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パレード

荒廃した世界で 私と君と

 首が痛くて仕方ない。瞼が重く、腕を動かすたびにチクチク痛い。


 風がうすら寒く体に通る。閉じた瞼は暗闇のみを映し出し、恐怖の感覚のみを、烙末に与える。周りに咲く花々が怪訝そうに咲き誇り、朽ちた神殿が冷たく烙末を見つめている。


 烙末が何とか目を開いたとき、そこは見知らぬ廃街であった。


 巨大なビル群の立ち並ぶそこは、しかし自然の侵食を受け、全く機能を停止させていた。街は謎の言語で書かれた文字列の羅列で埋め尽くされており、その文字を避けるように草花や木々が侵食していた。


 その中心には、巨大なビル群が倒れ、集結し球状となったでかいランドマークがあった。そこには自然の侵食はなく、ビル群の残骸の集積しかない、異様な光景であった。


 烙末はとにかく痛む体を起こし、何が起きたのか把握しようとした。痛みの中散策すると、やはり元々人間が住んでいた形跡があった。広告や商品、映画のポスターや本があちこちにあった。


 しかし妙なのは全く見たことのないものばかりだということであり、烙末はなぜ自分がここにいるのかが理解できなかった。どうしてこんなところにいるのか、記憶が定かではない。


 「どうしてこんなとこにいるんだろ。」


 烙末はそう思いながら、しかし


「大学に連絡せんとまずいよなぁ。」


 なんてことを考えていた。


 笛の音が聞こえてくる。太鼓のリズムと共に聞こえるその音は、どこか不安を感じる旋律であった。近づいてくるその音に、烙末は「やっと人に会えた。」と思い、音の鳴るほうへと走ってゆく。


 夕方を迎えていた。淡い色彩の空を背景に、街の入り組んだ路地を烙末は進んでゆく、リズムは激しさを増し、笛は終局を迎えようと盛り上がりを見せてゆく。


 路地を抜けた大通りに、音楽隊がいた。音楽隊はひらひらとしたシルクの服を着て、仮面を被り踊りながら遊々と闊歩する。軽やかな足使いは、音楽に合わせ幽玄なる情景を築き上げてゆく。


あらゆる色彩の装飾が、様々な形状をしており、絢爛豪華な服装の踊り子が、やはり派手な社に乗ってイロッぽい踊りをしている。


曲の盛り上がりに合わせ、このパレードの参加者がみな合唱しだす。それはどこかで聞いたことのあるようなものだった。しかし烙末はそれがどこかわからなかった。


 その集団の真ん中に、担ぎ上げられた社がある。その社は白が基調で、他の装飾と比べて明らかに特異な存在であった。その中に、ある女が入っている。花嫁衣裳のような純白の着物で身を包み、その様子はパレードが結婚式だということを象徴するものであった。


 しかし、対の夫はどこだろうか。


 合唱の中で、聞き取れる、日本語の部分があった。烙末はその歌詞を注意して聞いてみる。


 「花嫁の、一生の只中で、これほどの美しさはありえない。たとえ、世界が終ろうと、この婚約は永遠に契約を続けるであろう。」


 烙末はどきりとした。女が目の前に現れたからだ。その女はあのパレードと似たような恰好をしており、私はいかにも場違いであった。


 「し、静かに。こっちに来て。」


 もう夜中であった。パレードの明かりだけが街を照らす唯一の光源であり、月は雲にまみれて隠れていた。女を追う。一体「私は何をしてるんだろう。」烙末はそんなことを思いながら、しかしこのパレードの音楽にやられていたからか、この状況を少しだけ楽しんでいた。


 女は元々カフェであったろう場所に入っていった。烙末も後に続く、ミャーという声が聞こえ、扉が閉まる。パレードの音が弱まり、どこか遠くの出来事のように響いている。


 女は猫を撫で、仮面をそこらにほっぽった。女は烙末と同い年か、少ししたくらいで、まだ少女の香りのする女であった。女の着ているシルクの服が、座って捻じれた肉体を強調し、曲線のしなりが、烙末の心を奪っていった。


 彼女は微笑しながら言う。


 「貴方、どこから来たの?」


 「さあ、分からない。覚えてないんだ。気づいたらこんなとこにいて、気づいたら君と話してる。」


 「たまに、そういう難民が流れ込むことがあるわ。貴方もソレ?」


 「いや、違う、ここに来たくて来たわけじゃない。気づいたらここにいたんだ。」


 彼女は烙末の言葉を無視するようにこう言った。


 「あなたみたいなよそ者がここに居ちゃダメよ。きっと、血の気の多い奴なら殺しちゃうわ。そのくらい、神聖な場所なの。」


 「神聖な?ただの廃墟の様にも見えるけどね。」


 「あの、中央にある球体は、私たちには何よりも大切な場所なの。それをめぐって、たくさんの戦争を繰り返したから。だから、戦争を経験した親を持つ世代はほんとに血気盛んなの。


迷い込んだ旅人を殺して獅子の餌にするくらいにはね。」


 烙末は訳が分からなくなった。「何の話をしてるんだ?」と聞こうとした瞬間。地鳴りがしてさえぎられた。カフェの少ないグラスが地面にたたきつけられ、窓はカタカタ音を鳴らして反響する。

 

「まずい、気づかれてる。どうして…早くにげて、奴らが来る。」


 地鳴りの後、天から女の歌い声が聞こえてくる。天から降りてくる女達は甲冑をまとい、燃え盛る炎と共に、凱旋の如き快活さを持ち羽を携えた女たちは、ワルキューレの旋律の如き圧倒を与える。


 しかし、とにもかくにも、烙末は逃げねばならぬらしい。烙末は名残惜しくも、曲線の美女の元を去りゆく。そういえば「名前を聞きそびれたなあ。」そんなことを思いながら。


読んでいただいて本当にありがとうございました。


少しでも「おもしろい」「続きが気になる」とおもってくださったなら↓の☆☆☆☆☆を押して評価をくれたら幸いです。


この本があなたの糧になりますように。

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