大きすぎてもう、耳が持ちそうになにので仕方がなく従う事にした。
そりゃ流石に、もし電話越しに『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!WRYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!』なんて聞こえたら確実にやばい家だと思われるけど・・・
―——何か怪しい・・・そういえば何故か昨日貰ったはずの台本を使っているはずなのに、見たことの無い内容が幾つか書いてある。僕が見落としてたのか?
その後も、ネタ要素満載のセリフが幾つも入っており、元ネタを知らない台詞まであるため途中から調べながらの収録になった。
そして2時間後――――
『お疲れー!!いや~良かったよ!!』
最初から一切変わらない音量で指示を出してくるため耳がおかしくなりそうだ。
「はぁ・・・声優さんて凄いなぁ。こんなに大変な作業をほぼ毎日やってるのか・・・」
改めて声優の方々に尊敬の念を込めながら奏多は収録部屋を後にした。
「ほい、ジュース。結構喉使ったでしょ」
「ありがと・・・って、永遠は何やってんだ?」
永遠の方を見ると、ソナタをギュッと抱きしめながらすぅすぅと寝息を立ててしまっていた。
ソナタの方はというと、永遠の常人離れした怪力のせいで脱出は愚か、締め付けられグロッキー状態と化していた。
「この子、昨日今日と一徹で作業してたから疲れてたんだよ。」
「作業?この収録のか?」
「え、いや。えっと・・・そう!私等のやってるゲーム実況の!!いや~編集は永遠に任せきりでさ~本当に申し訳ないと思ってるんだよ。」
「ん・・・むにゃ・・・・・あ、終わった?」
「ああ、言い設備のお蔭だ、ありがとな二人とも。」
何で僕が感謝するのだろうか・・・とここでは思わなかったが、後々、とある出来事のせいでこの姉妹に対する好感度が-5000にまで下がる物語はまた特別篇で語るとしよう。
話を戻して、とりあえず仕事の終わった奏多が帰ろうとすると、奏多の腕はふくよかとそうではない胸を当てられながら固められてしまっていた。
「ご飯食べてってよ。」
「・・・妹の手料理は高いんだぜ」
「でも、お前らの食事って・・・」
何時しかのこいつらの昼食を思い出す・・・
缶詰にカロリーバーなど、手料理の要素など皆無だったはずだ
「ふっふっふ・・・あたし達も進化するのさ。」
「EV-EV-EV-EVOLUTION」
「何でラップ風に乗ってるんだよ・・・まぁ、いいよお腹減ってるし、奏たちも今日は出かけてるから。」
乙家のリビングのソファに座ると、逃げてくるようにソナタが奏多の膝上へとダイブした。
その身はガタガタと震えており、息も荒れていた。
「どうした?何があった?」
二人が厨房に居るとはいえ、普通通りには話せないので、聞こえるか聞こえない位の声で話し始めた。
「あ、あの・・・胸がでかい方のお前さんの妹君・・・が、容赦なく、体のあちこちを撫で繰り回すわ、抱き着くわ、終いには匂いまで嗅ぎ初めて、頬ずりするわ、もう・・・儂は、嫁入りできぬ。」
一緒に風呂入ってるのに、こういうのダメなんだ・・・
「はは、あのお前へのスキンシップは結構重そうだな・・・けどあいつあんなに猫好きだったんだな。」
実は先日、勉強会で奏多の部屋に置いてあった猫特集本を見て、奏多と話が出来ればといろいろ調べている内に猫好きになってしまった事は、結局詰まる所、原因は奏多にあるという事は誰も知る由も無かった。
そして30分後、机の上には素麵と数種類の天婦羅が盛り付けられており、見た目だけで言えば95点くらいだった。
「おぉ・・・意外だったぞ、お前たち。いやホントに、本当に意外だった。お前たちにこんな才能があるとは・・・・」
天婦羅は油モノの中でも極めるのは難しい料理の一つだが、この天婦羅は揚げ具合も素晴らしく、食欲をそそられる。
「ふっふーん!!まぁ、食べてみてよ!!」
「・・・おあがりよ。」
そう言われては仕方がないので、とりあえず一番上に盛られている蓮根からいただいた。
サクッ、と良い音が口の中で響く。
うん、普通に美味しい。
では、次はこの鳥天らしきものを・・・
と、次なる天婦羅を噛んだ瞬間、鶏肉ではないモシャッとした触感が歯を襲った。
「おい、この物体は何だ?」
「うん、カロリーメイト(プレーン)だよ。」
