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温かい明かり  作者: 松田
16/18

振られた

店に入り、先輩を探してみたけどまだいないみたいなので適当な席をとって先輩がくるまでドリンクバーでねばっていた。

先輩が指定したファミレスはまだ昼前ということもあるのだろうが全然客が入っていない。

3杯目のカルピスを飲んでいる時に先輩は店に来た。

昨日とは違い、少しやつれた顔をして、首にはガーゼをつけていた。

「おはようございます」

「おはよう」

短い挨拶を交わして先輩はドリンクバーを頼み、コーヒーをついで席に戻った。

「先輩やつれましたね」

ああと短く答えて、先輩はコーヒーを啜った。そんなコーヒーを飲む仕草にさえいつもの先輩を感じない。電話でも一応謝ったけれど、もう一度謝っておこうと思った。「先輩、昨日はすいませんでした」

「いいんだよ、それはもう。お前の行動は正しいよ」

コーヒーをまた啜り、明香理1人に専念するよと言って笑った。

「先輩、そのことで俺、話があるんです」

「ん?明香理がどうかしたのか?」

口が乾いてしょうがない。このままじゃまともに言える自身がないから、俺はカルピスを一気に飲み干した。

両手をテーブルに付き、頭を下げる。「篠田さんを俺にください」

「は?お前、え?何言ってんの?」

「篠田さんを俺にください」

「どういう事だよ」

「俺、先輩が浮気してるかもしれないって篠田さんに相談受けてたんです。それで何度か会って話してるうちに」

「好きになったのか」

「はい」

先輩の顔がだんだんとくしゃくしゃになっていった。

「明香理はなんて言ってんだ」

「篠田さんは……俺が付き合ってくれとたんだ時は受け入れてくれましたけど、今朝は迷ってるみたいでした」

先輩の俺を見る目にだんだんと光がなくなって、ちょうど先輩の飲んでいるコーヒーのように真っ黒になっていく。

「だから、今朝篠田さんに手紙を書いてきたんです。先輩を振って俺と付き合ってくれるならこの場所に来てくれって、この店の場所も教えました。だから先輩、篠田さんがここに来たら、篠田さんを俺にください」

少しの沈黙が生まれた。それは俺にはとても長く重苦しいように感じたけれど、先輩がコーヒーを啜るとそれもどこかへ消えてしまった。

先輩は真っ直ぐ俺を見据える。「わかった。明香理がここへ来たらおれは大人しく引き下がろう」と言って先輩は薄く笑った。

「けどなあ、都合のいい話かもしれないがおれは明香理を信じるぞ」

先輩の声色にさっきまでの驚きや怯えはない。

「今朝明香理はおれかお前か迷っていたんだろ?ならおれのところへ残るさ。あいつはおれの元へ来る。最後に少しでも可能性があるのなら、おれはそれを信じてやる」

そう畳み掛けると、先輩はコーヒーを飲んでたカップを持って席を離れた。俺もまた、カルピスをついだ。

それからは先輩と篠田さんを閉店まで待ちながら世間話をし続けた。一旦話し始めるとさっきのいざこざはどこかへ吹き飛んでしまったかのように俺と先輩は普通に話せた。途中この近くで事故があったらしく、外はだんだんと慌ただしくなっていった。俺の心より慌しい外の音が、逆に少しリラックスさせてくれた。

今の俺ならいつまでも先輩と話せていたと思う。けれど、いつまで経っても彼女は来なかった。

「おれの勝ちだな」

「はい。お騒がせしてすいませんでした」

店を出るとどんどん篠田さんに振られたという実感が湧いてきて、電車の中ではまだ大丈夫だったのに、駅から家にかけての道で我慢できずに泣いてしまった。

途中コンビニにより、飲めもしないビールを何本も買った。

家で適当なニュース番組をつけてそれを煽っていると、今日俺と先輩が勝負した辺りが映っていた。

右から左へ流れていく音を聞き、ごちゃごちゃと光るだけ光っている画面を眺めていると、篠田明香理の名前が報道されていた。

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