↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

変化


 目が覚めると体に違和感を感じた。何かがおかしい。そう思って下を見ると胸元に二つの膨らみがあり、下半身からは長年連れ添った相棒が消えていた。


「……は?」


 声も違った。鈴を転がすような、高い声。自分の声じゃない。


 昨日まで秋元健太だった男は、震える手で自分の顔に触れた。小さな顎。薄い唇。


 洗面台の前に立った鏡に映っていたのは、見知らぬ少女だった。いや、完全に見知らぬわけではない。面影は残っている。でも、間違いなく——女性だった。


 長めの黒髪が肩に触れる。大きな目。白い肌。華奢な体つき。


「マジかよ……」


 口から出たのは溜め息ではなく、甘い吐息だった。


 スマホを握りしめる。日付は変わっていない。昨日、深夜三時までゲームをして、そのまま眠っただけだ。特別なことは何も起きていない。はずなのに。


 病院に行こう。そう思った。でも、保険証の性別が合わない。そもそも、この体をどう説明すればいいんだ。



 とりあえず、大学に行くのは無理だと判断した。 その時、Gmailで一件のメールが届いていることに気がついた。



 差出人は大学の保健管理センター。


『秋元健太様の出席記録について——』


 件名を見た瞬間に頭が痛くなったが、そんなことどうでもいい。


 とりあえず着るものが必要だ。自分のTシャツはブカブカで、胸元が空いている。デニムのズボンは腰で止まらない。


 結局、コンビニで買った安いパーカーとレギンスで済ませた。髪を束ねるゴムも買った。レジで店員に「お姉さん」と呼ばれて、心臓が跳ねた。


 外に出ると、世界が少しだけ違って見えた。背が低くなったせいだろうか。視線の高さが変わっただけで、街が別のものに見える。すれ違う男性の視線が背中に刺さる。今まで感じたことのない種類の視線だ。


 とりあえず、駅前のベンチに座ってスマホを開いた。


「TS病」


 検索窓に打ち込んだ文字は、最初は冗談だった。でも、検索結果に出てきた記事を読んで、指先が止まった。



『TS病——突発性身体性転換症候群。原因不明。主に二十代前半の男性に報告。身体的特徴は完全に女性化する。治療法は確立されていない——』


 それからその記事を必死に読んだ。症例は少ないけれど存在していて、国の機関が認知している病気だった。診断書が出れば、性別変更も住民票の修正も制度的に可能らしい。


 でも、一つだけ問題があった。


 それは手持ちの現金が残り二万三千円しかないこと。来月の家賃は支払えない。それにバイト先にはこの体で行けるわけがない。親に電話して「お母さん、女になりました」と言う勇気もない。



 アプリを開いた。何を探していたのか、自分でも分からなかった。たぶん、誰かに助けを求めたかったんだと思う。


「美少女養いたい」


 その投稿を見つけたのは、偶然だった。投稿主のアカウント名は「坂井京子」。プロフィールには「イラストレーター」とだけ書いてあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。