「・・・栄養価ばっちり。」
良く見ると、上の方に盛られている蓮根と大葉以外は何だかおかしい形のしたものばかりだった。
「何々揚げた?」
「蓮根、大葉、カロリーメイト、雪見大福、ドリアン、蒟蒻ゼリー、ポテチetc」
しまった、油断していた・・・こいつらに常識というものが殆どない事を完全に忘れかけていた。
「まぁ、普通のモノなら食べれそうだから、普通に食べるよ。」
素麵と天婦羅の一部を完食し、奏多はふぅ、と息を溢す。
「お兄ちゃん夏の予定とかあるの?」
「ああ、少なくとも2週間くらいは潰れた、そうだ、思い出した。レイラさんが親睦を深めるために南国に行かないかって、どうする?」
「レイラ?あ~あのお姫様・・・」
「・・・私嫌い。」
そう言えば、この二人は屋敷に侵入して返り討ちに遭った経験があるから、行かないか・・・
「行くよ、あのメイド擬きを旅先で負かしてやる。」
「あの男装野郎は私が殺す・・・」
よほど恨んでるな、この前の勉強会の時凄く我慢してたんだろうな。
「流石に殺し合いとかは止めとけよ。向こうで大騒ぎになるぞ」
「いや、もうすでに計画は進んでいる。」
「そう、既に計画の7割は今日完成した。」
「計画?何だ一体?」
「あ・・・い、いや!!何でもない!!こっちの話!!」
何だか怪しいな、永遠も7割出来たとか言ってたし、また何か企んでいるに違いない、止めなきゃいけないなぁ、もう、仕方ないな。拷問でもして割り出さないと。
「おい、お前たち、正直に言えよ、一体何を・・・た、くらんで、いる?」
何だ?舌が上手く回らない・・・しかも、体が・・・動かない、というより痺れている?
「ふっふっふ・・・今更気がついてももう手遅れだぜ!!お兄ちゃん」
「・・・一服盛りやした。」
と永遠の手には怪しげな瓶が握られていた。
「そ、れは?」
舌先も痺れてきた・・・筋弛緩剤の類か?
「・・・これ?象でもイチコロの痺れ薬を5倍強くした奴・・・天婦羅粉に混ぜた。兄ぃ、薬効きにくいから。」
だとしても限度というモノもあるだろう、強すぎたら危うく心臓までも止まってしかねないから、本当に危ない。
そんなツッコミも言えるわけも無く、奏多は力なく床に倒れ、口から涎が無意識に垂れる。
「ふへへへへ、これでようやくお兄ちゃんを好き勝手できるぜ。」
「・・・貞操奪取。」
もはやこの二人が性犯罪者に見えてきた。
兎に角、この非常にマズい状況下で行える行動はかなり限られてくる。
①必死に抵抗する。
②誰か仲間が来るのを期待する。
③諦めて貞操を奪われる。
まぁ、②は論外だ。この状況下で外部から助けが来る確率はほぼ皆無だろう、あのお姫様だって流石に衛星とか使って監視とかは無理そうだし。
①は、出来ればやってる。万一動けたとしても、薬物でかなり動きが低下している状況でこの2人に勝つのはチョロQでF1に勝つようなものだ。
となると・・・③しかないのか。
―——うん、終わった。靫空奏多、この夏童貞卒業。
魔の手は即座に奏多のシャツとGパンをはぎ取りトランクス一枚になった。
「うわぁ・・・お兄ちゃんの身体、えっろ。」
「・・・筋肉の付き方がベリ―グ―!」
滑らかな手つきで奏多の上半身を弄繰り回し、彼女らも胸や身体を重ね普通に見ればエロい絵になり、次第に息が上がってくる2人に対し、奏多は感覚も何もないし、表情筋すら動かないので人形になった気分だった。
そしていよいよ、彼女らの目的、メインディッシュであるものを拝めるために、その薄い一枚の布に手を掛けた、その瞬間、ソファの方から凄まじいスピードで一匹の獣の一撃が姉妹の顎を瞬時に捉えた。
「ソ、ナタ・・・おま、え・・・・」
「主よ、逃げるぞ!!今の一撃は効いたが恐らく浅い!!と、言っても無理か!!」
ソナタはドロンと幼女の姿に変身し、奏多の荷物を背負い、奏多の足を引きずりながら急ぎバイクに乗せられると自動運転で乙家を後にした。
因みに、奏多はパンイチソナタは全裸なので、今近所の人に見られたら確実に逮捕される為、自動ナビの項目にソナタが人気の少ない山道を選択し、凄まじい速度で遠い回り道を行った。
だが、そこは配慮したのか、奏多を乗せた後は猫の姿に戻り、鞄に入った。
そして、自宅に着くも、全身に力が入らず、立つことすらままらなくなったため、ソナタが再びリビングまで引きずる形で無事帰宅した。
「そ、な・・・た、おね、がい、が・・・・・ある、しお、みずを・・・・」
