恋の天使の初仕事
確認した後で、朱里はあることに気が付く。
そういえば、どうやって、その人の居場所を探せばいいんだろう。
『私がナビゲート致します』
そうなんだ。ありがとう!!
【世界の理】っていろいろと便利だな。
じゃあ、早速、最初の人の居場所をお願いします!!
『街道にいます。もうすぐ通り掛かります』
そう告げられて、慌てて、朱里は、道行く人々の名前を確認する。
***さん……あっ、あの人だ!!
よし、弓を構えて……っと。
思い切って紅の矢を射る。
しかし、紅の矢は標的の横をすり抜けて……左前を歩いていた人に当たってしまった。
あー、どうしよう、蒼の矢で射ないと……。
朱里は、慌てて、蒼の矢をつがえる。
そして、思い切って、蒼の矢を放った。
しかし、蒼の矢は標的に当たらず、本来の紅の矢の標的に命中する。
あー、ややこしいことになっちゃった、どうしよう……。
こうなったら。
朱里は、蒼の矢を手に持ち、標的に向かった。
幸い、標的は歩いていたため、すぐに追い付くことが出来た。
標的に一気に近付き、ずぶりと蒼の矢を刺す。
これで、こっちは解決っと……次は、もう一回、紅の矢だ。
朱里は、今度は紅の矢を手に取ると、標的まで走って行き、ずぶりと刺す。
ふぅ……結構、時間がかかった気がする。
どのくらい時間がかかったんだろう……。
『10分程度です』
10分かぁ……でも、この流れは辛い。
矢も命中しないし……。
この調子だと、仕事が捗らないし、早速、次の標的に向かわないと。
巻物を開いて、対になっている女性の名前を確認する。
『標的の女性は、家にいます。
ここから歩いて15分ほどです』
歩いて15分……それなら、飛んで行った方が早いんじゃないだろうか。
我ながら名案!!
そう思った朱里は、翼を広げて……大きく揺らした。
ふわっと身体が宙に浮く。
更に、バサバサッと大きく翼を揺らした。
少しずつ上に上がって行くが、ほんの少しずつだけだ。
続けて、バサバサバサッと翼を揺らす。
身体は上がっていくが、バランスが上手く取れない。
そちらに気を取られていたら、下に落っこちてしまった。
くぅ……これなら、走って行く方が早い!!
朱里は、標的の女性の家まで、全力で走って行った。
背中の羽が重たい。今となっては邪魔でしかなかった。
女性は、幸い、まだ家にいた。
近付いて行って、ぶすりと紅の矢を刺す。
これで、二人が両想いになったはずなんだけど……。
でも、確認しないと、なんか不安だな。
少しこの女性を追跡してみようかな。
そういえば、女性に直接矢を刺せる距離まで近付いたのに、
私の方に気が付いてる様子はなかったな。
つまり、人間界では、天使は目には見えないし、気配にも気付かれない存在らしかった。
朱里は、女性の側でしばらく待機する。
30分ほど待った頃だろうか。
とんとんと家のドアをノックする音がした。
女性が応対に出る。
すると、そこには、さきほどの紅の矢の標的の男性が立っていた。
「待たせて済まなかった」
「おかえりなさい、1年ぶりね」
二人は、軽く抱擁し合う。
「今日は、伝えたいことがあって来たんだ。
少し付いてきてくれないか?」
後をつけていくと、教会が近付いて来た。
二人は教会へと向かっているようだった。
朱里は、こっそりとつけていく。
教会の女神像の前まで来て、男性は止まって、女性の方を振り向く。
女性は、少し頬を赤く染めていた。
「これを受け取って欲しい」
「これは……結婚指輪?」
「今日こそは、伝えようと思っていた。
私の妻になってくれないか?」
「ええ、喜んで」
「ありがとう」
男性は、妻となるべき女性を抱きしめた。
女性も男性の腰に手をまわす。
二人は、抱きしめ合っていた。
その様子を陰からこっそりと確認していた朱里は、結末に満足して、そっとその場を離れる。
なんだか、悪いことしちゃったかな……。
でも、どうせ気付かれてないし、お仕事だから、仕方ないよね。うん。
さっき、「今日こそは」って言ってたな。
それまでも、恋人同士だったのかな。
紅の矢で射抜いたから、結婚するって流れになったのかしら。
そういえば、人間界でのお仕事は、恋を成就させることだって言われたし……。
【世界の理】さん、二人はもともと恋人同士だったんですか?
『おそらくは……。ただ断言は致しかねます。
私にも、人間界の人々の一人一人の詳細までは、把握し切れていないのです』
そうなのかー。じゃあ、想像するしかない訳だ。
でも……出来れば、こういうカップルが多いといいな。
朱里は、次々と、恋を成就させていった。
あるカップルは、お互い素直になれず、ケンカばかりしていたが、
紅の矢を射ると、突然素直になり、もともと両想いだったと判明し、結婚が決まった。
あるカップルは、お互いにお付き合いをしている人がいたが、
紅の矢を射ると、お互いの恋人に「実は好きな人がいる」と告白をして別れ、
偶然二人が会った時に、男性が女性に想いを告白し、間もなく結婚が決まった。
あるカップルは、女性が何年も男性を想い続けて、ずっと片思いだったが、
紅の矢を射ると、男性は女性がずっと自分を想っていた事実を受け止め、プロポーズをした。
でも、幸せなカップルばかりじゃなかった。
中には、病気でずっと寝たきりの少女とその少女をずっと想い続けている少年のカップルがおり、
二人を紅の矢で射抜いたが、少女は不治の病で、少年に、幸せになって欲しいと最後に言い残し、
少女は少年の頬にキスをして――でも、命を絶ってしまったのだった。
少年は、そんな彼女のお墓に毎日通い続けた。毎日、毎日、泣きながら。
貴族の男性に恋をした召使の女性がいた。この二人も、紅の矢の対象者だった。
男性は、自分の親に召使の女性を愛していると告げたが、男性の親は許さなかった。
召使の女性にあらゆる嫌がらせをし、館から出て行くように、圧力をかけた。
結局、女性は、それらの出来事に耐え切れず、涙を流しながら、館を後にした。
貴族の男性は、女性を追い掛けようとしたが、母親に泣いて懇願され、諦めた。
しかし、男性は、女性を忘れることが出来ないようで、食事も喉を通らないようだった。
段々、男性は、やせ細っていった。その顔には、精気がなく、覇気がなかった。
朱里は、途中で、男性のその後を追うことを諦めてしまった。
余りにも、見ていて、辛かったのである。
そんなカップルたちを見ていると、この仕事にはどれだけの価値があるのだろうかと、
時々、不思議になるのだった。
勿論、幸せに結婚していくカップルの方が全体的に多いのだが、
何故、この二人をカップルにしたのだろう、というカップルも存在するのだ。
巻物を手渡したのは、恋愛の女神である。
きっと何か深慮があるのだろうと朱里は思うが、朱里にはよく分からなかった。
しかし、朱里は、任務をこなし続けた。
恋愛の女神を崇愛していたし、何よりも、この仕事は樹里には楽しかった。
合間に、弓の練習や、飛ぶ練習もして、近距離なら矢も当たるようになったし、
少し遠くまで飛んで行くことも出来るようになった。
そんな時であった。
朱里が、運命の人――その少年と出会ってしまったのは。
明日には、続きを投稿したいと思います。
引き続き、どうぞよろしくお願い致します。




