表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

エピローグ 決別

 山根と冴木、二人を乗せた観光バスは終点『青木ヶ原樹海』に停車した。時間は午後4時を過ぎて、日が傾き始めていた。普通、この時間に樹海に来る人はいない――特別な理由を除いては。

 山根がこのバスに乗車した時の事。何気なく窓を見ていたら、その中に見知った人物を見つけた。山根の会社に採用面接にやってきた冴木裕也であった。まさかとは思ったが、このバスに乗ってきた。たまらなくなって声を掛けた。

 冴木は、就職活動がうまく行かず悩んでいた。世間では、就職氷河期が終わり、売り手市場ともてはやされているが、現場はそんなに甘くなかったのだった。100社以上受けても採用通知が来ない。一方で、同じゼミ生は沢山の採用通知をもらう。そいつは「就活なんて楽勝!!」と触れ回っていた。焦って必死になってもうまくいかない。何がいけないんだ……!と悩み続けた。

 山根はこれを聞いて思った。別に若いんだから、結果を先急ぐ必要もないのに。

 逆に、山根の悩みは冴木には理解し難いものだった。就職して自立して生活できているのに、何を深刻に悩むところがあるのだろう、と。“生きるモチベーションが無い”苦しさは、理解してもらえなかった。

 お互いの悩みは、理解されないまま目的だけを共有した。

 二人はゆっくりとバスを降りる。バスから出て深く深呼吸をする。

 そのまま真っすぐ樹海の方へ歩いて行く。舗装されている道と樹海との境目に立つ。そのとき二人は、自然の存在感にただただ圧倒されるのだった。しばらくぼうっと立ち尽くしていた二人。意を決して中へ足を踏み入れようとした時。

「お兄さん!! お兄さん!! ちょっとお兄さんったら」

 近くの土産物屋の店主が呼び止める。どうやら自殺志願者が来ないかずっと監視していたらしい。

 呼ばれても止まらず、樹海へ入ろうとしていたので、力ずくで止めようとしてきた。その手も振りほどき、二人は走りだした。

「おいっ!! 待ちなさい君たち!! け、警察!! 警察に電話だ!!」

 後ろのほうで何か叫んでいる声がする。が、気にせず走り続けた。ちょっと中に入っただけで、途端に足場が悪くまともに走れない地形になる。足を取られてたまらず転ぶも、気にせずしばらく走り続けた。

 そのうち二人ははぐれて別々になってしまう。だが、不思議と不安になったりしなかった。

 もう、自分がどこにいるのかもわからない。どっちにいけば外に出られるのかもわからない。目の前に広がるのは、鬱蒼と生い茂る木、木、木。空は葉と幹で覆い被され、視界を薄暗く遮っていた。

 山根は疲れ果てその場に倒れこむ。

 終わった。これで終わったんだ。苦しみから開放されて楽になれるんだ。目を閉じ、その瞬間が訪れるのをひたすら待ち続けた。意識を失うまで……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