懸命に口を動かしソナタに台所に行ってもらいペットボトル2本分くらいの塩水を用意してもらった。
「の、ま・・・せ、て。」
ソナタは言われた通りに塩水を奏多の口に流し込むと、案の定、奏多は吐いた。
胃の中の者が逆流し、天婦羅や素麵が胃酸と共に床にぶちまけられた。
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、すぅぅぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
深い深呼吸と共に、奏多はフラフラと立ち上がり、今度は砂糖水を作り胃に押し込んだ。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ――――――死ぬかと思った・・・」
床に吐いた吐瀉物を素早く処理し、奏多はソファにドスンと横になった。
「まさか、塩水で胃の中のモノを吐きだすとは・・・」
「塩水洗浄だよ、大量の塩水を飲んで、二日酔いとか治すために使うんだけど、今回は本当に賭けだった。毒素が体に完全にめぐる前に吐き出せなかったら心肺機能とかも停止しかねないからね。いや、ホントに助かった。ありがとう、ソナタ。」
奏多はソナタの頭をよしよしと撫で、奏多はぐったりとそのまま力尽きるように寝てしまった。
◇
そして、また夢を見る。
あの夢、星空の見える、夢だ。
決して記憶にない、ただの夢。
10秒に一度流れる流れ星、願い事の掛け放題の流星群。
隣で声が聞こえる。女の子の声。
横を見ても、顔が見えない。モザイクが掛かる様に、姿を、存在を隠す。
だが、不思議と心が落ち着く。
『ねぇ、キミは何になりたいの?』
そうはっきり聞こえた。初めて聞くのに、何だろう心が締め付けられる。
だが、僕は何も答えられない。夢に返事は出来ない。
『そっか、それがキミの夢なんだね。』
・・・何も言ってないのに、何故この子は喋るのだろう。
『ボクは、キミの夢を共に見届けるよ。絶対。だって、キミ1人じゃ、それを成し遂げたときに誰もいなきゃ悲しいと思うし、ボクとキミの2人だったら絶対に成し遂げられるよ!!』
君は誰なんだ?
『ずっと、一緒だよ。』
誰なんだ?
『たとえ死んだとしても、ボクはずーっとキミと一緒さ。』
誰?
そして、少年は目覚める。
◇
「・・・・・あれ?」
目が覚めると、心配そうな顔で奏多の顔を眺める妹の奏と居候の紅葉がいた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「何が?」
「いや、だって・・・泣いてるんだもん。」
頬を触り、涙が流れていたのを確認し、奏多はゴシゴシと目を拭いた。
「変な夢でも見てたのかな・・・覚えてないや。」
「それにしても、奏多殿。その格好はどうなさったのですか?下着一枚とは・・・しかも良く見れば顔も窶れておられる。どこか悪いのですか?」
そういえば、パン位置で乙家を脱出してきたので、シャツとGパンは乙家に放置しっぱなしだ。幸い荷物はソナタが回収しているため財布や携帯などの貴重品も無事だ。あの二人は次遭ったら半殺しだな。
「いや、ちょっとしたアクシデントがあっただけで問題はないです。はっ!!今何時です?」
「えっと、5時30分です。」
「ご飯の準備しなきゃ・・・」
奏多は急ぎソファから立ち上がると、足の根元から力が抜けるのを感じたが2人の前で迷惑を掛けるのはこりごりなので、コケる手前で踏みとどまった。
「今日はシンプルにTKGにしよう。」
というのも、この腕ではフライパンを持てないし、包丁を使うのは危ない。
もう今日は全開で手抜きをしよう。
夏休み初日の感想:妹分に貞操を奪われかけた挙句、薬を盛られ死にかけた。
【次回に続く】
如何だったでしょうか?少し長くなってしまい申し訳ありません。
最近は沼ってるソシャゲの夏イベキャラをコンプして慢心していますが財布が寂しいです。
上で述べた通り夏風邪を引いてしまい、もう喉が痛すぎて喋れません(悲)
皆様も残りの夏もお気をつけて過ごしてください。
では、また次の物語で会いしましょう
大会、ご挨拶、家庭教師、少年の予定は埋まっていく。ていうか、君バイトはどうした!!
次回: ときめき奏多メモリアル 中篇 その②【Why I am attracted to you】 お楽しみに!!




