↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/7

1.『大人になってお互い婚約者が出来なかったら、婚約しよう』はない

 麗(うら)らかな春の日差しのなか開催したガーデンパーティーが恙無(つつがな)く終わり、お客様のお見送りも済んだ後。

 それまで大人しくいい子にしていた5才の娘が、眉を顰(ひそ)め、目は据(す)わり、顔を真っ赤にして振り返った。


「えっ?どうしたの、アリューマ」


「おかあさま、おとうさま、わたくし、モテモテになります!」


「えっ?どうしたの?」


「わたくし、きょういていた、リオリスが、おとなになって、おたがい、こんやくしゃができなかったら、こんやくしようって」


「ええ、言っていたわね」


 覚えている。


 どうやらおやつを満面の笑みで食べていたアリューマが可愛かったようで、照れながら耳を赤くして帰り際に言っているところを見かけた。

 うちが所属している派閥と、リオリスの所属している派閥は仲が良い。リオリスは伯爵家の長男なので、家格も同じで結婚相手としては悪くはない。


「わたし、あまったらけっこんしようといわれたのです。あまるとおもわれているのです」


「え、いや、そういう意味では無いと思うわよ?ほら、大きくなるまでに派閥が変わったり、えっともっと・・・」


 もっといい相手を見つけたり、と言おうとして言葉を切った。

 確かに、派閥が変わろうがもっと美人でかわいい女の子がいようが関係なく結婚したいと言われたわけではない。


 可愛らしかったし、照れているのが見え見えだったので流してしまったが、言葉だけ受け取ると、とても結婚の約束をするようなロマンチックな言葉ではない。


「おかあさま、モテモテになるので、いっしょにさくせんをかんがえてくださいませ」


 ガーデンパーティが終わったばかりだったので、温室で落ち着くように言いつけて、片付けの指示をしてから娘と向き合った。


「アリューマ、落ち着いた?」


「はい、おかあさま、おちついたわ」


 娘はお気に入りの花壇の前にしゃがみ込んでいた。

 落ち込んだり泣いたりするとよくきているので、きっとアリューマにとっては悲しい出来事だったのだろう。


「おちついていきたら、はらがたってきたわ」


「まぁ」


夫に似たのか、なかなか気の強い子だ。


「おとなになって、おたがいこんやくしゃができなかったら、こんやくしようと、いってたけど、リオリスはあとつぎ?だから、きぞくの、あとつぎは、もてるから、リオリスがおおきくなって、こんやくしゃができないことって、ないな、っておもったの」


確かにそうだわ。


「そうね。よく知っているわね」


「ニーナとリリィがせんたくしながらはなしていたの。えっと、ねらったけどいっぱいあとつぎはかこまれていたって」


 若い洗濯場のメイドだわ。確か男爵家の娘。学園に通っていたなら跡継ぎを狙う令嬢をよく見ていたでしょうね。


「だから、リオリスがこんやくしゃができないって、ないの。だから、あれ、わたしはこんやくしゃができないかわいそうなやつだからこんやくしてやるって・・・しかも、わたしのおへんじ、きかないでかえったの」


 思い出したのか、くしゃっと表情が歪む。よほど悔(くや)しかったのだろう。


「びっくりしてそのままみおくっちゃったけど、ちゃんとことば、いえたら、ぜったいにいやだっていったのに」


 うん、あの状況でそれはちょっと不味いわね。

 今回のガーデンパーティは庇護してもらっている侯爵家の依頼で主催も我が家ではなく侯爵家になっている。

 国で一番大きいモンマール湖の湖畔に建っている我が家のマナーハウスの庭を使用したい、という依頼があったからだ。


 今回呼ばれた人々は侯爵家の派閥と、別の侯爵家の派閥との友好的な関係を維持・強化する目的で開かれている。相手方の当主が釣りと船遊びが好きでモンマール湖でという話になった。

 そんなパーティーで、子どもの言葉で言い方が悪いとはいえ、『大きくなったら婚約して』という言葉に娘が激怒し泣いて嫌がった場合、いろいろと心象がよくない。


 でも、これは大人の都合で、アリューマが嫌だと感じたこととは関係がない。


「そうね、次はちゃんと言葉で断れるように、一緒になんて言えばいいか考えましょう」


「はい、ぜったいにいやですって、ちゃんというわ」


「アリューマ、モテモテになるには、相手を傷つけない断り方を覚えましょうね」


「?とてもしつれいなことをいわれたのに?」


「ええ、相手が失礼だからといって、自分が失礼でいいというわけではないわ。それに、品性がある人の方がモテるわ」


「なるほど、もてもてになるには、リオリスみたいになってはいけないのね」


 うーん、今日一日でリオリスがとても嫌いになったみたいね。


 照れているのが見え見えだった『おとなになって、おたがい、こんやくしゃができなかったら、こんやくしよう』と言ったリオリスの顔を思い浮かべる。

 そして、「おかあさま、おとうさま、わたくし、モテモテになります!」と言った悔しそうな娘の顔を思い浮かべる。


 娘にもし婚約の打診が来ても断りましょう。まあ、子どもの口約束ですし。


 後日、打診が来た。

「『おとなになって、おたがい、こんやくしゃができなかったら、こんやくしよう』と言っていたけど、すぐに打診が来たから、『状況が変わったら婚約しない』という事ではなかったようだけど、どうする?」

と聞いた所、

「ぜったい、いや」

とのことだ。


 すぐにお断りの連絡を入れた。角がたたないように侯爵家にも一報を入れて念入りに対応した。

 アリューマがもう嫌っているもの。


 言い方ってとても大切ね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。